新たな展開と不穏な動き
誰も興味を持たない昭と陽子の夫婦喧嘩はさておき、漸く一息つけた中村一家はと言うと…
「今まで女の子として生活していたのなら、性同一性障害の診断受けたらどお?そうしたら後々楽だよ?」
蘭と瑠唯の話し合いが行われていた。
話し合いと言うよりは、未だ診断を受けていない蘭の背中を瑠唯が後押ししていると言った方が正しい。
勿論、蘭も解ってはいるし陽子からも勧められているはいるが踏ん切りがつかないでいた。
いや、そこまでして女性として生きたいかと自問自答の日々を送っていたと言った方が早い。
そうなってしまったのは、L&Jでマッサージをしていることも理由にある。
ある人は止めておいた方が良いと言い、またある人は全然問題ないと言い、またある人は診断なんて時間の無駄だから必要ない。薬なら調達してあげるから使ってみたら良いと言う。
勿論、陽子にも相談はしているのだが当の陽子はと言うと、瑠唯と似たようなことを言うだけだ。
付け加えるのなら、ホルモン治療を始めたからと言って変わらない人は変わらないし変わる人は変わる。
当然ながら個人差は有れどホルモン治療を始めると女性化はするのは変わらない。
然し、問題はそこではないと言う。
「男にとって女性ホルモンはある意味毒と変わらないのよ。隠れてやってはダメよ」
そう、薬は手に入れようと思えば手に入れられるが、沢山飲めばその分、早く女性化出来ると思って用法・用量を無視して服用してしまう人がいる。
その結果どおなるかと言うと、性格が歪んでしまったり鬱病になってしまう人がいるのだ。
薬は決められたルールに乗っ取って服用しなければとんでもないことになりかねない。
そんなことは百も承知の蘭ではあるが、実際、目の当たりにしてしまうと尻込みしてしまうのが現状だ。
「取り敢えず、診断だけした後で先に進むかどおか考えても良いじゃないか?もう、お前を邪魔する者は居ないんだぞ?俺も瑠唯もシッカリとフォローするからさ」
焦れた芳樹が躊躇する蘭の背中を押したかと思ったらダメ押しと言わんばかりに一つの爆弾を落とす。
「それに、優里くんと言ったか?
アイツのお嫁になりたいと思っているのだろう?」
流石は親と言ったところだろうか…一目見て蘭と優里の距離感を看破していた様子で、確信を得る為に言った言葉なのだが、蘭の心を揺さぶるには十分すぎる爆弾であった。
全身を真っ赤にさせる蘭を見てヤッパリねと呟きながらも嬉しそうにする瑠唯。
そこに
「芳樹さんコイツで一杯やりませんか?
試飲させてもらったのですが、メッチャ美味しかったで…す…よ…
アレッ?」
何と言うタイミングか、地酒の一升瓶とツマミを抱えた優里が乱入して来たのだ。
蘭は芳樹と瑠唯とは別室となっているが為に居るとは思っていなかったが為に当然ながら、何で居るの?となる優里。
室内の空気が何処となく張り詰めた感じになっていたので、場違いだったかと思った優里がまたの機会しましょうかと気を利かせて退散しようとしたのだが、そんな優里の襟首を捕まえ満面の笑みで
「ちょうど一杯やりかたったんだ
四人になるけど良いかな?」
と言った後で一升瓶を取り上げると瑠唯が遠慮しなくて良いよと言いながら優里を室内へと引き入れてしまい、戸惑う優里をよそに、飲み会へと発展していく。
その中で蘭のことをどう想っているのかと芳樹にツッコまれ、更に瑠唯には体目当てとか遊んでやろうとか思っているだけなら認められないよと言われて困ってしまう。最初こそ笑って誤魔化していたのだが、観念したのか、意を決した様に蘭に向き直り
「酔った勢いとお二人のあと押しがあったから言ったと思ってほしくないのだけど、俺…蘭ちゃんに一目惚れしてしてました…これからは、結婚前提にお付き合いして頂けないでしょうか?宜しくお願いします!」
土下座から頭を床にぶつけ、ゴン!音を響かせながら懇願する優里。
…(((完全に酔ってるじゃん…)))
ゴン!と云う音がツボにはまった様子の3人が笑いを堪えながらも心の中で同じツッコミを入れてしまうが、優里は真面目に蘭と付き合いたい結婚したいと言う気持ちは伝わってきたのは確か。
「優里くんの気持ちも解ったことだし、どおする?」
