ザ・修羅場【閲覧注意です】


鳥居の前の三首の犬に驚き更に境内の広さに驚いた一行は本殿で参拝を済ませた後で本殿裏の洞窟内へと案内される。


「待ってたよ」

宮司の案内は入口まででその先へは自分達で進まないといけない。
幸い道は真っ直ぐだったので迷うことなく祠へ到着することが出来た。
そこに待っていたのは、巫女の衣装を纏ったコヨミとセーラー服を着た15歳くらいの女の子
天音と名乗った女の子はコヨミとソックリな顔をしていたので親子なのだろう。
一行が挨拶する前に不思議そうな顔をした天音が小首を傾げて言った。

「9人って聞いていたけど、何で2人も多いの?」


その言葉を聞いて一行は驚いたのだが、1番困惑したのは志保だった
何故なら1人は気付いていたけど、よもや2人目がいるとは思わなかったからだ。

「でも、2人で1人になっているから、そこの能力者でも解らなかったのは仕方がないと思うよ」


何も言わないのに志保が能力者と見抜き、更に余計な者が憑いてきたと宣う天音に戦慄を覚えた一行に対して言ってはイケなかったのかな?と言った表情をする天音。対して一言多いよと言いたげな表情のコヨミから改めて紹介されたのだが、衝撃を受けることになる。

「この娘は私の娘で名は天音
こう見えて風神なのよ
今日は助っ人として来てもらったから気にしないで良いよ」

風神様と会えたのは僥倖だと思ったのだけど、コヨミの家族構成が気になったのも確か。
然し、訊いてどおすると言う気持ちの方が強かったが為に何も聞かない事にしたようだ。

「詳しい説明は後にすることにして…」

コヨミが素早く印を結び叫ぶ

浄!!

同時に一行の足元に浮かび上がる陣から発生する光と浄化の気が一行の汚れを浄化して行く。
同時に天音もまた印を結んでいた様で一行から少し離れた場所に小規模な陣が出現し、見えない何かが苦しみのうめき声を発している様だ。

よぉーく視て
コレが貴方方を苦しめている者の正体だよ!

顕!!

結んでいた印から更に別の印を重ねて叫ぶと一行を射殺さん程の鋭い目で見つめる女性の姿が浮かび上がる。

芹佳!

その固有名詞を言ったのは芳樹だった。

変態共に死の制裁を!

黒い霊気を纏った芹佳の口から呪の呪詛が吐き出されるが周囲に張られた結界がソレを阻む。

邪魔をするな!!

呪が通用しないと知り、その原因が天音が構築した陣にあると理解した芹佳が天音を睨んだが「オバサン怖ぁ〜い」と戯けてみせるだけで気にしている様子はないようだ。

「あらら…
完全に同化しているわね…
でもぉ〜
あたしにはぁ〜
無意味なのよねぇ〜」

一切の説明もなく芹佳をおちょくる様な言葉遣いで事を進めるコヨミさんは素早く印を結び叫ぶ

離!

同時に芹佳の体から引き剥がされる様に黒いモヤに包まれた何かが分離されて行く。
徐々に何かの全身から黒いモヤが取り払われて行き、正体が顕になりその姿が完全に生前の姿になった時

漣修!!

その固有名詞を口にしたのは智子だ。
仕事とは言え、漣修のことを追っていた智子が1番良く知っていたのは当然のことだろう。

「確かに犯罪行為も芹佳を寝取った上で有利になる様に離婚をさせようと画策していたのも事実だと認める。
世の中、何だかんだ言っても金がものを言うからな。
だがなぁ…
働くしか能のないアホ共は騙されても泣き寝入りしていたら良かったんだよ!!
金なんて働けば幾らでも稼げる
そうだろ!?
なのに何でこうなった!?
何で逮捕されて何年も臭い飯を食わねばならなかった?
それもこれも俺等の糧にならなかったテメェ等全員のせいだ!
俺と芹佳はなぁ…
働かず贅沢したかっただけなんだよ!!
その為にはお人好しのATMが必要だったんだよ!!」

バ◯は◯ななきゃ治らないとは昔のことで、今は◯んでも治らないと言った方が良いのだろうか
そうとしか思えない程のもの言いに呆れを通り越して言い返す気力も起きない一同に対し、畳みかけるように芹佳の爆弾発言が炸裂する

