かつて、李小龍の師匠として名が知られた存在であり、10年ほど前に甄子丹が演じたことをきっかけに様々な俳優が演じた詠春拳の使い手葉問(イップ・マン)。
今回は、甄子丹が演じる葉問シリーズ最終章という事で、その生涯のラストバトルが描かれることとなった。
コロナの影響はあったもののしっかりと観てきたので早速レビューしようと思います。
ここから下は壮大にネタバレしています。
もしまだ観ていなくてネタバレが嫌だという方は進まないでください。
ストーリー
アメリカはサンフランシスコで開かれている国際空手大会。
賑わう会場の客席に一人の東洋人が現れる。
詠春拳の使い手イップマン(演:甄子丹(ドニー・イェン))だった。
時は遡る事1か月前。
最愛の妻ウィンシンに先立たれ、男手一つで息子のチン(演:葉禾)を育てていたが、チンは学校で正当防衛とは言え喧嘩ばかりしていたため退学処分となり、更に自身も喉頭がんを言い渡される。
チンはどうしても武術を習いたいと言い張るが、イップマンはそれを良しとせずお互いの意見が平行線のまま、イップマンはチンに平手打ちをしてしまう。
そんなある日、経営する道場に一人の黒人が現れる。
ビリー(演:Simon Shiyamba)と名乗るその男はイップマンに用事があるようだったのだが、言葉が通じず道場生と一悶着を起こす。
そこにイップマンが現れ、ビリーは大喜びであるチケットとパンフレットを渡す。
それはイップマンの愛弟子ブルース・リー(演:陳國坤)からであり、リーの経営する道場生であったビリーはイップマンにサンフランシスコで開かれる空手大会へ観戦チケットを渡しに来たのだった。
当初は行く気はなかったものの、長年の親友であるポー(演:鄭則仕(ケント・チェン))や元道場生の言葉から、環境が変わればチンにとっても良いのではないかと思い、下見も兼ねて渡米する。
空港に着いたイップマンを出迎えたのは以前世話になった新聞記者のリョン(演:敖嘉年)だった。
今は出版社の辞令でサンフランシスコで仕事をしており、今回の件で留学に必要な書類をそろえるためにリョンの案内でチャイナタウンにある中華総会へと向かう。
そこではリョンと同じく以前世話になった猴拳の使い手ロー(演:羅莽)と再会する。
彼もまた一家と共に渡米していたのだった。
リョンとローと共に部屋に入ったイップマンは中華総会に参加している名だたる武術家に紹介される。
その中で中華総会を取り仕切るワン・ゾンホア(演:呉樾)から弟子であるリーの話を聞かされる。
チャイナタウンにいる中国人は西洋人に武術を教えないのがしきたりだが、リーは英訳した書籍を使って西洋人に中国武術を教えており、それを正さないと仲間とは認められないという。
リーの誰隔てなく武術を教える姿勢をイップマンは良しとしている為、話は物別れになってしまう。
紹介状が無ければ留学はままならず、人種差別が激しいこの時代において他の場所では紹介状は書いてくれない状況だった。
時は戻り、空手大会に顔を出したイップマンは舞台でのリーの活躍を観戦する。
試合後、リーはイップマンの現状を聞き、知り合いの弁護士に一筆書かせることを約束する。
そこにリーの門下であるビリーや海兵隊のハートマン(演:呉建豪(ヴァネス・ウー))が現れ挨拶する。
そんな中、先の大会でのデモンストレーションを信じない他道場の白人たちが因縁をつけてくるが、これをリーはいつもの事として返り討ちにする。
後日、リーの助力に寄り弁護士からの書類を持ちハイスクールに向かったイップマンだが、校長から中華総会からの紹介状か1万ドルの寄付をしないと許可は出来ないと言われる。
仕方なしに学校を後にしようとしたイップマンはそこであるもめごとに遭遇する。
中国人の女学生が嫉妬から他の女学生から恨みを買い、男友達を使ってリンチに遭っていた。
イップマンは軽く生徒たちをあしらい中国人の女学生を助ける。
その子はワン・ルオナン(演:李宛妲)と言い、中華総会のワンの娘でもあった。
道中心配になったイップマンはルオナンを中華総会へ送るが、ルオナンの怪我から喧嘩をしたと咎め、中国人が生きるためには耐えて過ごすしかないと言い、更にルオナンを助けたのは中華総会へ借りを作る為と邪推したワンはイップマンと手合わせをすることに。
詠春拳と太極拳がぶつかり合い一進一退の攻防が続くが、突然の地震により勝負は中断。
ワンは次の中秋節でケリをつけようと持ち掛けるが、イップマンは全ての物事を勝ち負けで決めるべきではないとしてその場を去る。
