峰定寺へ行って来た。と、言っても一般的にはあまり馴染みない、
お寺かもしれないが、知る人ぞ知る、京都の隠れた古刹だ。
峰定寺は、聖護院と同じ本山修験宗のお寺だが、1154年(久寿1)に、
かつて大峯山や熊野などで修行を積んだ修験者、観空西念によって
創建されている。本堂は、日本で一番古い舞台造りの建築物である。
観空西念は当初、鳥羽上皇から京の都に来るようにと話があったが、
彼は、争いが続き疲弊した都を嫌い、大悲山に寺が建つ事を望んだ。
大悲山は古より、修験者の修行の場であり、大和の大峯山に対し、
「北大峯」と呼ばれていたが、今は修行場に立入る事はできない。
また本堂の舞台造りは、懸造(かけつくり)とも呼ばれ、崖地に太く
背の高い柱を何本も立て、柱の間に貫を組み合わせ、上部の本堂
を支える工法だが、清水寺の舞台の形を思えば、わかりやすい。
イメージ(清水寺)
だが、此処の舞台は、京都市内から車で約1時間半の、山深い所に
在って、そこに辿り着くには、鞍馬山を昇り、つづら折りの坂道で、
身体を左右に激しく振りながら、花背峠を越え、桂川の源流の一つ
である細く蛇行した川沿いを走り、大悲山を目指さねばならない。
飛び込む景色は、深い緑の所々に、黄、橙、赤と錦秋の色合いを
滲ませながら、後方へ流れて行く。朝からの雨も上がり始め、時折
差す木漏れ日が、印象派の絵の様に、彩りを浮き上がらせていた。
やがて「峰定寺へ」の看板のままに、横道を行けば、寺へと続く。
黒く四角い木の門柱を構えた、寺の入口を抜けて、100m程歩くと、
峰定寺の舞台(本堂)への登り口でもある、仁王門の前に到着する。
峰定寺の舞台(本堂)へ上るには、仁王門を潜って、400段程の石階段
を登らねばない。階段は良く整備されているが、自然石を重ねている
為に、踏み石の上が、平らでない箇所もあって、滑り易い。
雨の日は危険なので、舞台(本堂)の見学は中止。そんな不安も感じ、
私は、昨日と今朝、峰定寺の住職に確認してから、車を飛ばした。
◆ ◆ ◆
峰定寺の住職とは前から、本山修験宗の事でお世話になっている。
峰定寺が平安時代から残る古刹である事、重要文化財の仏像が何体
もある事、花背の奥に寺が在る事を、伺ってたが、場所の特定できず、
いつか行きたいとは思っていたが、結局、来る機会が無かった。
それが先週、仕事で近所まで来た時、偶然、前述した「峰定寺へ」の
看板を見つけ、住職に電話した事が原因で、本日の結果となった。
住職曰く「来週は旅行客を案内するので、一緒に登るか?」との、
お声掛けを頂き、自分でも話を伺いたい事が、あっての参加だった。
午後1時に峰定寺に到着し、住職と案内の方々にご挨拶をして、暫く、
旅行客の到着を待つ。やがて17、8人くらいの人々が集まって来た。
たぶん私よりご年配の方ばかりだと思うが、女性仲間の参加が多い。
どなたも旅慣れた様子で、しっかりとアウトドアウェアを着こなし、
足元もトレッキング・シュウズでかためて、登山準備は万全である。
受付で拝観料を払えば山登り用の杖が与えられる。でも、貴重品や
ハンカチ以外に、カメラや携帯電話を持っての入山はできない。
きっと山岳修行の寺だから、物見遊山では、アカンちゅう事だろう。
最も“歩きスマホ”では、とても、この参道は登れないが^^
受付後、木造の仏像(重要文化財)が管理された収蔵庫を見学する。
室内の温度、湿度を一定に保つ建物だが、新しく、立派である。
室内には、本尊の千手観音坐像を始め、毘沙門天立像、不動明王
二童子立像、釈迦如来立像が安置されている。
どの仏様も小像ながらも、本体や台座に繊細な切金文様が施され、
お姿と共に美しく素晴らしい。思わず、合掌。南無千手観音菩薩。
天井も高く、金剛力士像が左右の頭上から厳しく、見降ろしていた。
収蔵庫で住職より説明を頂いた後、いよいよ仁王門へと向う。
入母屋造り、柿葺き単層の八脚門の、堂々とした仁王門は、貞和6年
(1350年)に建てられて、勿論、重要文化財である。
そんな凄い門が、普段使いなのには驚くが、左右にいるべき、阿吽の
仁王像はしっかり、先の収蔵庫の中に、おられるから安心である。
◆
門の扉が開かれ、ブォォォと、住職が法螺貝を鳴らし、行列が動く。
一段、一段、杖を突き、脚を上げ、一列に並び、行列が山を登る。
慙愧懺悔(ザンキザンゲ)、 六根清成浄(ロッコンショウジョウ)
住職の “ザンキザンゲ”の声に続き、 皆が “ロッコンショウジョウ”
と、大きな声を出して、呼吸を整えながら、上を目指す。
“ザ~ンキ、ザ~ンゲ” 「悔い改め~、悔い改め~」
“ロッコ~ン、ショウジョウ~”
「煩悩を生む六つの根、目・耳・鼻・舌・身・意を清らかにしよう」
「欲や、迷いを断ち切って、心身を清らかにしよう」
ブォォォ~、ブォォォ~、ブォォォ~、
住職の指示を受けた、私の仕事は、住職に続き、大きな声で、
“ロッコ~ン、ショウジョウ~” を皆に、先導して歌うこと。
“ザ~ンキ、ザ~ンゲ”
高く聳える杉林を仰ぎ、山肌に響かせるような、大きな声で、
“ロッコ~ン、ショウジョウ~”
雨が上り白い靄が立ち、頭上に見え始めた、本堂を目指し、
“ロッコ~ン、ショウジョウ~”
「俺は此処で、何をしているんだ?」 と云う、思いがよぎりながらも、
“ロッコ~ン、ショウジョウ~”
と、大声で、無我夢中に繰り返す、
まるで、己の憂いや迷いを全て、大悲山へ捨て、浄化さすように…
【大悲山・峰定寺】
住所/左京区花背原地町772 電話/075-746-0036
出町柳駅より、京都バスで約2時間。大悲山口下車。徒歩30分。
悪天時・団体・子供は入山不可。12月1日~3月30日積雪の為閉門