大悲山・峰定寺(ぶじょうじ) | 創業280年★京都の石屋イシモの伝言

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峰定寺へ行って来た。と、言っても一般的にはあまり馴染みない、
お寺かもしれないが、知る人ぞ知る、京都の隠れた古刹だ。

峰定寺は、聖護院と同じ本山修験宗のお寺だが、1154年(久寿1)に、
かつて大峯山や熊野などで修行を積んだ修験者、観空西念によって
創建されている。本堂は、日本で一番古い舞台造りの建築物である。

観空西念は当初、鳥羽上皇から京の都に来るようにと話があったが、
彼は、争いが続き疲弊した都を嫌い、大悲山に寺が建つ事を望んだ。

大悲山は古より、修験者の修行の場であり、大和の大峯山に対し、
「北大峯」と呼ばれていたが、今は修行場に立入る事はできない。

また本堂の舞台造りは、懸造(かけつくり)とも呼ばれ、崖地に太く
背の高い柱を何本も立て、柱の間に貫を組み合わせ、上部の本堂
を支える工法だが、清水寺の舞台の形を思えば、わかりやすい。

  イメージ(清水寺)
 
だが、此処の舞台は、京都市内から車で約1時間半の、山深い所に
在って、そこに辿り着くには、鞍馬山を昇り、つづら折りの坂道で、
身体を左右に激しく振りながら、花背峠を越え、桂川の源流の一つ
である細く蛇行した川沿いを走り、大悲山を目指さねばならない。

飛び込む景色は、深い緑の所々に、黄、橙、赤と錦秋の色合いを
滲ませながら、後方へ流れて行く。朝からの雨も上がり始め、時折
差す木漏れ日が、印象派の絵の様に、彩りを浮き上がらせていた。

やがて「峰定寺へ」の看板のままに、横道を行けば、寺へと続く。

 

黒く四角い木の門柱を構えた、寺の入口を抜けて、100m程歩くと、
峰定寺の舞台(本堂)への登り口でもある、仁王門の前に到着する。

峰定寺の舞台(本堂)へ上るには、仁王門を潜って、400段程の石階段
を登らねばない。階段は良く整備されているが、自然石を重ねている
為に、踏み石の上が、平らでない箇所もあって、滑り易い。

雨の日は危険なので、舞台(本堂)の見学は中止。そんな不安も感じ、
私は、昨日と今朝、峰定寺の住職に確認してから、車を飛ばした。

                 

峰定寺の住職とは前から、本山修験宗の事でお世話になっている。

峰定寺が平安時代から残る古刹である事、重要文化財の仏像が何体
もある事、花背の奥に寺が在る事を、伺ってたが、場所の特定できず、
いつか行きたいとは思っていたが、結局、来る機会が無かった。

それが先週、仕事で近所まで来た時、偶然、前述した「峰定寺へ」の
看板を見つけ、住職に電話した事が原因で、本日の結果となった。

住職曰く「来週は旅行客を案内するので、一緒に登るか?」との、
お声掛けを頂き、自分でも話を伺いたい事が、あっての参加だった。

午後1時に峰定寺に到着し、住職と案内の方々にご挨拶をして、暫く、
旅行客の到着を待つ。やがて17、8人くらいの人々が集まって来た。

たぶん私よりご年配の方ばかりだと思うが、女性仲間の参加が多い。

どなたも旅慣れた様子で、しっかりとアウトドアウェアを着こなし、
足元もトレッキング・シュウズでかためて、登山準備は万全である。

 

受付で拝観料を払えば山登り用の杖が与えられる。でも、貴重品や
ハンカチ以外に、カメラや携帯電話を持っての入山はできない。

きっと山岳修行の寺だから、物見遊山では、アカンちゅう事だろう。
最も“歩きスマホ”では、とても、この参道は登れないが^^

受付後、木造の仏像(重要文化財)が管理された収蔵庫を見学する。
室内の温度、湿度を一定に保つ建物だが、新しく、立派である。

室内には、本尊の千手観音坐像を始め、毘沙門天立像、不動明王
二童子立像、釈迦如来立像が安置されている。

どの仏様も小像ながらも、本体や台座に繊細な切金文様が施され、
お姿と共に美しく素晴らしい。思わず、合掌。南無千手観音菩薩。

天井も高く、金剛力士像が左右の頭上から厳しく、見降ろしていた。

収蔵庫で住職より説明を頂いた後、いよいよ仁王門へと向う。

入母屋造り、柿葺き単層の八脚門の、堂々とした仁王門は、貞和6年
(1350年)に建てられて、勿論、重要文化財である。

そんな凄い門が、普段使いなのには驚くが、左右にいるべき、阿吽の
仁王像はしっかり、先の収蔵庫の中に、おられるから安心である。

                    ◆

門の扉が開かれ、ブォォォと、住職が法螺貝を鳴らし、行列が動く。

一段、一段、杖を突き、脚を上げ、一列に並び、行列が山を登る。

慙愧懺悔(ザンキザンゲ)、  六根清成浄(ロッコンショウジョウ)

住職の “ザンキザンゲ”の声に続き、 皆が “ロッコンショウジョウ”

と、大きな声を出して、呼吸を整えながら、上を目指す。

“ザ~ンキ、ザ~ンゲ” 「悔い改め~、悔い改め~」

“ロッコ~ン、ショウジョウ~”
「煩悩を生む六つの根、目・耳・鼻・舌・身・意を清らかにしよう」

「欲や、迷いを断ち切って、心身を清らかにしよう」

ブォォォ~、ブォォォ~、ブォォォ~、

住職の指示を受けた、私の仕事は、住職に続き、大きな声で、
“ロッコ~ン、ショウジョウ~” を皆に、先導して歌うこと。



“ザ~ンキ、ザ~ンゲ”


高く聳える杉林を仰ぎ、山肌に響かせるような、大きな声で、
“ロッコ~ン、ショウジョウ~”

雨が上り白い靄が立ち、頭上に見え始めた、本堂を目指し、
“ロッコ~ン、ショウジョウ~”

「俺は此処で、何をしているんだ?」 と云う、思いがよぎりながらも、
“ロッコ~ン、ショウジョウ~”  

と、大声で、無我夢中に繰り返す、

まるで、己の憂いや迷いを全て、大悲山へ捨て、浄化さすように… 


【大悲山・峰定寺】
住所/左京区花背原地町772    電話/075-746-0036
出町柳駅より、京都バスで約2時間。大悲山口下車。徒歩30分。
悪天時・団体・子供は入山不可。12月1日~3月30日積雪の為閉門