台風が近付き、朝から雨足が強かった。
気圧のせいだか何だか分からないが、眠気が全く飛ばず、悪天候の中バスを乗り継いで病院まで行くのは気が重かった。
しかし行かねばならない、何故なら今日は月一の精神科受診日~♪
今回は次女も付き従ってくれると張り切ってくれていたので、それを心の糧に私も異常な眠気を従えつつも長靴を履きこみ、雨の中バスに乗り込んだ。
バスの本数は少なく、かなり早い時間に到着した。
久しぶりの精神科は大変混んでおり、呼ばれるまでソファに座って目を閉じていた。
本当ならば色々と先生に聞きたい事を次女と打ち合わせておくべきだったが、眠気がそれを邪魔した。
待つ事一時間半。
ふらふらと診察室へ入る。そして、
『すみません、大人数でぞろぞろと』
先生は次女を見ると、
『お嬢さんですか、確かお子さんは二人でしたね?』
『はい、下の子です』
『高校生かな?』
『いや…あの…成人済みです(笑)』←次女
『それは失礼しました(笑)ええと…どうですかね?』
近況を先生から聞かれ、早速私は先月までの酷い状態を話して聞かせた。
食事の時以外はほぼ眠っている事。起きている時でも動作が緩慢でまともな状態では無い事。
少しの飲酒量でも以前の、アル中時代に戻りつつある事。
ここ一週間程だが旦那は殆ど飲まずに頑張っていたのだが、恐らく受診日が近付いていたせいからなのだろう。
今は飲んでいなくとも、私達は騙されない!と私と次女はどうせまた直ぐに元通りになる事を確信していたのだ。
今日の私は眠気から頭の中に靄が掛かっているようで、今一つ話したい言葉が出てこない。次女を連れてきて本当に良かった…
『うーん…まあ、やっぱりね、体がもうお酒を全く受け付けなくなっちゃってるんですよね。どうすれば良いのか、それはもう断酒に尽きます。飲まないと言う方法しか手がないんですよ』
『でも…飲まないってどうすれば…』
『レグテクトは効かなかったんでしたっけ?』
すると旦那は、
『いや…少しは効いてる時もあって。効く時と効かない時が…』
『あの…』黙っていた次女が目を白黒させながら口を開いた。
『ぜんっぜん効いてるようには見えませんでした!!』
『そうですか…』
私と次女は、先生から『抗酒剤』を出して欲しいのだ。それはもう何ヶ月も前から切に願っている事である。
『後は…AAとかのプログラムに参加するとかですね』
AA……
はっきり言って私には妙な先入観があるのかもしれないが、AAは何となく私には生理的に受付兼ねる。
『他に断酒会ですね、仲間を見つける事に寄って効果があるとされていますよ』
…そんなの知ってる……
次女を横目で見て肘で突くと彼女は目をパチクリとさせた。
仕方がない、自分から抗酒剤の事を聞いてみるか。
すると先生は
『後は抗酒剤ですかね、でもこれはお酒を止められるお薬ではないんですけどね』
先生の方から『抗酒剤』を口に出してきた。
『また始めてみますか?抗酒剤』
私は旦那を見据えて
『本当は抗酒剤は飲みたくないんでしょ?』
『え、うーん、まあ…あれは飲みたくないな…』
歯切れ悪く答えたが、まあ本当に抗酒剤は飲みたく無いのだろう。あれを飲んだら最後、酒は一切飲めなくなってしまうからだ。
しかしここで思い留まっていては話が先に進まない。
『抗酒剤を積極的に出さなかったのは何か理由があるんですか?』
『やっぱり肝臓ですね。肝臓に良く無いので出来れば避けたいんです』
えっ、そんな理由??私は次女と目を見合せた。
『あれは肝臓の代謝を悪くする物なので、これ以上肝臓に負担は掛けたくないんです』
『あの、他にシアナマイドとかは…』
『シアナマイドもノックビンと効果は同じですけど、ノックビンより強いお薬なんですよ』
それは初耳…。
『まあでも、また飲んでみましょうかね?』
私は心の中でガッツポーズをした。
先生は次女を見て『お嬢さんも今日はお父さんを心配して来たのでしょう?』