優里を見つめたまま蘭に問い掛ける芳樹に対して期待半分好奇心半分で蘭を見つめる瑠唯。
受け入れるか断るかの2択しか無さそうで逃げ道はない。
てかさぁ…ハイの1択しかないじゃない…
芳樹と瑠唯の期待に満ちた視線が蘭に集中する。
断ろうものなら何を言われるか解らないし、その場しのぎの逃げ口上なんてものは通用しないだろう。内心盛大なため息を吐きながら観念した様に「宜しくお願いします」と返事をするのであったのだが…
(複数の女の子に目を付けられているのに気が付かない鈍感の純愛が何処まで続くか見ものだわ…)
返事を聞いて盛り上がる3人に対して何処か冷めた様な気持ちになっている蘭。
何にしてもこの時より正式に恋人同士となった2人の前途に待ち受けるのは結婚式か別れか
そんな4人を見守る小さな存在が1つ
「ヤッパリ蘭ちゃんと陽子さんは少し残って貰った方が良いみたいね」
要石の上で坐禅をして追跡型アンテナから送られてくる一行の様子をチェックしていたコヨミは、一つの結論を出す。
今回のターゲットになってしまった陽子と蘭を残らせて悪しき霊の攻撃に耐性を着けさせると言うことだ。
これは陽子の中に入り込んだ時に偶然見えてしまったことなのだが、陽子は霊の攻撃で何度か死にかけている様で、更に言うなら、先天的かと思われる。
対して蘭は芹佳が生霊の頃から干渉していたが為に悪しき霊に取り憑かれやすくなっている。
このことを考えると後天的なものだと考えられる。
何れにしても、あの店を続けるのなら此処でシッカリと対処しておかないと、今以上の事柄に巻き込まれて最悪は道連れにされかねない。
店には何れ祠を建てさせそこにコヨミを祀らせることにしているのだが、それまで不安が残る。
それなら霊に対する耐性を上げさせれば良いのではないかと考えたのだが…
「どおやって説得しようかな…」
考えることなく影分身を飛ばして一行の説得に当たるコヨミ。
果たして受け入れて貰えるのだろうか…
こうして、思い思いに過ごしたそれぞれの夜は更けていくのであった。
………
……
A子「昭さん達、団体で何処かへ行っているみたいね」
B子「そうなんだ」
C子「それが何?」
A子「蘭ちゃんとあの子が同行しているって言っても?」
B子C子「エッ!?」
A子「しかも、蘭ちゃんのお父さんまで一緒だって言うのだから気になるでしょう?」
B子C子「ウン」
B子「でも、婚約まで話が進んだら手は出せなくなるわよ?」
A子「そこまで話が進むと思う?
相手は蘭ちゃんだよ?」
C子「それは…ちょっとねぇ…」
A子「でしょう?進んでも結婚前提が関の山だと思わない?」
B子「じゃあ、チャンスは有ると?」
A子「そう!」
C子「あたしは辞退するわ」
A子「…あんたまさか…」
C子「勘違いしないでよ貴方がた相手に勝ち目がないから降りるってだけ」
A子「じゃあ、B子は?」
B子「私は行くに決まってるじゃない
そう言うA子はどおするの?」
A子「行くに決まってるじゃん
あのブサイクになんて絶対に負けないよ」
C子「・・・好きにしたら?」(他人のモノを奪うことが生きがいのコイツらに着いていけない)
A子「ライバルが減って助かるわ
私の美貌でイチコロよ」
B子「その考えは甘いと思うよ
だってあの子が蘭ちゃんにぞっこんだって話じゃん?
そうそうひっくり返るとは思えないけど?」
A子「ふ〜ん…じゃあ、アンタも降りる?」
B子「猪突猛進の猪戦法じゃあ、玉砕間違いなしってことよ?何れにしても時間は限られているから作戦を考えてからの方が良いってこと」
C子「てか、B子さぁ…やる気あるの?」
B子「フフ…どおかしら…」
C子「でた…どっちつかず…」(ホント…この子だけは読めないわ…)
A子「何方にしても、向こうは偽物で私達は本物なの
解る?どう足掻いても偽物が本物に敵う訳ないじゃない」
C子「好きにしたら?」(負けることがあるから女装さんと男装さんのカップルが出来ているのを忘れているなんて可愛そうな人)
L&Jから少し離れた場所にあるファミレスで良からぬ相談をする3人の女性。
どおやら、蘭と優里の関係を知ったうえで略奪を考えている様だ。
果たしてこの3人はどう動くのか