横文字文化とアスペルガー症候群 | kyupinの日記 気が向けば更新

横文字文化とアスペルガー症候群

このブログでも出てきたアスペルガーの患者さんの話だ。過去ログから抜粋。(参考1

うちの病院に来たのは偶然で、紹介されてきたわけではなかった。数軒の精神科や心療内科で治療を受けていたが、どこでも診断は曖昧にされて、明確にアスペルガー症候群といわれたことはなかったという。僕は、初診時に「どうみても統合失調症とは違う」と断言できるほどは自信はなかったが、「極めてアスペルガー症候群が疑わしい」と家族に伝えた。(中略)  

後者の子は昨年半ばに初診して、2ヶ月くらい入院治療をしていた。当初はオーラップやセレネースでなんとかしようとしたが、うまくいかなかった。こういう子は直感的にはオーラップなのである。あんがい薬に弱いので、古いタイプの薬は服用できたとしても、その後が良くない。非定型抗精神病薬もうまくはいかないものの方が多かった。それでも試行錯誤の後にジプレキサ2.5mgで落ち着いて来たのである。今はベンゾジアゼピン系の抗不安薬とジプレキサだけ処方している。眠剤も少し。ベンゾジアゼピンは攻撃性を抑えるので、このようなケースでは併用していた方が良いような気がしている。SSRIも含め抗うつ剤はどうしても合わなかった。うつ状態に関してはジプレキサに任せた形になった。


彼はジプレキサ4.5mgで今は落ち着いている。メジャートランキライザーはジプレキサとルーラン1mgだけである。彼の場合、意欲の面で、ルーランを併用することでかなり改善することを発見した。幻聴などはほぼ落ち着いているが、被害妄想的な認知の傾向は残っている。しかし、表情はずいぶん明るくなったし、今は仕事にも行けている。この半年間ほどで10日くらいしか休んでいない。(障害者としての雇用形態)

彼の場合、ジプレキサは効いているし全般のレベルもかなり上げているものの、集中力、根気、疲れやすさなどが十分には改善していなかった。

現在の処方
ジプレキサ  4.5mg
ルーラン   1mg
メイラックス 2mg
レスキューレメディ
ウイロー
(他、眠剤)


診察時はけっこう快活に話せる。以前に比べると驚くほど。ルーランは少し意欲や集中力を改善しているように見える。外見からはかなり良いように見えるが、内面はそこまでは良くはないのである。

診察中、彼はちょっと面白いことを話していた。最近、うまくいかないことの1つに漫画を読むのに時間がかかるというのがあるらしい。

彼によれば、疲れてくると縦読みの文字が特に読み辛くなるのだと言う。漫画の場合、縦読みに加え、吹き出しで何ヶ所にもブロックで分かれているので、いっそう読み辛い。ひらがなやカタカナが読み辛く、漢字はまだマシなのだという。それに対し、横書きの文章なら縦書きに比べかなり読むのが楽なんだと。

このような話は患者さんからあまり聞いたことがないので、診察の後、考え込んでしまった。

もともと英語やフランス語などのヨーロッパ系の言語は横書きしかできない。しかも左から右にしか書けないという利便性の悪さだ。アラビア文字はたぶん横書きしかできないと思うが、しかも右から左に書くと聞いたことがあるので、その硬直した表現形式はアルファベット言語と同じようなものだと思う。

それに対し、日本語は横書きでも縦書きでもできるという、スーパーな言語だと言える。横書きの場合、普通は左から右に書くが、右から左にも書けないこともない。その証拠にトラックや商用の乗用車で稀に右から左に書いているものが見られる。

日本語の場合
必ず縦書き  
新聞 古典的な単行本、小説
必ず横書き  
インターネット 携帯メール ほとんどの専門書、論文(英語が入るものは横書きのほうが良い)

中国語では普段、横書きと縦書きのどちらが多いのかよく知らないのだが、漢字なので横書きもおそらく可能だろう。ハングル文字も横書きが多いような気がしている。こういう風に見てくると、中国は人口が多いのでアレだが、世界的には圧倒的に横文字文化圏が大きいと思われる。

漢字とひらがなだけど、漢字はもともと象形文字なので、一瞬のうちに意味がわかる面はある。ひらがな、カタカナも象形文字に由来するが、ワードという意味では一瞬ではわかり辛い。これは2ちゃんねるの掲示板などで、たまにずっとひらがなで書いている人がいるが、あれを読むのは正直疲れる。たぶん日本人の場合、漢字の多い文章を読むほうが、ひらがなだけとかカタカナだけの文章を読むより楽なのは間違いない。

高速道路の標識で、例えば「横浜まで○○km」と出ると、時速200kmで走っていたとしても、日本人なら一瞬で読める。ところが、文字自体に意味がないアルファベット圏の言語だと、高速道路で正確に標識を読むのが難しくなるらしい。日本語のように一瞬では正確に読めないと言うのだ。

こんな風に考えてくると、彼の悩みの原因がおぼろげながら浮かび上がってくる。

彼はきっと脳の情報処理の面で今は不調なのだろう。これは広い意味の認知の問題でもある。これはアスペルガー症候群でわりあい見られるが、普段、意識されない障害なのかもしれないし、あるいはアスペルガーでも稀な所見なのかもしれない。これは若い人からはあまり聞いたことがない症状なので僕は頻度まではわからない。

ここで更に考えを進めていくと、本来、機能的に人間は横書きと縦書きがどちらが読みやすいかということに行き着く。

日本語で、もし高速道路の標識で縦書きで書かれていたら、たぶん横書きより読み辛いと思う。高速道路の縦書きはあまり見たことがないけど。

高速道路で走行中のようなストレス下では、横書きがまだ読みやすく思えるのは、きっと目が左右に2つ並んで存在しているからだろう。ヒトの解剖学的には、横読みのほうが自然に読めるのである。頭の無駄な動きをしなくて良い点でも。

そんな風に考えているうちに、彼が横文字のほうがまだ読めるなどと言ったことが、なんとなくわかってきたのである。

それにしても、日本語のような特殊な言語が出現したのはなぜだろうね?