二人の気持ち
あれから暫くの間、俺と蘭さんはお互いの時間が合った時にはお茶をしたり近所でも行ったことのない神社へ行ったりしていたのだけど、一緒にいたらいるほど羨ましい体をしてやがる。
だってよ、日頃鍛えているのか細マッチョ体型だぜ?俺が思い描く理想の体型なんだよ。オマケに志保さんに習っているとのことだけど合気道の使い手だと来たもんだ。
てか、山科家全員が合気道の使い手だって言うのだから驚きだよ。
そんな体の持ち主が性同一性障害で本気で女性になりたいって思っているんだぜ?
まぁ、中身が完全に女性なのだからなりたいと思うのは仕方がないことなのだけどね。
俺も蘭ちゃんのことは言えないけど、勿体ない話だよな。(てか、コレってブーメランなのか?)
蘭ちゃんと会えるのは月2回だけだし、手だって繋いだこともない。
それでも一緒にいるときは楽しいし、好きだって気持ちが膨れ上がるのが解る。
女としてとか男としてではなく、この人が好き。
純粋に蘭ちゃんと恋人同士になりたい
想いが暴走する前に伝えた方が良いのだろうことは解っているのだけど、隙がないと言うか恋愛には興味無さそうなんだよな。
強引にとも考えてはみたものの、投げ飛ばされそうで怖いしさ。
何故、蘭ちゃんが合気道を習うことになったかと言うと、L&Jのお客が問題なんだ。
真面目に恋愛したい人は先ず無いけど、遊び目的の人の中には強引にシようとする人もいるみたいで、自衛目的に始めたのだそうだ。
月謝も格安で教えてくれるとのことなので俺も習おうかなと思っている今日この頃。
蘭ちゃんは俺のことをどお想っているのだろう…
気になる…
………
……
優里くんと友達付き合いするようになってから結構な日にちが経過したのだけど、私はこれ以上の仲には発展させる気はないの。
優里くんが真面目な人だって言うのは理解出来るし一緒にいて気を使わなくて良い人なのは嬉しいよ。
笑いのツボも食べ物の好みもほぼ一緒で冗談を言い合えるのもポイントが高い。
けど…
私には優里くんの好意を受け止めることが出来ない理由がある。
それは、母親の存在。
母親は育児放棄と虐待の罪で捕まったのだけど、結婚詐欺も働いていたらしい。
それらの罪の合せ技で実刑判決を喰らって服役したのだけど、もうすぐ出てくるのが解ったのね。
そうなると私はもとより父や祖父にも接触して来る可能性がある。
そのことを危惧していた山科家の計らいでL&Jでお店を持つことにしたのよ。
本当は何処かのマッサージ店で更に経験を積んで独立開業する道を考えていたのだけど、それでは出所してきた母親の逆襲にあう可能性が高いし山科さんも守れない可能性がある。
最悪のケースを考えた時に恋人がいたら被害が及ばないとも限らないからね。
優里くんの気持ちは理解しているけど、受けれないの。
ゴメンね…
そんな母が今月末に出所してくるとの情報が耳に入って来たの。
情報源は藤堂早紀と言う一人息子を育てるシンママなのだけど、この方はL&Jのオーナーの1人で取扱注意の女王様なの。
噂ではL&Jの主要スタッフほぼ全員が早紀女王様の毒牙に掛かっているらしい。
らしいと言うのは、私には見向きもしないと言うかそう云う一面を見せたことがないから解らないと言った方が早いかな。
だからと言って嫌われている訳ではないのよ?
マッサージも受けに来てくれるし食事にも誘われたりするし、息子くんのお世話も平気で頼んで来る。
ホント、遠慮がない上にドSときたものだから質が悪いことこの上ないのだけど憎めないキャラなのよね。
そんな早紀さんからの情報なので間違いはないと思うけど、私達に危害加えようとしない限りは此方も何もしないしこの地を離れて行方をくらませることもしない。
そんなことを考えていたら「アナタは何にも気にすることはないよ」と早紀さんが言うから平常心を心掛ける様にしたの。
………
……
「あの女の件、任せて貰って良いかな?」
陽子の手作りケーキをお茶菓子に午後のティータイムを楽しみながら澪と昭が芹佳をどおするかと話していたところに乱入して来た早紀が芹佳の制裁をしたいと申し出てくるが二つ返事で良いよと言えない。
ネット上の叩きだけなら任せても良かったのだが、近所にも悪評を流したり嫌がらせの封書を送り付けられていたこともあったが為に昭達が直接制裁したいとの思いが強いのだ。
確かに早紀に任せたら確実に闇へと誘われるだろうことは確かなのだが、それではスッキリしないのも事実。
何にしても早紀は被害者ではない。
飽くまでも被害者は蘭であり山科家なのだ。
「それはダメよ
復讐する権利があるのは私と昭そして蘭よ?
後始末はお任せするとしても、お仕置きは私達でなきゃ」
早紀の提案を昭がシブるなか、追加のお茶菓子とコーヒーを持ってきた陽子が早紀の申し入れを却下した。
然し、この件に関しては折れることは出来ないと食い下がる早紀もまた相応の理由がある様子であるのだが、直接な被害は出ていない。
然し、身内の被害は我が痛みと感じているフシがある早紀にとって陽子や蘭が受けた被害も我が痛みと受け止めているのだ。
「何で?お店の汚れ仕事はアタシの担当じゃない!」
必死な形相で食い下がる早紀に対して
「ダメなものはだぁ〜め!」
と、取り付く島もない陽子。
こうなると誰よりも頑固になる陽子に折れるしかない早紀の様子に胸をなでおろす昭と澪。
さて、陽子達はどんな復讐を計画しているのか…