第二話 翔から蘭へ


スゴい…


別室に連れてこられた私は室内の設備に驚いた。
だって、多種多様な衣装や化粧品や数タイプのウィッグや胸につけるパットや性転換パット付きのパンツまである。言わば女装する為のメイキングルームだったから。

「年齢からしてもヤッパリ制服かな?」

驚く私を促し、私のサイズを目視で確認しながら性転換グッズや下着そして服を選び身に着けるようにと促す志保さんの言葉に誘導されるようにそれらを身に着けた後で鏡台の前に座らされ

「可愛くなりたい?
それとも
美人?」

と、質問してくる志保さんに戸惑いながらと可愛くなりたいと言ってしまった私に解ったと返事をして洋服と下着を選んだので、それを着た後でメイクを施して来たの。

「う〜んこの感じならこのウィッグかな?」

メイクが終わった後でメイクに似合うウィッグを選んで被せてくれ完了。

「これが私…」

姿見に映る私の姿はどこをどう見ても今どきの女の子であった。
然も、街中を歩いていたらナンパされるのではないかと思える程の可愛い女の子だ。
嬉しくなってつい、姿見の前でターンしたりモデルの様なポーズをとってみたりする私を見て微笑む志保さん。
何故、志保さんが私に女装させたか。
それには意味があった。

(あんな生霊に取り憑かれていたらやるしかないじゃない…然も、何処で拾ったか解らないけど、悪霊にも取り憑かれていたし…疲れた…)

そう、翔は悪しき霊と生霊に取り憑かれていて、それを祓う為にこうして私を女装させながらお祓いをしていたのだ。

「さぁ、お披露目と行きましょうか」

逃げられないように私と腕を組み別室から出ようとするFカップは有ろうかと思われる志保さんの胸が押し付けられるからドキドキが止まらない私。
そんな私のドキドキを知ってか知らぬか意味深な笑みを浮かべて

「皆で貴方の名前を考えましょうね」

と言ったのであった。

昭「ほぉ…カナリの美人になるとは思ったけど此処までとはなぁ…」

澪「さすが志保よね
陽子さんを女性に作り変えただけあるね
シッカシ…可愛いね…食べても良い?」

昭「オイオイ…
先ずは俺が一番だろ?」

陽子「あのねぇ…
それヤッたら淫行で通報するわよ?
然し…ホント可愛いね」

志保「でしょ?
素材も良いから久しぶりに気合い入れちゃった」

陽子「志保もお疲れ様
少し休んだら?」

志保「休みたいのはやまやまなんだけど
この子の名前を決めないとね」

話終えてリビングへ戻って来たのか、昭さんと澪さんはシッカリと女の子へと変身した私を見て褒める褒める。
てか、山科さんって…
これ以上は言わぬが花ってヤツかな
でも、山科さんに出会わなければ今頃どおなっていたか解らないし…
然し、この時点で私はこの人達と母の関係を知らなかったの。

「じゃあ、この子の名前は蘭ってことで良い?」

皆さんそれぞれ私に似合いそうな名前を考えてくれたのだけど、澪さんが考えた名前以上の案が出てこなかったので女の子としての名前は蘭で決まったの。
名前が決まった後で澪さんはやることがあるからと帰ったのだけど、入れ替わる様に新たなる女性が入って来た。
この女性はリサイクルショップを営んでいる方で名前を町田冴子と言う。
昭さん曰く、今後のことを考えたら放り出すわけには行かないし、水知らずの高校生を匿って警察沙汰になるわけにはいかない。
と、言うことで思い付いたのが冴子さんのリサイクルショップでアルバイトとして雇って貰えないかと言うことだったの。
リサイクルショップは寮も在ると言うことなので、丁度良いと考えたらしい。

「ん〜…蘭ちゃんねぇ…」

陽子さんから事の経緯を訊いて、値踏みをするような眼で私を眺める冴子さんは少し考えたみたいだけど早速明日から働いて貰おうかなと言い出た。
但し、夏休み中は常に女の子する事と志保さんが同行することが条件に付け加えられたの。
冴子さんの条件に驚いたのは志保さんだけで他の人
は言われて当然と言った表情。

