人生初の、阪急水無瀬駅での下車。今日は駅から歩いてすぐの「リストランテ コンテ」を会場に、
肉のことや、食文化を研究するプロたちの集まる勉強会が開催された。
人が牛肉を食べ始めた歴史や、代用肉や培養肉など将来の話など、内容はややアカデミック寄りだった。
もっと味のことや調理法に関しての内容があるかなと期待していた分、少し物足りない部分もあった。
しかし、トピックの中で最も印象深かったのは、このお店のオーナーシェフであり、プロのハンターである
宮井一郎さんのお話だ。ちなみに、ハンターでもありシェフであるという人は、日本でも大変少ない。
宮井さん、最初は猟銃や散弾銃を使う一般的な猟を行っていたが、しだいに違和感を感じ始めたという。
それは、
ハンターとして……仕留めるのに、そこまで大げさなことをしなくても良いのではないか? 動物1頭のために散弾銃まで使うのは、「やり過ぎ(over kill)」ではないか?
料理人として……現場での血抜き作業や、手早い解体作業などは肉の美味しさを考えたときに重要な要素となるが、その腕前を持っていない人が多い。猟銃で仕留めてしまうと、即死してしまうため、血抜きができないケースも多い。そのようなクオリティの低い肉がジビエのイメージを下げているのではないか?
といったこと。
この島本町に移って以来、宮井さんは「わな猟」のみを行っている。
毎日、山に行き、わなにかかったイノシシやシカがいないのか確認して回る。
「牛や豚というのは、家畜なので、考えてみればずーっとストレスがかかっているわけですよね。そういう肉の味って、実は、本来の味ではない味なのかもしれないと思うこともあるんです。でもシカであれば、直前まで自由に生きていたわけです。それをできるだけ負荷をかけずに仕留めて、きっちりした技術で解体、調理し、味わうことで、本来の命のありがたさに触れられるんじゃないかと」。
イノシシやシカは、今となっては「害獣」に指定されている。放置しておくと、近隣の田畑の農作物を食い荒らしたり、
時として人を傷つける場合がある。よって一定数を捕獲することは大切であり、仕留めるからには、山の恵みとして美味しくいただくことが、結果的に命を大切にすることでもあるのではないかというのが、宮井さんの考えである。
よって、手がけられるフルコースには、肉だけでなく内臓も用いられるのだが、どれも素晴らしい仕上がりで、テーブルを囲んだ全員が感嘆の声を上げた。
宮井さんのセンスは、手作りで温かみのある店内の造作や装飾にも生かされている。
個人的な経験則だが、調和の取れた空間作りができるシェフは、料理も上手い。
このお店も、料理の味付けのバランスが絶妙であり、しっかりと、何の味に焦点を当てているのか、
それをどういう味に仕上げたかったのかがはっきり分かる仕上がりになっていた。
合わせるワインも、赤も白も、きちんと選ばれた美味しいものだった。
こういう心地よい場所には不思議と、面白い人達も集まってくる。
今は口コミで集まった「ハンター志願者」7名ほどが弟子入りして、
猟や解体を学んでいるそうだ。志願者は、都会で会社を経営していたり、
水商売をしていたり、普通のサラリーマンだったりと、多種多様なバックグラウンドだそうだ。
今夜も、お店の外では志願者たちが教えあいながら解体の練習をしていた。
シカも美味しいのだが、ヘルシーがゆえの、食後のあっさり感が、物足りないときもある。
個人的にはさんの捕ったイノシシをぜひ食べてみたい。
少し遠いものの、また来てみたいと強く思えるお店だった。
何より、料理だけでなく、宮井さんの食材に対する考え方や取り組みを聞くだけでも訪れる価値がある。