ほぼ全員にデパケンが処方されている病院 | kyupinの日記 気が向けば更新

ほぼ全員にデパケンが処方されている病院

随分昔、ある病院の当直の際、数人のカルテを見ると、いずれもデパケンが処方されていた。

もしや?と思い他の患者さんのカルテも確認したら、なんと、ほぼ全員にデパケンが処方されていたのである。

統合失調症、躁うつ病、てんかん性精神病、知的発達障害、進行麻痺、認知症に至るまで、全ての人にデパケンが使われているなんて・・

あれはある種のカルチャーショックだった。

しかも・・
全ての人の処方が非常に似ていた。ほぼ1~2種類の抗精神病薬、抗パーキンソン薬、そしてデパケンである。

不思議に思い、その病院に当直に行ったことがあるボスに質問した。

あの処方は、どういうことなんでしょうか?

ボスの答えだが、

実は、自分も相当に驚いた。たぶんあの病院には精神科医がいないんだろう。

この答えも衝撃的である。

更に驚くべきことは、その病院の患者さんたちは、皆、そこそこ落ち着いていたのである。

この事件は、デパケンという薬のいくつかの特性を示唆している。

①デパケンはあらゆる精神疾患で病状を改善する傾向があること。
②デパケンが副作用で服用できない人はかなり少ない。
③デパケンを併用することで主剤の抗精神病薬の特性が曖昧になり、しかも大量に投与する必要がなくなる。


躁うつ病に、あの時代にデパケンが処方されていたのは前衛的ではあった。(←結果論だが・・)

黎明期、精神病院の院長が精神科専門ではなく、常勤医も内科医や引退後の外科医など専門以外の人たちにより経営されている病院があった。

その理由は、精神病院が一度にたくさん建てられた時代、他科から転入して経営者になった人たちがいたからである。(当時、非常に利益が上がる病院形態と思われていた。)

そういう歴史を持つ病院も、今は精神科医が中心に医療が行われていると思う。法律的に、精神保健指定医がいないと経営できないに等しいからである。(内科医も患者さんの内科疾患を診て貰うために常勤していることもある)

それに対し、心療内科クリニックは精神科医でなくても参入していることがある(確率はかなり低いが)。

これは精神科、心療内科が他科の医師に少し勉強すれば誰でもできると思われていることと、精神科だけなら、設備投資があまり必要でないことが大きい(つまり資金的な面で開業しやすい)。

このようなクリニックは、あまりにも専門性の乏しいトンチンカンな紹介状をよこしたり、こちらが詳細を聞くため電話で問い合わせた際、

こいつ、絶対、精神科医ではないな。

思えるフレーズが見受けられる。(うち病院の他のドクターも同じ意見)

つまり、本人はそうは思っていないかもしれないが、精神科医にはモグリというのがバレバレなのである。

今の時代、精神疾患は多様性を増し、精神医療の経験が乏しい医師には手におえない状況になっていると思う。

参考
デパケンRのテーマ
素人の心療内科クリニック
古いタイプの抗うつ剤とSSRI