「だって、女性としての教育係が必要でしょ?」

と言うのが理由らしい。
この理由に仕方ないわねと呟いた後で了承したのは良いけど、志保さんは陽子さんと片時も離れたくはないらしい。
理由は聞けなかったけど、陽子さんに対する志保さんの執着は尋常ではない。
まぁ、それは私が知る必要もないことなので追求はしませんよ。
志保さんと山科夫妻の関係はカナリ後に知ったのだけど、私には興味のない次元の話だしね。

「まさかとは思うけど、蘭を見捨てる様なことはしないよな?」

渋る志保さんに昭さんが問う。
どおやら、昭さんは志保さんが私を女装させた理由を理解しているらしい。

「解りました…仕事の絡みも有るから夜だけなら…」

昭さんの説得に譲歩の姿勢を見せる志保さんに対して今度は陽子さんがそんなんで良いの?と被せてきたのだけど

「この子は初めて出会ったときの陽子さんよりずっと女の子よ?教育係としてはとてもやりやすい相手よ?」

と返した。
どおやら、志保さんは私を1人の女性として教育する役目を押し付けられたみたいね。
然し、私は知らなかった。
志保さんが私の教育係を渋った本当の理由を…
そして、そのことを教えて貰わなかったが為にあんなことになるなんて…

それから、昼間は冴子さんのお店でアルバイトして夜は志保さんの女性教室でスパルタ教育を受けながら生活していたのだけど、夏休み終了5日前になった時、父親側の祖父が尋ねてきて引き取りたいと言い出したの。
祖父曰く、母は、交際相手と共謀して結婚詐欺をしていたことが表沙汰になり逮捕になったと知った元父が激怒して私の親権を奪取しようと動き出そうとしたのだけど、その父親も表向きは女性として暮らしている男性と同棲していたがために祖父がそれを阻止する形で引き取りたいと申し出た。
それによりカナリの修羅場があったようなのだけど、結局、折れざる終えなかった父親は私が成人するまでの養育費を祖父に支払うことで決着して迎えに来たとのこと。

母と交際相手の逮捕には山科さんと澪さんが裏で動いていたみたい。
ネット上やガチで嫌がらせをされていた山科さんは鹿島澪さんに調査を依頼。
調査の過程で母と交際相手が結婚詐欺を働いていた事実が発覚し、被害者とコンタクトを取り証拠を提示しながら訴える様に誘導した。
その結果、被害者男性は示談せず警察に被害届を出して二人を追い込んだとのこと。
私への虐待の事実は出て来なかったから何で?と思ったので、それに対しても訴えようかと思ったけど、山科さんに全力で止められた。
どおやら何か魂胆があるみたいで意図的に結婚詐欺の罪のみを明るみにしたみたい。
祖父が出てきたことにより、山科さんのお世話になることはなくなったけど、リサイクルショップのアルバイトを継続することを条件に祖父の家にお世話になることにしたの。
それから高校卒業後、あん摩マッサージ指圧師の資格を取得する為に専門学校へ行き国家資格を取得することにした。
父と祖父そして山科さんのサポートもあって無事に資格を取得することに成功した後はL&Jで専属マッサージ師として働くことになった。
何故マッサージ師の道を選んだかと言うと、祖父の為もあるのだけど、志保さんのマッサージがとても気持ち良かったからなの。
マッサージでこんなに気持ち良くなれるのなら、祖父にしてあげたいと思ったら居ても立ってもいられなくなってしまった。
と言った経緯でL&Jに務めることになんだけど、何であの店に来るお客ってあんなにエロいの?
男共は偶然を装ってお尻や胸を触ろうとしてくるしで迷惑ったらありゃしない。
じゃあ、女性はそういうことをしないかと言ったらする人はする。
然も、触り方も男より大胆だし…
まぁ、こんなお店なのだから慣れなきゃやってらんないけど、嫌なものは嫌なので、陽子さんに相談してエッチな行為はダメ!として貰ったわ。
それからはエッチな行為は無くなったものの、オフ時間にデートを申し込んでくる人が出てきて悩みのタネは消えることは無かったの。
そんな中、施術を受けに来たお客さん。
そのお客さんとの出会いが私の運命の歯車が動き出したの。