第二話「チュートリアル」
自分は駅員としての配属命令が出ていた。🚉
そして始まった、1か月近い研修。
初日、配属先ごとにクラス分けが行われた。
教室の壁一面に貼られた巨大な路線図。
東北方面、東海方面、北陸方面……
東京近郊の路線を見て、思った。
——まるで迷路じゃん。![]()
正直、さっぱりわからない。
名前を聞いても、地図を見ても、何がどう違うのか理解できなかった。
「東海道は東京から新大阪までで、そこから先が山陽ですよ」![]()
聞いてもいないのに、同期の鉄道オタクがまるで講師のように説明してくる。
悪気はないんだろうけど、“当然でしょ?”みたいな顔が刺さった。
研修は毎日びっしり。
座学が中心で、駅業務だけでなく運行の仕組みや信号、閉塞区間、ATSなんて言葉まで出てくる。
「……これ、俺、駅員になるんだよな?」
運転士でもないのに、なぜ信号の種類を覚えるのか。
正直わからなかった。
運行の仕組みなんて“へぇ〜”としか思えない。
でも講師は真剣で、同期の鉄オタたちは目を輝かせていた。
「閉塞がどうとか、ATSがどうとか……何がそんなに楽しいんだ?」![]()
心の中でそう呟きながら、眠気と戦うのが精一杯だった。
後半になると、ようやく“駅員らしい”内容になってきた。
切符、途中下車、乗越・乗り換え案内、列車非常停止……。
これなら現場で役立ちそうだと思ったが、実際に説明を受けると情報量が多すぎて頭が追いつかない。![]()
「ここは実際に現場で覚えたほうが早いだろ」
そんな言い訳をしながら、ノートに書く手が止まっていた。
昼休み。同期のオタクたちは盛り上がっていた。
「マルス触ってみたい」「車掌になるために頑張る」
——何言ってんだコイツら……。
でも、その“楽しそう”が少しだけ羨ましかった。
自分には鉄道への愛情がない...
けど、やるからには覚えなきゃいけない。
その義務感だけで研修を受けていた。
研修最終日。講師が言った。
「研修で覚えたこと、全部が現場で使えるわけじゃありません。
でも、学んだ知識は武器となり今後自分専用の装備になる」
その言葉だけは、不思議と心に残った。
座学は苦手だったけど、この研修はチュートリアルで、現場が本編。
だったら、今はひたすら装備集めの時期なんだ。
現場でならなんとかなる気がした。
人を見て、声をかけて、少しずつ覚えていけばいい。
そう思えた。![]()
長かったようで、短くも感じた研修が終わる。
そしてまた少しだけ、意識が変わった。
もうすぐ現場に着任
——ここからが本当の始まりなんだ。







