広汎性発達障害はなぜSSRIではうまくいかないのか? | kyupinの日記 気が向けば更新

広汎性発達障害はなぜSSRIではうまくいかないのか?

今回のエントリは、「急に部屋を片付けようと思ったら・・」を補足するものになっている。

広汎性発達障害の人はうつ状態ないしパニック、あるいは全般性不安障害、アパシーなどを呈しやすいため、精神科や心療内科に受診すると何らかのSSRIが処方される確率が高い。

しかし、往々にしてうまくいかない。僕は広汎性発達障害ではないにしても、何割かそういう要素が混入している人にはSSRIは処方せず、もう少し工夫をした薬物を使うことにしている。だから、新患でSSRIを処方する確率は、それ以外の疾患を含めても非常に低い。(全く処方しないわけではない。過去ログ参照)。

まず、広汎性発達障害の人で、厭世観、希死念慮、リストカットなどが主訴の大部分を占めているような人はSSRIなんて怖くて処方できない。だって、次の受診日に来ないかもしれないでしょう。(明らかな希死念慮がある人にSSRIを投与するのはリスキーである。)

しかしながら、広汎性発達障害の人にSSRIを処方して一見、非常に効いているように見える人がいるのも事実である。今回のエントリはこの謎について考えていきたい。

SSRIはうつ状態には効果が乏しく、マイナスの感情を改善する結果、うつ状態を改善するという意見がある。

この意見は、前半、後半ともおそらく誤りである。

広汎性発達障害の人でわりあいSSRIがフィットした場合、ロングフライトが生じる。この場合、一見、マイナス感情もほとんど消失しているように思われるのがミソである。これは治療範囲内に入るとも言える、ある種の軽微なアクチベーションであり、正常な治療状態とは異なっている。

これが正常でないことは時間が経てばわかる。

広汎性発達障害の人にSSRIを処方し、すぐに活動性が出て、とりあえず学校(会社)に行けるようになったり、それどころか新しく習い事を始めるとか、これは完治したのではないかと思うほど、様変わりすることがある。

これはおそらく、ある種の麻痺が生じているだけである、言い替えると、脳が痺れている感じ。

ところが、時間が経つと、きちんとSSRI服用しているのに、ネガティブ感情の連続、いわゆるネガティブのラッシュになる人が出てくる。ずっと行っていた学校や会社に再び行けなくなる。こういうネガティブ感情の出方を見ても、本質的にSSRIがマイナス感情を改善しないことがわかる。

なぜなら、広汎性発達障害の人はロングフライトの後、往々にしてポチャンと墜落することが多いからである。ただ、短期ではSSRIの良し悪しがわからない。時にフライトは2年間にも及ぶことがある。

SSRIは結局はマイナス感情をさほど改善しないが、うつ状態を改善しないわけではない。これはわりあい年配のうつ状態の人を治療して、ジェイゾロフトやパキシル、デプロメールで完全無欠と言うほど良くなる人がいることを見てもわかる。

SSRIはハードに切り込むタイプの薬物であり、ハードの健康状態、あるいは発達状態を選ぶのであろう。

だから、SSRIはマイナス感情を改善する結果、うつ状態を改善するという考え方は、臨床での印象を反映していない。たぶん間違っていると思う。そういう風に見えるとしたら、ただの統計の幻影である。(まさか1年後や2年後に墜落するとは思わないため)

合っているように見える時でさえ、SSRIがその人に良いかどうかは短期的には判別が難しい。それはセロトニンの作用が大きいリフレックスなども同様である。急激に希死念慮や衝動、暴力行為が悪化する人は明らかに合っていないと判断できるのであるが。

現代社会の日本人の広汎性発達障害のうつ状態やアパシーはセロトニンではなく、ノルアドレナリンとドパミンに働きかける薬の方がずっと合っている。

実は、ラミクタールのパラドックスにもそのことが映し出されていると思う。