場所は変わって米軍海兵隊訓練所では軍の訓練に中国拳法を導入すべきと動いていたハートマンが木人椿を持ち込んだのだが、それを上司のバートン一等軍曹(演:スコット・アドキンス)が咎める。
白人至上主義であるバートンは中国拳法は必要のないものと断じ、交換条件として空手教官のコリン(演:クリス・コリンズ)と勝負をして勝てたら木人椿を置いても良いと言う。
しかし、ハートマンの力量ではコリンの剛腕はさばききれず敗北し、木人椿を燃やされてしまう。
それでも諦めずに上層部へ働きかけるハートマンに苛立ったバートンはコリンを使って中国拳法を潰しにかかる。
時は中秋節、チャイナタウンでは中秋を祝う華人で賑わい、中央の舞台では各門派の門弟たちが型を披露していた。
そこに突然コリン達海兵隊のメンバーが現れ、空手こそ至上であり中国拳法をこき下ろした。
頭に来たローを始めとした各門派の師匠はコリンと戦うが、コリンの剛腕に適う者はおらず次々と打倒されていく。
そんな暴挙を止めたのがイップマンだった。
イップマンはコリンの突きや蹴りを捌き、ショートパンチの連打からの一撃でコリンを打倒す。
チャイナタウンは歓声に包まれるが、ワンが移民局に連れていかれたと連絡が入る。
時は前後してルオナンをいじめていた女学生は自身の事を棚に上げて一方的にルオナンを悪者に仕立て上げ、移民局の局員である父親に泣きつき権力を使ってねじ伏せにかかってきたのだった。
移民局へ向かったルオナンとイップマンは同じく局員だったビリーから中華総会にガサ入れが入るから中華総会から離れるよう忠告を受ける。
中華総会へ連絡を入れるイップマンだが、その先では叫び声が上がり、イップマンはルオナンを移民局へ残して中華総会へ戻ると中華総会のメンバーが全員怪我を追っていた。
コリンが軍病院へ担ぎ込まれたことを知ったバートンはリーが流通させていた中国拳法の本から中華総会のリーダーであるワンを叩き潰すために中華総会へ乗り込んでいたのだった。
イップマンと入れ替わりに移民局へと向かったバートンはワンを海兵隊訓練所へと連れていく。
新兵を集め中国人を叩き潰す腹積もりのバートンに対してその場に現れたハートマンはワンに勝負をするべきではないと伝えるが、イップマンとの勝負から思う事があり、耐える事を辞めたワンは勝負を受ける。
しかし、コリンを上回る力量を持つバートン相手に劣勢となり、ついにワンは足を砕かれてしまう。
移民局のガサ入れから逃れるため、中華総会のメンバーはリーの道場へと避難していたが、そこにハートマンからワンが敗れた事を聞かされる。
思う所があったイップマンは香港へ電話し、ポーやチンに自身の病の事と香港に戻った時には武術を教える約束を伝える。
翌日、ハートマンに連れられたイップマンは海兵隊訓練所へ乗り込み、バートンに戦いを挑む。
先の一件での怪我も癒えず、かつての体力も無いイップマンはバートンの猛攻に一度は沈みかけるが、不屈の闘志で立ち上がりわずかなスキをついて急所に一撃を与え、遂に勝利する。
戦いも終え、ワンとイップマンは茶を飲みながら話をしていた。
ワンはイップマンに紹介状を渡したが、イップマンは今回の一件で必ずしも新しい土地が良いとは限らないと感じたのだった。
香港へ戻ったイップマンはチンに約束通り武術を教える。
資料として残すために8mmに木人椿を打ち込む自身の姿を記録させる。
木人椿を打ち込みながら日中戦争時の日本兵との戦い、香港に来たばかりの頃の武術家やボクサーとの戦い、地上げの一件や同門対決等これまでの激動の人生を思い返す。
そして1972年。イップマンの人生は幕を閉じた。
葬儀会場にはアメリカから駆け付けた愛弟子リーの姿があったー
2009年に公開された「イップ・マン序章」から約10年にわたるイップマンサーガの最終章である。
最終作の本作ではシングルファーザーとなった葉問が渡米先での出来事から息子と向き合う親子の絆を描く。
本作の目玉と言えば、アクションスターのスコット・アドキンスとの共演とラストバトルだろう。
アドキンスの体格から繰り出される空手の蹴りや突きを甄子丹が如何に立ち向かうか。
今回はこれまでとは魅せ方が一味違っていて、本作での葉問は年齢として60代後半。
その為、過去作のように体力がある訳でもなく、怪我の治りも遅く苦戦を強いられる。
一方でアメリカでの出会いや出来事から息子であるチンと向き合い、武術を教えるという3とは違った家族愛を魅せてくれる。