「修とはアンタと同時進行の付き合いで妊娠が発覚した直後から会ってはいない。修には結婚する気もなければ認知する気もなかったからね。
アンタと付き合ったのも息子を産んだのも全て修の指示だったの
妊娠した当初は修との息子だと信じていたわよ。
回数だって断然多かったしね。
出産後2〜3年後に適当な理由を付けて離婚して親権を獲得して養育費をふんだくる算段だった
でも、修の子供だって確たる証拠が欲しかったから修と息子のDNA鑑定をしてみたら完全に否定されたからまさかと思ってアンタとのDNA鑑定をしたら肯定されてしまったからショックだったわ
だってそうでしょ?勘違いだったとしても好きな男の子供ではなくて好きでもない男の子供を産んでしまったのだからね
それが解ってからは月収100万以上稼げている訳でもないポンコツATMとその息子なんて要らない直ぐにでも離婚しようと思ったのだけど、このまま離婚しようものなら親権を取られた上で慰謝料やら養育費やらを払わないといけないから貴方方にひどい仕打ちをして離婚を言い出させる様に仕向けた。親権は取れたのはよかったけど、結果はあのザマよ」

憤懣遣る方無いとはこのことで、どうしようもない怒りが一行を包み込む。
中でも1番怒りが強かったのは芳樹で間違いないだろうが、正義感が強く喧嘩早いのは瑠唯だった。

「恋して愛してこの人と家庭を築きたいと思うから結婚するのだろうがよ!テメェ等の欲望を満たしたいが為に結婚しただぁ!?巫山戯るのも大概にせぇよゴラァ!!」

もし芹佳が生きていたなら、間違いなく流血騒ぎに発展していたに違いない。
然し、相手は既に幽霊となった存在なので手は出せない。
そんな事とは関係なしに今にも殴りかかろうな勢いの瑠璃を止める芳樹。
そんな2人を半笑いで嘲笑しつつ

「子供をつくることも出来ない偽物に言われたくないわ!!
アンタみたいな変態がのさばるからソレを逆手にとって犯罪行為に走る変態が減らないのよ!?
私が中学の時、アンタみたいな変態からどんな仕打ちを受けたか…バイキン塗れの性欲を満たしたいだけの理由で男を辞めた化け物が偉そうなこと言ってんじゃないわよ!」

鬼の形相で捲し立てる芹佳に対し、もう勘弁ならん状態の瑠唯を必死に宥めようとする芳樹。
険悪な雰囲気が漂う中、あの顔を何処かで見たことがあるけど、なかなか思い出せない陽子

あの顔……………
ハ…テ…ナ…?

L&Jにはあんなお客はいなかった…だとすると…

キッスよ…

そうよ、この漣修と言う男はキッスの常連だった男だ。

フッ…フフフ…

あまりにも滑稽すぎて思わず笑ってしまった陽子に全員の視線が集まる中、何がおかしいのよと激昂する芹佳。

「いやね…
そこの男ってさ…
キッスの常連だった女装さんだよね?
そうよね?
バツイチの野川莉子ちゃん?」

陽子の言葉で集まった視線が漣修に集まるも陽子の話は止まらない。

「当時アタシは莉子に彼女がいるのにこんな事していて良いの?彼女が可哀想だよって、問い詰めたことがあったよね?
そしたら何て言っていた?
知ってるよ?
この服とかも全て彼女に選んで貰ったしメイクも教えてくれたからねって言っていたよね?
然も、彼女は人妻だけど真剣な交際だから不倫にはならないって言っていたよね?
それでもバレたら大変だからやめた方が良いよって
それに、真剣だろうが遊びだろうが人妻に手を出した時点で不貞行為だよ?不貞行為は刑事罰には問われないけど民事では完全に法律違反だよ?ある意味刑事罰より怖いよ?止めておいたほうが良いよと止めたら何て言ってた?」

莉子って無精子症なんだよね
それが原因で嫁に逃げられたのよね
だから妊娠させる心配は無いし旦那は彼女の言いなりだし、彼女とは男で会うことはないからバレることは無いよって、胸張って言っていたよね?
それに、シッカリ目覚めちゃって、もう男に戻れないかもって言っていたのは何処の何方でしたっけ?

