京フィル第211回定期公演 リレーコメント no.1   | 京都フィルハーモニー室内合奏団のブログ

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1972年に結成。2022年で創立50周年を迎える。
一人一人がソリストの個性派揃いのプロの合奏団。

 音楽監督の齊藤一郎です。早いもので、今年で就任5年目となります。

 1月27日、211回定期の演目は、京フィルに来たときからいつかやりたいと思って

いた作品です。これまでも、年間ラインナップを決めるときに今年こそは!と思って

いましたが、時期尚早と判断し見送りました。そういう意味では満を持しての定期と

なります。

 

 石井眞木先生の「起-承-転-合Ⅱ」の初演メンバーは(1999年、敬称略)徳永

二男、藤原浜雄、山口裕之、漆原啓子、川崎和憲、店村眞積、木越洋、向山桂絵子、西口直文ら、もの凄い顔ぶれです。

 眞木先生はこれらのスタープレイヤーを想定して曲を書いたわけで、高度な技術の

演奏法がたくさん出現します。はたして、京フィルでこれを演ったらさまになるのか?と自問しましたが、同じジャンルの弦楽合奏であるイサン・ユンの「tapis」や

クセナキスの「ANAKTRIA」でオーケストラは水準の高い本番をしたので大丈夫でしょう。

 

 弾くのは大変ですが、曲は難解ではありません。言葉で表現するならば、大自然の

山小屋で、さまざまな鳥の鳴き声に包まれながらうたた寝をしている。風が吹き、雨

が降り、ふと起きてみるとさっきは咲いていた花びらが散ってしまった。そんな音楽

です。

 

 編成は第一ヴァイオリン5人、第二ヴァイオリン4人、ヴィオラ3人、チェロ3人、

コントラバス1人。特徴は弦楽四重奏とそれ以外の合奏が別個の役割を持っていて、

全員にソロがあること。

 

 以下の譜面を番号順に見てください。

 

 

 これらは全て鳥の鳴き声をあらわしています。楽譜が読めない方や音符が小さくて

見にくい方のためにこの音形を表す鳥の写真と鳴き声を貼っておきます。

(注:これらは私の妄想で眞木先生は鳥の類別までは指定しておりません。)

 

音形①-クサシギ(さえずり)

 

http://www.bird-research.jp/1_shiryo/koe/kusashigi_180109_watarase_hirano.mp3

 

音形②-シロハラ(さえずり)

 

http://www.bird-research.jp/1_shiryo/koe/shirohara_090412_utsunomiya_hirano.mp3

 

音形③-カケス(威嚇)

 

http://www.bird-research.jp/1_shiryo/koe/kakesu_141027_wakayama_kuroda.mp3

 

音形④-キシバリ(さえずり)

 

http://www.bird-research.jp/1_shiryo/koe/kibashiri_060605_yaitahirano.mp3

 

音形⑤-オオセッカ(さえずり)

 

http://www.bird-research.jp/1_shiryo/koe/oosekka_070424_watarase_hirano.mp3

 

音形⑥-クマゲラ(ドラミング)

 

http://www.bird-research.jp/1_shiryo/koe/kumagera_110326_tomakomai_namba.mp3

 

音形⑦-ハシブトガラ(さえずり)

 

http://www.bird-research.jp/1_shiryo/koe/hashibutogara_110320_nopporo_namba.mp3

 

音形⑧-チョウゲンボウ(交尾)

 

http://www.bird-research.jp/1_shiryo/koe/chogenbo_130219_utsunomiya_hirano.mp3

 

 次にこの譜面を見てください。

 

 

 段落は異なりますが、左からG⑥④②⑦③①⑤⑧、G⑧①⑤⑥④③②⑦、G③①⑤

⑧⑥④②⑦と書いてあります。(Gはガイゲ-ドイツ語でヴァイオリンのこと。)弦

楽四重奏でソロパートを担当する二人を除いた7人のヴァイオリン奏者が、一人ずつ

順番にばらばらに集まった鳥たちの鳴き声を模倣し、やがて、7人全員が森に集まった鳥たちの群れとなります。この間、トップの弦楽四重奏はハーモニクスが主体で、春眠ののどかな雰囲気を表現しています。

 

 

 日が落ち始めると鳥たちは去って行き、辺りに風が吹き始めます。その勢いはどん

どん強くなり(上図)、山の木々がざわめき、雷鳴が轟きます。ヴィオラとチェロは

この部分が全員ソロです。

 

 この作品は孟浩然の絶句に触発された曲ですから、哲学的で難しいものと、感じるかもしれませんが、実はベートーヴェンの「田園」交響曲、R・シュトラウスのアルペンシンフォニーのように自然を豊かな想起で現したとても親しみやすい音楽なのです。

 

 さて、ハイドンの交響曲7番の「昼」ですが、これも鳥つながりでマニアックに見て

いきましょう。

 

 

 ハイドンにはタイトルがついた交響曲がたくさんありますが、楽曲の特徴や初演場

所を現したものが多いです。三部作「朝」、「昼」、「晩」はパトロンが「何か題名

つけてくれ」とハイドンに頼んで決定したもので、たとえば「朝」に関しては「太陽

が昇る感じで」という説もありますが、私はかなり適当に名をつけたのではないかと

思っています。

 仮に、三部作の交響曲の冒頭を感性だけで聴き、タイトルをふりわけるとしたら、

私のイメージは「朝」→「晩」、「昼」→「?」、「晩」→「朝」という感じです。

もし「昼」の代わりにタイトルを付けることが許されるならば、「鴨川河川敷を歩く

カルガモ親子」でいいでしょう。最初の全奏は親鳥、それに続く上行形のひな鳥のヨ

チヨチ歩きがやがて足並みをそろえ親鳥とのユーモラスな行進になる。こんなタイト

ルの作品が増えると京フィルにもっとお客さんが来てくれるのかもしれません。

 「昼」は交響曲というよりも、通奏低音を含んだ合奏協奏曲のスタイルをとっており、ソロパート、特にヴァイオリンとチェロが活躍します。ハイドンはコントラバスにまでソロを書いていますが、彼が座長を務めるパトロンのオーケストラの誰もが名人芸を披露できたということでしょう。

 

 二楽章のレチタティーヴォの最後のヴァイオリンソロがセンダイムシクイのさえずりに似ているので貼っておきます。

(解決音のラ・シをやたら繰り返していますが・・)

 

http://www.bird-research.jp/1_shiryo/koe/sendai_150605_oshu_mikami.mp3

 

 この定期のメインディッシュはR・シュトラウスの組曲「町人貴族」です。モリエー

ルの喜劇に基づいていますが、あらすじは読むなり調べるなりしてください。理屈抜きに面白い曲で、全ての楽器においしいソロがありますが、それらは一筋縄ではいきません。風変わりなネタで芸人が大爆笑を取るには緻密な計算と十分な稽古が必要ですが、それと同じものがこの曲では求められます。

 

 終曲の「若い料理人たちの踊り」の最終場面では、鳥料理を運んでくる様子が描かれます。クラリネットはアヒルかガチョウでしょう。食すには難がある夜鳴き鶯はフルート。「薔薇の騎士」のコラージュです。

 

 

 それでは、コンサートホールでお会いできるのを楽しみにしております。