そこで葉問とぶつかり合うのが呉樾演じる太極拳使いのワンであり、3から引き続き登場する陳國坤演じる愛弟子のブルース・リーである。
ワンは年ごろの娘がいて、やはりすれ違いが起こり、元々の移民としての在り方もあってそれが同じ境遇の葉問と重なり、葉問と通じて今まで敢えて耐えていたモノを爆発させて終盤ではバートンに戦いを挑む。
呉樾自身元々武術経験者と言うのもあり、優雅な太極拳は迫力ある動きとなり甄子丹の詠春拳とのバトルはもう一つの見どころともいえる。
もちろんそれだけにとどまらず、路地裏でのリーのバトルはドラゴンへの道のオマージュたっぷり。
方々でも言われているが、陳國坤のリーが良い感じでこなれてきているんだよね。
少林サッカーの頃は元々がモノマネだったから仕方ないが、やはりモノマネなんだけど今では自然体で演技ができている感じなんだな。
そこにはかつての職業李小龍の連中とは一味違う、ただのソックリさんでは終わらせないものがあると思う。
今回はバトルシーンはどれもが甲乙つけがたい位に見どころ満載なバトルばかりで、中秋節でのクリス・コリンズ乱入も良い。
羅莽の出オチなバトルはオチも含めて2作目を思い出させてくれるし、形意拳使いの周小飛のバトルは短い時間ながら女性特有のしなやかなバトルを魅せてくれた。
この人は「グランドマスター」での冒頭で梁朝偉演じる葉問と戦った拳士の一人だったりする。
クリス・コリンズは「SPL貪狼」で臓器売買の一味だった人ね。
今回は格闘技教官という立場で甄子丹とバトルする。
…とまぁ、これまでの話を総括したうえで上手くまとめてはくれたんだがやはり手放しでは喜べない点もある。
どうしても各部分において過去作の焼き直しな部分が散見されるんだよね。
バートンとのバトルとかが良い例で、どうしても西洋人は東洋人を見下して破壊する事を何とも思っていないあたりが2作目のイギリス人ボクサーと被る。
死亡はしていないが、仲間の中国人(2作目では洪金寶演じるホン)が倒される、葉問が仲間外れにされる等々どこかで見たなぁというのが過去作を知っていれば知っているほど出てくるんだな。
思えばイップマンシリーズは大なり小なり差別との戦いでもあった。
1作目では日本軍の、2作目では新天地香港で、3作目ではその役目は張晉演じる張天志が地位と名誉で…と続いて本作ではアメリカにおける有色人種の差別をこれでもかと見せつけられる。
場所柄的に仕方は無いとしても、これでは比較されてしまうのは当たり前ではある。
じゃあ他の作品や1作目の池内さん演じる三浦や3作目のタイソンみたいにリスペクト出来るキャラにしろよって話ではあるが、話としてはある意味よりシンプルにまとまるかもしれないが、そうなると中国人の存在意義が無くなるんだよな。
ちょっと前にタランティーノ監督作の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(以下ワンハリ)」でマイク・モー演じる李小龍があまりに尊大すぎて本人に似つかないとリンダ夫人からクレームが来ていたが、これは当時ハリウッドに来たばかりの李小龍を周りが見たイメージなんだと思う。
人種差別は抜きにしても、そりゃいきなりハリウッドにやってきて自身の理論を触れ回りまくれば、それが理屈に合っていたとしても当のアメリカ人からすれば神経質なビッグマウスの東洋人にしか見ないわけで、ワンハリではそういう傍から見た映画関係者の李小龍像を魅せたのかと感じた。
(もちろん中には李小龍の理論に心酔して弟子入りした人たちもいるし、全員が全員そういう見方をしてはいないが)
つまり、在米華人からすれば当時のアメリカ人はゴリゴリの人種差別主義者で忌むべき存在だったのかもしれない。
そうなると、当時のアメリカ人を傲慢で不遜に描かれていても不思議じゃないわな。
本作では葉問を通じて在米中国人の在り方を描写する必要があったわけで、同じ華人であるワンが葉問を通じて考え方が変わっていったわけだが、これと同じことをやってバートンまで改心しましたでは流石に都合よすぎるし、どんだけ葉問は人徳あるんだよになっちゃうからね。
そう考えると仕方のない所はあれど、二番煎じと言われても仕方ない所はある。
しかし、それを差し置いても葉問の残りの人生を賭けた息子との向き合い、対話をテーマにした本作は最終章として申し分ない出来だったのは間違いない。
有終の美を飾った本作に拍手を送りたい、そういう作品でした。