偶然も運命なのかな


L&Jは年中無休なのね。

そしてマッサージの方もまた無休でやっているのだけど、山科さんの身内同然で相良聖子さんと唐沢美空さんがエステとマッサージの資格を持っているので週二で入って貰ってその日はお休みにしているの。
因みにこの二人もふうふでL&Jが開店して少しくらいした頃に結婚式を挙げたとのこと。
L&Jでは、一旦カップルになると横槍を入れる人は居なくなるけど、それまでは熾烈な奪い合いが展開されている。
コレは暗黙のルールと言うか、人の恋路を邪魔するやつは…の例え通りカップルを引き裂く様な行為をする人は早紀さんと美月さんの女王様コンビにお仕置きされてしまい、最悪の場合は海外に売られてしまうとの噂が絶えないからなのね。
海外に売られるのは眉唾ものなのだけど、行方不明になるのは間違いないみたい。
そんな中で仕事をしているのだからその辺の噂話は否が応でも聞こえて来るから経営陣には逆らったらいけないと思うようになっているの。
まぁ、ルールさえ守れば楽しくやれるからね。
そんな中、志保さんに一泊二日で琵琶湖付近の神社へ行こうと誘われたので、陽子さんと3人で行くことにしたの。
午前中はお城を観て周り、神社はそれから2社程行く予定で移動していた。
最初の神社の駐車場に車を停めた時に丁度駅からのバスも到着したみたいで数名の参拝客が降りてきたのだけど、見覚えのある男装さんが混じっているのに気が付いた。

「へぇ〜…彼…頑張っているみたいね」

どおやら彼を見付けたのは私だけでは無くて、志保さんも見付けていたようでそんな感想を漏らす。
志保さんは、一度来店して来た方の顔は忘れない方で、然も彼はマッサージだけで退店しているのでインパクトが強かったみたい。
で、何で頑張っているみたいな台詞が出たかと言うと、初見で歩き方に違和感があったそうなの。
志保さんはマッサージの資格は無いのだけど、腕前はプロ級で陽子さんや昭さん専門だけどマッサージをしてあげているよ。
そんな志保さんから見てもあの時と今の男装さんは別人かと思える程に良くなっているみたい。

ふ〜ん……クスッ…

どおやら私はあの男装さんのことを無意識のうちに目で追っていたみたい。
それに気づいた陽子さんが意味深な笑みを浮かべて志保さんと手を繋いで歩き出したので、その後を追うように歩き出したのだけど、タイミングがタイミングだけに鳥居の前で鉢合わせの格好になってしまう。

あっ…

私達の姿を認識して驚き固まる男装さんに声を掛ける陽子さん。
この時、初めて知ったのだけど、男装さんの名前は男装の時の名前は優里で本名は矢島美海とのこと。
どおやら陽子さんだけは神社ですれ違っていたことを覚えていたみたいたみたいで「よく会いますね」と声を掛けたの。
どおやら陽子さんの声を聞いて陽子さんが元男だと気付いたみたいだけど、女性以上に女性をやっているのに驚いた様子。(てか、陽子さんが優里さんのことを覚えていたと言うことに驚きなんですけど?)
そんな優里さんの驚きを知ってか知らぬか、良かったら一緒に参拝しませんかと誘うものだから私が慌ててしまったのだけど、そんなことは知らないと言わんばかりに強引に同行を認めさせてしまったの。
参拝を終えた後、陽子さんが優里さんにどうやったら来たのかと問うと始発の電車で来たとのこと。
何で?と思ったら、免許は持っているけどペーパーなんだって。
勿体ないなぁと思ったのだけど

「車は便利な反面、交通事故の素だし、維持費やら何やらで貧乏神と同じだから買わない」

との返事。
本当は、男装にお金を掛けるあまり薄給では車を持てないと言うのが本当の理由なのでは?と思ってしまったけど、しょっちゅう出かけている分をローンに回せば中古車はくらい買えるだろうから要らないと思っているのは本当なのかも。
まぁ、公共交通機関で移動するのが苦にならないとのことなのでそれはそれで有りなのかなと思っただけだったよ。
それから神社の近くに在った喫茶店で暫し談笑したのだけど、此処で優里さんがいきなり私に

「友達で良いので仲良くしてください」

と言い出したの。
初対面での印象がアレだったので身構えてしまったのだけど、私は友達もいなければ恋愛なんかもしたことがなかったから困ってしまったの。
そんな私に面白いものを見付けたと言わんばかりに

「どうせなら結婚前提で付き合ってみたら?」

と、混ぜっ返す陽子さん。
この人って、たまにこう言うことを平然とするんだよね。
それで恨まれることはないのだけど、弄られることに慣れていない人にはチョット迷惑な話だよね。
飲みかけたコーヒーを吹き出しそうになったと同時にドキドキが止まらなくなって変な気持ちになってしまったよ。
生まれて初めての感覚にどうしたら良いか解らない私に

「結婚前提は冗談だけど、お友達なら有りなんじゃない?」

と陽子さんが言い直すと、志保さんまで煽ってくるものだから逃げ道塞がれちゃった。
結局、お二人の前で断り切れずに友達ならと連絡先を交換したよ。
その日はお泊りして翌日にお祓いの予約をしていた私達に対して帰る予定の優里さんを駅まで送った後、予約していた温泉旅館に行ったよ。

………
……

「あんなところで会うなんて…」

こう何度も出会うってことは偶然ではなくて必然なのかも…

帰りの電車の中で神社での出来事を思い出していた俺は陽子さんの1言までも思い出してしまい、1人悶えていた。
だってよ…結婚前提で…だぜ?
冗談にしても言って良いことではないと思うけど、サラッと言ってのけたのは流石と言ったら良いのかな。
予定では夕方頃の帰宅予定だったのが駅まで送って貰えたから2時間は早く帰れそう。
陽子さんには感謝だな。

取り敢えず仲を深めて恋人同士になれたらな…

しかし…
見た目は女性だとしてもベースは男だぜ?
何でこんなに入れ込んでいるんだ?

お仲間さんだから?
いや違う…
一目惚れだから?
う〜ん…これも違う…
だって幾ら一目惚れだとしても相手が男だって解った時点で心が離れて行く筈なんだ。
今まで何人かの美人の女装さんに一目惚れしては男の部分を見てしまった時点で興味をなくしてしまったからね。
だから何でこんなにも蘭さんにご執心しているんだ?

う〜ん…
解らん…

この答えは永遠に答えが出ないのだろうな。
だって、どおしても蘭さんと仲良くなりたいと思っている自分がいるんだよ。
この気持ちは本物だと思うから。

・・・おっと・・・
そんなことを考えていたら乗り換えの駅を通り越すところだったよ。
あっぶね…