『はい、心配です!』元気よく次女は応えた。
先生は旦那に向き直り
『ほら、お子さんにも心配掛けて。皆お父さんを心配しているんですよ。とにかく頑張って断酒を続けないとダメなんです。お酒をこれ以上飲むことによってどんどん命を縮めて行っちゃいますよ。お酒は体、内臓にも脳にも良くないんです。これ以上飲んでしまったらダメなんですよ』
『はい……』
明らかに旦那はションボリしていたが、可哀想だの何だの思っていては身も蓋もない無いのだ。
次の診察日を一ヶ月後に取り付け、三人でお礼を言って診察室を退出した。
病院を出ると既に雨は止み晴れ間が出ていて暑かった。私は長靴を履いて来た事を後悔した。
眠気は遂に晴れる事は無かった。
余りの睡魔に耐えきれず、帰宅してから少し仮眠を取ったが旦那は珍しく昼寝もせずにずっと起きていた。
今日は完全に飲んでいないと言う事が伺える。
仮眠を取った後は頭の中がスッキリとした。今日のうちに色々と旦那と話し合いをしておかなければ。酔っ払っている時には何を話しても全く意味が無いからだ。
旦那は『今歯医者さんの薬も飲んでるけど、他の薬を飲んでも大丈夫なのかなあ』と言ってきた。
奴は今歯医者通いをしており、抗生剤を毎日服用しているのだ。如何にもノックビンを後回しにしたいという気持ちが垣間見える。
『今日聞けば良かったね、まあ先生じゃなくても薬剤師さんに聞いてみたら?電話でも教えてくれるよ。先生よりも薬には詳しいかもしれないよ』
『うーん…』
『まあとにかく今は抗生剤の方が最優先だけどね』
『うん、歯医者さんの薬を飲み終わってからでもいいか!』
あ、これは完全に抗生剤が終わるまでノックビンは飲まないつもりだな。
『あのさあ。断酒するのは辛くて苦しいかもしれないよ。でも自分で何とかしなきゃしょうが無いでしょ?』
『うん、いやでも飲んでるって言っても本当にちょっとだけだよ、0.5%のやつを…』
『あなたが何を飲んでんだか知らないけどね!0.5%でも何でも、それっぽっちの量でも泥酔してんのよ!自分では平気って思ってるかもしれないけどねえ、私達から見たら完全に酔っ払ってんの!』
『体が受付無いって事か…』
何を今更。
『病気って言うのはね、結局は最後には自分で何とかしようって思わないと治らないのよ!アル中だけじゃない、他の病気でも何でもよ!自分の意思で治そうって思わないと治らないの、先生に何とかしてもらおうじゃなくて自分の意思で!』
『そうだよね…』
『自分でどうにかするしかないの、病院ってのはそれを補助してくれるだけなの!』
『そうか…』
『あなたは子供達の信頼を取り戻さないといけないの、分かる?』
過去に子供達がどんなにか嫌な思いをしてきたか、可哀想な目に合わせてきたかをこんこんと話して聞かせた。
滅茶苦茶な飲み方をしてどのような弊害があったのか、私は何度もほじくり返した過去を話した。
今のままでは断酒する事は、おそらく不可能だろう。
何か他に手段はある筈だ。
今日はノックビンの他に、いつものようにフルニトラゼパムと、後は胃痛があると言うので胃薬も処方して貰ってきた。
肝臓に負担が掛かるとは、ノックビン以外の薬も負担を掛けるはずなのだが…。
そこまで突っ込んだ質問はしなかった。
何故に今日に限ってこんなにも眠たかったのか…。他にももっと色々と聞こうと思っていた事があったはずだが思い出せないでいた。
次女は『やっぱり話したい事全部メモって行けば良かったね』と言っていたがその通りだった。
『折角一緒に行ったのに力になれずごめんね』
と謝って来たので、
『そんな事ないよ、一緒に行ったってだけで先生にも如何に今切迫しているかは通じたみたいじゃない?』
『まあそうだけど……』
私はこれから色々と考え無くてはならない。
それ以外にも仕事で小学生達とカードゲームをするので遊び方も調べなきゃだし←
アルコール依存症を治すのでは無く、本人の気持ちや考え方を改めさせる方法を思案しなければ。