オフサイド・ガールズ | kyupinの日記 気が向けば更新

オフサイド・ガールズ

昨年の旅行中、飛行機の中で「オフサイド・ガールズ」というイラン映画を観た。これはワールドカップドイツ大会の最終予選の話である。

「オフサイド・ガールズ」は、なんとかスタジアムで観ようと、男装して入るイラン女性サポーターたちの話だ。まさにオフサイドなのである。イランではそのような方法でスタジアムに入ることは処罰され、しかもある女の子は軍服を着ていたため、余計に罪が重くなるのであった。「私は軍服を着ていたので罪が重くなるって言われた」と泣いているのである。

イランといえば、日本がジョホールバルでプレーオフを戦ったことで記憶に残っている人も多いと思う。そのジョホールバルだが、日本は時差もさほどなくイランよりずっと有利だった。イランはジョホールバルまで長い時間をかけて移動しなければならず、また時差もかなりあり、短期間の準備で日本と戦うのは大変な不利と言えた。

あの試合は延長でやっと日本が勝ったが、実力的にはイランが上回っていたと思われる。なぜなら当時のイランには本当に優れた選手が揃っていたし、実際、フランス本大会でも1勝している。アジアのチームがワールドカップで勝つのは大変なことなのである。

イランはジョホールバルで日本に敗れた後、大陸間プレーオフでオーストラリアと戦うことになった。オーストラリアはそれまでヨーロッパや南アメリカ大陸の国とプレーオフを行うことが多くなかなか勝ち抜けなかったが、アジアのイランなら可能性があると思ったであろう。最終的にイランはテヘランで1-1、メルボルンで2-2で2引き分けだが、アウェーゴールの差で本大会出場を果たした。この試合は僕はテレビで観ていたが、2-0で負けている状況からイランが追いつくという劇的な試合であった。たぶん日本にはあそこまでのメンタルはないであろう。

第1戦はテヘランで行われている。10万人ほど入るスタジアムで、応援している人も男だけなのである。イランでは宗教の関係で女性はスタジアムに入れない。と思っていたが、昨年、川崎フロンターレがACLでセパハンと戦った時に女性サポーターがスカーフをかけるという条件で入れたのをテレビで観て驚愕した。

ところで、ドイツ大会予選では日本はテヘランで戦い2-1で敗れている(2005年5月25日)。この時、あまり話題にもならなかったが、日本の女性サポーターは現地に行き、スタジアムに入れたようであった。なぜならその映画で女の子がそんな風に言っていたからである

なぜ日本人は良くて、私達はいけないの?

という質問である。兵士の返答は「日本人はイスラム教ではないから良いんだ」と言うものであった。別の場面で、トイレの落書き(性的なもの)などは、女性には到底見せられないというものもあったので、そのような宗教的な制約があるものと思われる。この映画はそういう文化的なものも取り上げているのである。

この映画を観てイランの女性が決してサッカーに興味がないわけではなく、日本の女性サポーターとなんら変わりがないと感じた。現在のJリーグでは女性サポーターは結構多くなっている。川崎フロンターレの女性サポーターもイランまで行っているくらいである(スタジアムに入れるかどうかさえわからないのに)。

その映画ではスタジアムの外に枠が設けられて、不正に入ろうとした女の子たちが集められていた。しかもスタジアムで更に発見された女の子が捕らえられて連れて来られる。その女の子に皆がわっと群がり途中経過を聞くのである。彼女は選手がどのようなプレーをしたのか、実際にジェスチャーで教えているのであった。彼女達には代表に憧れの選手もいるのである。

彼女達の監視をしている兵士もスタジアムのコンクリートの隙から試合を見て、彼女たちに途中経過を教えてやる。「なぜあいつはあんなに下手なんだ」とか。「○○を選ばないのが悪い。○○は俺の田舎の英雄なのに・・」とか、言っていることは日本人サポーターとなんら変わりがなかった。

イランとイラクは同じように見えるだろうが、実はイラクの方が近代的で、湾岸戦争以前はいわば日本の戦前のような社会だったようである。それに比べイランはずっと封建的だったらしい。今でも女性の非識字率が25%程度であるといわれる。

この「オフサイド・ガールズ」は、ドイツ大会予選で、この試合を勝てばワールドカップ出場が決まる日のスタジアム外の物語なのである。中に入れない女の子たちの話なので、サッカー映画なのに、サッカーの場面が全然出てこないという不思議な設定になっている。

イランはその前回大会(日韓共催大会)では最終予選でバーレーンにマナマで敗れたため、サウジアラビアに1位を譲り、アイルランドとのプレーオフに回り出場を逃している。(1勝1敗でアウェーゴール差で敗れた)

その「オフサイド・ガールズ」の日は、その因縁のバーレーン戦であり、つまり2005年6月8日の試合ということになる。この試合は結局1-0で勝利し、ワールドカップ出場が決まりテヘラン市内が大騒ぎになるのであった。

試合が終了した瞬間、捕まっていた女の子も兵士もともに大喜びになった。全然試合を見せないのに、同じような感動を観るものにも与えている。最後の場面だが、町中が喜びのあまり大騒ぎになる中、クラクションを鳴らす車が大挙して出てきたため渋滞し、そのおかげで捕まった女の子たちが護送車から逃げ出し恩赦みたいになる結末であった(本当にそうだったかは自信なし)。

僕が記憶に残っているのは、女の子を捜しにスタジアムまで行った父親が捕まっている娘を発見し、「苦労してテヘランの大学までやったのに、なんてことをしてくれるんだ」という場面。

あと彼女達を見張る気弱な兵士。
彼は田舎から徴兵されてその仕事に就いているのであるが、彼女達の不祥事のおかげで自分も処罰されるので、田舎の親や家畜に思いをはせながら悩んでいるのである。彼ははっきりいってハリソン・フォードを思いっきり気弱にした印象であった。確かに顔が似ている。

兵士は上の命令なので仕方なくやっているという感じで、彼女達への「なぜ観られないのか」の説明も心の中では不条理さを感じているようであった。実は、その苦悩は彼の「徴兵されていること」にもかぶっているのである。

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