雨音へ2


芳樹さんとその奥さんである瑠唯さんの了承は直ぐに取ることが出来た様だ。

と言うのも、芳樹さんも瑠唯さんも蘭ちゃん同様に一歩間違えたら命を落としていた事故やトラブルに巻き込まれそうになっていた様で近々お祓いにでも行こうかと2人で話していたところに陽子さんからの連絡だったので即答で了承したとのこと。

そのことを訊いた俺は蘭ちゃんに話を持っていったのだけど、案の定不審がられたよ。
蘭ちゃんって、人当たりは良いのだけど相手を信用するのに途轍もない時間が掛かるんだ。
恩人である山科夫妻であっても完全に心を開いていない様で、俺はと言うと言わずもがななんだよ。
俺としてはもっと仲良くなりたいと思っているのだけどこればかりは仕方がないけど、今回は放置しておけば命に関わる事とあって何としても連れ出さないとならない。
陽子さんの話だと、蘭ちゃんは実父さんがマッサージを受けに来るから嫌でも顔を合わせているけど、妻の瑠唯さんには一度も会ってはいない。
なのでその辺から攻めてみたら迷う素振りは見せたけど嫌ではないみたいだ。
やっぱり幼少期のことが起因しているのだろうか、蘭ちゃんは両親に対して良いイメージがない。
だから、今回のことはお互い良い機会になるのではないかと思うんだ。
それに陽子さんの話では、芳樹さんも正式に謝罪の場を設けたいと考えているようだしね。
陽子さんに聴いた芳樹さんの現状と同行する理由を話した後で

「最近の不運も父親との蟠りも吹き飛ばすことが出来るかも知れないとなれば行く価値は有るんじゃないかと思うけどな」

と言ってみたのだけど反応は如何に
もし此処で断られてたりしたら後は拉致ってでも連れて行かなけれはならない。
期限は今日を含めて後3日しかないから手段を選んでいる場合ではないよね。
そんな犯罪紛いのやり方なんかは出来ないから俺なりに精一杯説得を試みたのだけど…
返事を待つ俺に対して複雑な表情のまま思案する蘭ちゃんが何時行くの?と訊いて来たか明日にでも行こうと言ったら案の定仕事は?と問い質して来たので大丈夫だと告げると、乗り気ではないにしても了承してくれたよ。

その頃

「俺は行かなくても良いよな?」

解り易い態度で拒否の姿勢を示す昭に死にたいのなら行かなくても良いよといけしゃあしゃあと言い放つ陽子。
ネット上で攻撃されていたとは言え、実害も無ければ制裁を加えた訳でもない。
俺は無関係だし呪われていることは無いだろうとの見解なのだけど現状は2ヶ月ほどぶっ通して仕事をしているので休養はしたいところだ。
昭が考えている休養とは、誰にも干渉されずに1日中酒飲んでゴロゴロすること。
昭は山科香であった頃から酒豪として知られており、ザルとかウワバミと言われている程であったがこの店を始めた頃から付き合いでは飲むものの1人でゆっくりとなんてことが出来なくなくなってしまっている。
そんな昭だからこそ、そんな休養を過ごしたいと願うのは当然なのかも知れない。

「何でそうなるんだ?
蘭と芳樹と瑠唯の問題だろ!?」

行かなければ死ぬと言われて意味不明だと言わんばかりに食い付く昭にため息混じりに陽子は

「アンタもアタシもヤツに憎まれていたのを忘れたの?
今すぐは無いと思うけど、確実に…だよ?」

と言ってはみたものの、忘れてはない?
アタシが三元荘で死にかけたこと、その真相を
思い出させようかと思ったら志保が口を挟む。

「行かないなら行かないでも良いけど、シッカリと取り憑いてるよ
まぁ、昭が死んでくれたら陽子さんを独占出来るから万々歳だけどね」

挑発する様に煽る志保に流石に事態の深刻さに気が付いたのか、しぶしぶ了承した昭は

「陽子は一生…いや来世も俺のものだ!
誰にも渡さない!」

と、顔を真赤にして叫ぶ。
そんな話をしていた時、真っ青な顔をした澪が飛び込んで来て、とある報告書を提出した後で衝撃的なことを話しだした。

漣修(さざなみおさむ)・・・?

提出された報告書に記載されていた名前に首を傾げる一同の中で急に思い出したかの様に昭が叫ぶ

「漣修って芹佳の元交際相手か!?」

叫ばんでもよろし!とピシャリと言った後で報告書の1文を指さして嫁に張り付いてもらっていたのだけどと前置きをした後、アパートの部屋から飛び出して来て近所の児童公園に走って行ったかと思ったら何かに怯えた様に震える声で意味不明な言葉を喚きだした後、急に苦しみだして倒れてそのまま…だったとのこと。
澪が嫁と言っているのは智子という名の男であり、要は陽子のお仲間さんだ。
因みに陽子と同じく全身改造しようとしたのだが、澪が全力で止めて来たのでそのままの様だ。

「やっぱりそうだ…」

昭達がそんなやり取りをしている間、黙って資料と智子が撮った動画を観ていた志保がボソリと呟くとその場の視線が志保に集まるも、動じることなく動画を凝視しているが大量に冷や汗をかいている。

「何がどおなっているの?」

努めて冷静に陽子が問いかける。

「この男…恨み半分、私達に当てつけ半分であの女に殺されているわ…」

真っ青な顔をして返答する志保
その表情を見ただけでどれだけ危険で厄介な存在になっていることが伺える。

「・・・解った・・・」

志保の表情は、誰がどんな説得をするより何百倍もの説得力があった様で昭の同行が決まったことにより真子に連絡をすると此方から迎えを出すことと、コヨミからの伝言で念の為、澪と智子も連れて来いとのことで一行は準備に追われることになったのであった。

………
……

翌日8時

お待たせしました
コヨミ様より依頼を受けて皆様をお迎えにあがりました

山科邸に集結したメンバーをマイクロバスで迎えに来た真っ赤なスーツに身を包んだイケメンが恭しく挨拶したあとで急ぐのでと言ってバスに乗るように促す。
このイケメンは赤野と名乗った以外は何も話そうとしなかったので何も解らなかったが、赤いスーツがよく似合うイケメンとして皆の印象に残った様だ。

一行を乗せたマイクロバスは途中、休憩を挟んで高速を走り降りて雨降山に向かう

「此処が…」

神社前に到着した一行が立派な造りの神社に息を呑んだところに宮司と巫女がで迎えに来たので案内されるがまま境内に入って行く。