おじいさんのありがたいおはなし | 怒涛の3ヶ月~2年目

怒涛の3ヶ月~2年目

旦那のアルコール依存症→精神科外来→離脱せん妄→借金地獄→断酒→スリップ→精神科入院→現在



その日、おじいさんが従業員に向かってキレていた。

『買い間違えたので返金して欲しい』

と言って来店してきたらしい。

以前はお客様のミスでの返金は認めていなかった。
一点一点の商品の単価が安いため、何でもかんでも返金しているとキリが無くなるためだ。
その為、他の商品と交換という形に持って行くのが基本だった。

しかし無下に断っていてもトラブルの原因にしかならない。
交換と言っても欲しい商品が無かったり、急いでいて時間が無い、等など。


おじいさんの対応に当たっていたのはⅩさん。

返金を求められたので、

『それでは今回限りと言うことでお受け致します』とⅩさんは言ったのだが、
その、
今回限り、
と言う所に怒りを覚えキレたのらしい。

キレて怒鳴り散らすこと数十分。
泣きながら裏の事務所に戻ってきたⅩさん。

また明日もそのおじいさんは来ると言う…

ぁぁ、またかよ……(›´ω`‹ )
ゲンナリする私たち。

まあでも、また明日も来るって言いながら本当に来た人って、今までほとんどいなかったし大丈夫。

と言っていたが甘かった。

翌日午後、本当に再び文句を言いにやって来たのだ。

『私が行きます』

名乗りを上げた勇者はまだ二十歳になったばかりの瀬名さん!(仮名)

えっ!マジで!?
彼女は一人で大丈夫、と言っておじいさんの所へ。

とにかく、何かあった時の為に、そのおじいさんと瀬名さんの近くで待機するスタッフ。

どうやら最初は昨日の文句から始まったようだが、
気付いたら

『私は太平洋戦争中、なんちゃらかんちゃら……』

『今の現代人はどうちゃらこうちゃら……』

えっ(´・ω`・ )?

おじいさんはどうやら文句から、自分の歴史を語り出した模様…

気付けば…30分……1時間……!?

『ねぇ!ちょっと長過ぎじゃない!?』
『ヤバくね!?早く何とかしてあげないと!』

そのうち、近くを通りかかった女性のお客様から

『大変ねぇ…あの方他のお店でもやっていたわよ、ふふふ』

ええー!?ゲローハッ


『どうする?』
『何とかして止めないと』

どうする事も出来ずオロオロするしかない私たち。

皆で瀬名さんの方に、目で合図を送る。
瀬名さんは、

『大丈夫』と、言うように頷く。

遂に、2時間が経過!!

そろそろ私たちも、なんとかして彼女を助けようと策を練っている間に

ようやく話し終わった様子で、
おじいさんは帰って行った。

いや。帰ってない!?ハッ

今度はレジに立っていた学生バイトの女の子に向かって

『昔はなんちゃら。私は太平洋戦争中どうちゃら』
をおっぱじめていたのだ。

バイトの子は、なんだかボロボロな風情で話を聞いていた。

レジがそのおじいさん一人の為に1台稼働出来ないとなると、
その他残りのレジは長蛇の列!!

しかしそれに文句を言うお客様はいなかった。

他のお客様は、そのおじいさんを見ないようにしながら、ひたすら大人しく列に並んでいたのである。

ひとしきり喋り終えたおじいさんは今度こそ帰って行った。

瀬名さんは何時間にも及ぶおじいさんの長ばなしを、適当に相槌を打ちながら全て聞き流していたと言う。
ニッコリして
『別に大丈夫でしたよニコニコと。

レジにいた子に至っては、彼女はちょっと変わっていると言うか、物凄い天然と言うか、世間知らずと言うか

まあ、そんな感じの子で、

『大丈夫です、為になりました』うずまきうずまきうずまき

ともののの凄い天然っぷりを発揮していた!


私ならあのおじいさんの長話しに大人しく耐えられたか自信が無い。

ともあれ、
それ以来そのおじいさんは店に現れる事はなかった。
良かった。

あれからまだ二年ほど…
あのおじいさんは元気に息巻いているのだろうか、


今では、
購入した商品の返金を求められたら、
レシートさえあればすぐさま返金して良い!

と本社よりお達しがあったので、返金トラブルは無くなった。

しかし、実際『返金して欲しい』と言ってくるお客様は滅多におらず。

よく考えれば、トラブルを起こすようなお客は、ほんのひと握りの数だけで、
実際のところは、
皆、普通に善良で、我慢強く、大人しく、
良い人の方が圧倒的に多い。

何年も前私は、この店はクレーマーの集まりだ!!
等と思っていたが、それは大間違いで、ほんの少しのおかしな客がただ単に目立っていただけだった。


本当はクレームなど、ゼロになって欲しかった所であるが。