パニック、過食症、抗うつ剤 | kyupinの日記 気が向けば更新

パニック、過食症、抗うつ剤

パニックに過食症を伴う患者さんがいた。彼女が最も困っていたのはパニックだったので、一般的な診断はパニック障害なのかもしれない。

僕は内因性、特に統合失調症を重視しており、脳内はこれが中心に廻っているので、このような神経症圏内の疾患はあまり重視していない。結果的に良くならない人などいないからだ。

彼女は当初、ソラナックスくらいでスタートしたが、スッキリしなかったので、ある期間、SSRIを投与していたことがある。

一般にパニックはSSRIを投与するように言われているが、実際にはアンプリットやアナフラニールなどの旧来の抗うつ剤も有効である。彼女の場合、アンプリットやアナフラニールはどうしても重く、かといって、パキシルやジェイゾロフトも違う意味で重かったので、仕方なくデプロメールを処方していた。

実はこれは良くあることなのであるが、彼女はパキシルは副作用で服用できないが、まだアンプリットは少量なら服用できるのである(使っているうちに次第に慣れた。一時期アンプリットを服用していた時期もある)。

SSRIでもデプロメールはまだ飲めるので、デプロメールを25㎎から50㎎服用していた。補助はソラナックスである。

デプロメールはまだ良いとして、いくつか欠点があった。1つは、デプロメールは今ひとつグズグズした感じで爽快感には程遠く、また不眠を惹起しやすいのである。だからレンドルミンを併用していた。またデプロメール25か50㎎程度では抗うつ作用が不足する。だが、これ以上多くの薬は服用できないのでなかなかコントロールが難しい。

またこれも大問題であるが、夜になると無性に甘いものがほしくなると言い、過食症が出るのである。

元々、SSRIは過食症には悪くはない。しかし、完全に良くなる確率も低く、彼女のようにパニックやうつ状態があることを考慮すると、パニック、うつ状態全般を改善することが過食症治療の近道といえた。夜になると甘いものがほしくなり過食するなんて、いかにも器質性疾患っぽい。彼女のような付録のような過食症はまだ治り易い方である。(ヒステリーは器質性疾患と言う私見を過去ログでアップしている)

彼女は薬に弱く、しかも主治医が推奨してもまともに薬を飲まないタイプなので、けっこう治療に時間がかかった。やがて過食のため70kgまで体重が増えた。

体重が増えたのは、たいして薬を飲んでいないので直接デプロメールのせいとは言い難い。もちろんソラナックスもそうである。

だいたい精神症状の乱れを何でも全て薬のせいにするのは間違っている。

そのうち転機が訪れるのである。本人が嫌がっていたが、いろいろな薬を試みていたので、それが功を奏したといえた。診ている範囲では、デプロメールは彼女のパニック、うつ状態、不眠、過食などの一連の症状をコントロールするのは難しいように思われたからだ。

彼女にはアモキサンが良かったのである。

彼女はアモキサン10㎎、レンドルミン1錠、ソラナックス0.4~1.2㎎でうまくコントロールできるようになった。少量のアモキサンは圧倒的にうつに効いたし、パニックもある程度は抑えるので、全般の精神症状の底上げができた。

それから数ヶ月で体重は52kgまで減少し、今では元気に働いている。なぜ52kgまで減ったのか本人と話し合ったことがあった。彼女によると、夜の過食症がなくなったからという。

この夜間の過食症だが、どうもデプロメールも1枚噛んでいるような気がするのよね。なぜならSSRI的焦燥感が出ていたから。別に焦燥があるから過食症が出るものでもないけど。SSRIで過食を抑えようとすると、ある時、反動で猛烈な過食が生じることがある。1度にファミレスに駆け込み何千円分も食べてしまうとかだ。

こういう風に診ていくと、その薬が太りやすいかどうかなんて、たいした問題ではないことがわかる。一般的にデプロメールよりアモキサンの方がまだ太り易い薬といわれている。一見、より太りそうな薬に変更して過食が良くなっているのである。

つまりだ。
精神症状の改善が過食症の消失をもたらすのである。こういう話は過去ログにもいくつか出てくる。(精神症状の良くなっていない人にダイエットなんて無理という話)


なお、この人は治癒に近い状態になるまで3年近くかかっている。全くやれやれだよ(言うことを聞かないため)。


参考
デプロメールとレスキューレメディ&PMS
パニックがほぼ治癒している人
古典的ヒステリーは器質性疾患なのか?