陽子の爆弾発言に顔を強張らせて証拠もないくせに嘘八百並べるなと捲し立てる芹佳に対してタブレット端末を操作してとあるブログを表示する陽子。

「本人が亡くなっても、削除依頼を出さないと消えないのよね
ある意味デジタルタトゥー?」

そう言いながら表示したのは莉子のブログであった。
そのブログには莉子がやらかしたことが細かく書かれていた。

「ダメよぉ?
ウケの快感がこれ程良かったなんて…とか
女装で彼女とデートして最後は抱かれちゃったとか書きまくっちゃ」

陽子から端末を引ったくる様に奪った昭がその内容を確認した後で絶句しながらも芳樹に渡すと確認した後に瑠唯にも見せる
次々と回し見られる莉子の恥部。
さき程までの勢いは何処へやら
次々と明かされる芹佳と修の悪事に閉口してしまう2人に対して先程までの怒りは何処へやら
軽蔑の眼差しを2人に向ける一行。
暫しの間、沈黙が洞窟内を包み込む。

「じゃあ、蘭…翔をネグレクトしていたり自殺させるように仕向けていたのは…」

ここまで2人の悪事が明るみにされてしまったら真相も自ずと見えて来るのは当然だろう。
然し、この期に及んでもアンタ等みたいな変態がいなかったら私の人生は…私の人生を返せ!!
などと喚き散らす芹佳に対して陽子を射殺さんばかりに睨み付けるだけの修。

「芹佳が女装男と不倫していたのも俺に対して暴言吐いていた理由もATMとしか考えていなかったのも変態趣味を持っていたのも全て知っていたよ
あぁ…あと、痴漢冤罪で罪のない男を脅迫していたこともな
そんなことがどうでも良くなる程、お前のDVが辛かった。1分1秒でも早く縁を切って他人になりたかった
あの時、唯一の心残りだったのは翔の親権を獲得出来なかったことだけだったよ
お前は人生を返せと言ったけど、それは俺のセリフなんだよな
お前と出会う前に時間を戻してくれ!ってな
勝手に悪事に手を染めて捕まって病気になって死んでも尚、多くの人達に迷惑掛けやがって…例えこの場に居る全員がお前を許したとしても俺だけは絶対に許さない!
そして、芹佳を唆してこんな女に変えた間男貴様もな!

静かに然し力強く芳樹が語る。
そして芳樹の言葉を補足する様に瑠唯が語る

「芳樹さんと出会ったのは2人が離婚する少し前
夕飯を食べようと思って入った居酒屋のカウンターでゾンビが人の飯食ってんじゃないわよってツッコミを入れたくなった程に疲れ切った彼が気になってしまって根気よく話を訊いて驚いた
だから、証拠を集めて弁護士雇って慰謝料ふんだくって離婚した方が良いよってアドバイスしていたのだけど、そこまではしたくないと言うか、アイツは無職だし仕事する気はないだろうから慰謝料踏み倒すか再構築を迫ってくるのが関の山だから離婚して2度と会わなくなるのならそれで良いとか言ったから、ならそうしたら良いじゃんって言ったの
芳樹さんと恋人同士になったのは離婚後1週間後だったかな
だから不倫には当て嵌まらないし寝取った覚えもない
元々性欲が薄いタイプだから無くても全然気にならないしね」


2人から語られた当時の真実をただ聴くことしか出来なかった一同
そんな中鼻で笑い飛ばして瑠唯を睨みつけながら芹佳が言う

「離婚後に何とか再構築する予定だった
それを邪魔したのがアンタなんだよ!
何故再構築を考えていたかって?
ATM最後の仕事をさせたかったからに決まっているからよ。
おかげで多額の保険金を手に入れ損なったわよ!
息子もそう!しかも保険料は私が払っていたから大損だっわよ!
2人の命を金に換える予定だったのに貴方方が邪魔した!
それが許せない!!
この間抜けのおかげで逮捕されたのは誤算だったけどね
そこの変態夫婦を攻撃したのは修を男に走らせた一端を担ったのが許せなかった」

悪魔の所業を計画していた芹佳にドン引きの一行であったが反論したのは陽子だった。

「アンタ馬鹿なの?
その男が莉子になる切っ掛けを作ったのはアンタだし、キッスに通って男に走って快楽に溺れたのは莉子の自己責任よ!?
そんなことも棚に上げてアタシ達のせい?
保険金目当てで2人も殺そうって考えていた?
後先考えずにそんなこと考えられるって本当に馬鹿!
寝言は寝てから言えっての!?」

そう、切っ掛けはどおであれ全ての元凶は芹佳であり、他の誰でもない。

う…うるさいうるさい!
全員纏めて道連れにしてやる!

