足を切り落としたいほどの疼痛 | kyupinの日記 気が向けば更新

足を切り落としたいほどの疼痛

院長をしていると、ごく親しい友人に限らず、先輩、後輩にも幅広く年賀状を出さなくてはならない。

こんな風に書いているが、年賀状を書くこと自体はあまりストレスはない。ただ、年末押し迫ってやっと書き始めるので、元日に届かないだけだ。

過去ログに嫁さんとの年賀状の戦いが出てくる。嫁さんの場合、元日に届かないと失礼という強迫観念があり、早く印刷しろとうるさい。嫁さんだけで100枚以上出しているのである。嫁さんは社交的なのであった。

仕方なく、嫁さんの年賀状だけは早めに終える。早めに終わらない年もあるが、そういう年はそれなりに事情がある。僕が年賀状を出すのは早くて30日、遅くて大晦日である。30日でも市内は届くはずと楽観しているが、嫁さんはそれはないという。

精神病院はデジタル式に、各病院の院長には年賀状を出しているようで、精神病院とその院長の個人的年賀状がかぶる。しかし、僕は2通は出さない。僕の年賀状は印刷だけでなく、何らかの短い文章も書くのが特徴である。書く事がないような人にも何らかの文章を書く。だから、年末はそれなりに大仕事である。年賀状は200枚近く出しているから。

問題は患者さんからの年賀状。

これはたいていの場合、病院に来る。これは例年、口頭でお礼を言っていた。

しかし、ある年から患者さんにも書くことにした。たくさん出さねばならないなら、誤差範囲と思ったからである。この年賀状は自分の住所は病院にしているので、長期入院で住所が病院の人は、同じ場所から同じ場所に年賀を出す感じになる。妙なものである。直接手渡した方が良いくらい。(しかしそんなことをすると、年賀状を普段出さない人も出し始めるので、阿鼻叫喚の事態になりかねない)

患者さんの家族からも貰うことがあるが、ここにアップしたいほど感動的な文章もある。

実は、患者さんないし家族から自宅に届く年賀状が数枚だけある(たぶん5枚以内)。

今までにこのブログに出てきた人では、スターオブベツレヘムのおばあちゃんなど。この人は自宅に来ても全然かまわないので、そのままの住所で出している。

このおばあちゃんは今は自宅で生活されているが、入院時、娘が県外から面会に来たとき、驚愕するほど良くなっているので、2人で泣いたという。

その他、ほんの数名に限られるが、過去に勤めていた病院の患者さんから2枚だけ自宅に直接届く年賀状がある。

そのうち1人の女性患者さんは僕がその病院を辞める際に、そのまま置いていった患者さんであったが、数年後、これはどうかと思うほど悪化したらしい。(普通、あまりにも重い人には自宅の住所から年賀状は出さない)。

その患者さんから、うつ状態と疼痛のため、早朝、それも午前4時頃に自宅に電話がかかるようになったのである。

朝4時に起こされるこっちの身にもなってくれ!

だいたい僕が電話に出ても彼女はずっと泣きながらいろいろと愚痴を喋っているだけで、何らかの治療ができるわけではない。本質は疼痛だからである。

ある時、このままではこっちが体を壊すと思ったので、半ば強制的にうちの病院に入院するように命じた。この方がずっと助かる。

ところが、彼女は僕が治療していた時代と病状が様変わりしていたのである。このように重くなった理由の1つはポリサージェリーの傾向があったから。あまりにも多くの手術を受けたために、病状が複雑なものに変貌していた。

彼女によれば、足を切り落としたいほどの疼痛があるという。

まあそのくらいでないと、早朝に電話はかけて来ないであろう。(迷惑なのはわかりきっているので)

彼女は当初は抗うつ剤で治療を始めたが、抗うつ剤を服用すると筋肉の急激な収縮が生じ、転倒するため大変なことになることがわかった。昔と抗うつ剤の反応性が変化していたのである。この変化は謎である。

この人の疼痛は抗うつ剤ではコントロールできない!

特にSSRIは希死念慮や衝動性を悪化させるので最悪である。また、彼女の指の先端部には高セロトニン血症を思わせるチアノーゼ様の発赤が見られていた。その点でもSSRIは合わない。不適切な治療をされているので良くなるわけがない。(この考え方もSSRIは中枢と末梢の作用は同じではないと思うので微妙であるが・・)

仕方がないので気分安定化薬で治療する方針にした。抗うつ剤は処方しないのである。

テグレトール、ラミクタール、トピナはいずれも疼痛に治療的である。アレビアチンだって良い。しかし、うつ状態も含めた総合的な治療と言う点ではいまいちと言わざるを得なかった。

そのうち、リリカが発売された。リリカこそ、彼女に最も適切な薬物だったのである。

リリカは当初、150mg使っただけで下肢の脱力や浮腫などの副作用がみられた。しかし、それ以上の疼痛やうつ状態への効果が診られたのである。

その後リリカを225~300mg投与することで、病院から買い物や美容院へ行けるようになった。副作用も認知面ではほとんどない。また、リリカを服用していると、指から手にかけての異常な発赤がすっと消失している期間があるのである。彼女によると、このようなことは今までなかったという。(高セロトニン血症による血管狭窄が関係していると思われる肢端チアノーゼを合併するアスペルガー症候群の症例報告がある)

彼女の下肢の疼痛だが、実は母親にもやや軽いが同じ症状があると言う。面会時にリリカを処方すると劇的に改善したのである。そのおばあちゃんによると、その疼痛はどこでも良くならなかったので諦めていたと言う。

偶然だけど、彼女に直接年賀はがきを出していたことはなんだか運命的なものを感じる。

普通はそんなことをしないだけに・・

今回のエントリを読むとわかるが、リリカはポリサージェリーやミュンヒハウゼン症候群の人たちに有望な薬物である。その理由は疼痛に限らず、それ以外の向精神作用も持ち合わせているからである。

参考
年末の年賀状
スターオブベツレヘム
リリカのテーマ