3:ロスト・チャイルド
ワタシは存在を「消して」いることが多かった。
幼少期、単身赴任で不在がちで、正当な理由もないまま(…と、私は思っている)に怒鳴り散らす父に会うのが怖かった。
名前も呼んでもらえない。
いつも「チビ」か「オイ」って言われた。
一緒に機嫌良く過ごした記憶がない。
同じ家に住むようになってから、八つ当たりは更に酷くなった。
手はあげないが、威圧感はもの凄かった。
それは、世間一般で言う父親の威厳とはまるで違う。
その存在はワタシにとって、ただ脅威でしかなかった。
顔を合わすと、訳も分からぬまま怒鳴られる。
贔屓のプロ野球チームが負けると、八つ当たりはエスカレートする。
ワタシがその場から逃げ出すと、後で決まって母が怒鳴られた。
「お前の育て方が悪い」って。
声はもちろん筒抜け。
全て聞いてたよ。
親族の前で、父に「おまえは近所の橋の下から拾ってきた子どもだ」って言われた。
何度も、何度も。
でもそこで泣いたり抵抗したりはしなかった。
あとで怒鳴られる。
そう思ったら、時間が過ぎ去るのをただ黙って、心を無にしてやり過ごすしかなかった。
ワタシが何か問題行動を起こすと、ワタシじゃなくて母が怒鳴られた。
そうじゃなくても毎晩繰り返される夫婦喧嘩。
母を守るため、ワタシのせいで母が怒鳴られないようにするために、姿を消す(隠す)しかなかった。
ワタシと同じように怒鳴られ続けた兄は、いつの間にか父も口出し出来なくなるくらいのモラ男に変貌をとげた。
兄のはけ口は、母とワタシだった。
父か兄の帰宅を察すると、2階の自室にこもる。
テレビもラジオもない部屋。
母に対する怒声が聞こえないように、暗い部屋で耳を塞いで布団を被った。
父の大いびきが聞こえ、兄が無駄に大きな音を立てて階段を登り部屋のドアを閉める音が止むまで、息を潜める日々だった。
小学校で、ワタシはいじめにあった。
隠しておいた遺書が母に見つかるまで、言い出せなかった。
もちろん学校でも。
だから物理的に存在を消したかったんだ。
いじめられていることをもし親に言ったら、どうせ父から怒鳴られるだろうと分かっていた。
心に受けたたくさんの傷を埋めるため、また殻に閉じこもった。
前の記事に書いた、ワタシが起こしたいくつかの問題行動は、母以外には完全にスルーされた。
無駄な抵抗だったんだ。
本当に姿を消したくて…
高校卒業後に実家を離れた。
解放感に浸った瞬間だった。
きこきこ