これ以上は問答無用と言わんばかりに修の頭を鷲掴みして取り込んだ途端、ものすごい勢いで負の力が増大して行く。

うぅ〜わぁ〜…
逆ギレからの邪神化なんて初めて見た(でも、何か変だだよね…どぉ思う?)

一行と2人のやり取りを静観していたコヨミはレアな現象に立ち会えたと内心小躍りしていたのだが、結界を破られたらそれこそ終わりだと本能的に悟っていた。


「もう、いい加減にしてよ!
学校へ行きたければ働け
自分で稼いだ金で行けって言ったよね!?
なのに貴女はバイト代の半分を搾取し続けた挙げ句、働きもせず他人から金を搾取することだけ考えていた?
それに、私を変態だとか何だとかあれ程詰って更に自殺を強要しておいて貴女は変態行為にドップリ浸かっていた?
人を舐めるのもいい加減にせぇよ!?
病気より先に私がとどめを刺しておけば良かったわ
この場に居る全員に誠心誠意謝罪して地獄へ落ちろ!!

怒りのオーラを立ち昇らせた蘭の口から低い男声で吐き出された言葉。
見た目の姿が美形の女の子だから怖さも倍増だ。
然し、その程度では1ミクロンのダメージも受けないどころか更なる逆ギレで一行を黙らせようとしてきた。
当然ながらブチギレ状態真っ只中の蘭もまた黙ることがなく言い返してしまう。
恐らく本邦初公開なのだろう。
蘭の迫力にその場にいた全員がまるで金縛りにでもあった様に何も出来ないでいた。

「悪党の世迷言なんぞ聞いている暇はねぇんだよ!
人を殺して金に換えようってか?
そんな考え方をしていたからバチが当たったって理解出来ないドクズがそんな姿になってまでみっともない真似晒してんじゃねぇよ!!」

・・・ッ!

よもやここまで言われると思ってみなかったのだろう
凄まじい迫力の蘭に一瞬怯んだ芹佳。
その一瞬が明暗を分けた。

ザクッ!

不動明王の剣が芹佳を貫いたのだ。

ギャァァァ!

芹佳の体を不動明王の炎が焼いていく。
これで終わりかと思われたのだが、不動明王の炎が焼いたのは芹佳の悪意であった。
悪意もそうだが、上位の神との繋がりを断ち切ったと言った方が良いか。
幾ら何でもあれくらいで邪神化するのは都合が良すぎる
コレには何かしらのカラクリがあるに違いない。
そう思ったコヨミは不動明王と天音に相談しつつ観察していた。  
あの黒尾ですら何体もの幽霊を食って邪神化していたのに芹佳はたったの一体食っただけだったので違和感バリバリであったのだ。
結果、何処で繋がったのかは解らないままだったが、邪神に操られていると判明し、切り離すタイミングを伺っていた。

わ…私は…

邪神との繋がりを絶たれ悪意を焼かれた芹佳を襲ったのは凄まじい程の罪悪感だった。
それっきり蹲り呻き声か泣き声か解らない声を漏らす芹佳を軽蔑の眼差しを向けたまま昭が芳樹に問いかける。

「許すのか許さないのかの二択しかないな…
俺達サイドは当然ながら許すことは出来ないけど、中山さん方はどおするんだ?」

罪悪感に押し潰されそうになりながらも必死に許しを請おうとする芹佳を無視してチラリと蘭を見ると冷たい表情のまま右手親指で首を切る仕草した後「逝ってよし」と言う。

「決まりだな
コヨミさんお手数ですが…」

クルリと芹佳に背を向けてコヨミに言うと了解したと言わんばかりに

閻魔ジャッジ!

天音が作り出した陣が別の陣に書き換わると黒い手が芹佳を包み込むと断末魔の叫び声どころか信じられない程の低くしかし、よく通る声で確かにこう言った

「地獄の旅路に道連れ二人
必ず連れて行く!」

そう言った後、狂った様に笑い声を上げて消えて行った。

あ…アレッ…?
な…ん…で………?

それと同時に気が遠くなって行く感覚を覚えた蘭に抗う術はなく、いとも簡単に意識を手放してしまったのであった。