ひとりで旅をした、インドでね。
リュックを前にしょって、重い一眼レフを首からぶらさげて、
ガチガチにガードしてるつもりで、ホテルを出ると(明らかに観光客丸出しだけど)
一人二人と、人が寄ってくる。
三輪バイクのドライバーや、ガイドや、物乞いや、子どもが。
「なんにもいらないから。 一人で歩けるから」
何度も伝えてるのに、
「女性ひとりじゃ、危ないよ。 だいたい歩いてどこ行くの?
足が必要だろ。
必要になったら、声かけてくれればいいから」
そう言って、ついてくる。
私が先頭の行列ができる。
行列は、どんどん長くなって、かえって、目立って危ない。
「じゃ、ガンジス河まで乗せて。その後は、お願いだから一人にして」
「OK. そうするよ」
そう頼んだ、運転手のお兄さんは、結局、その次の日も、
勝手に私専属のガイドになった。
ひとりになりたいのーーー!
なみなみとしたガンジス河を見ながら、日本語で叫ぶ。
牛の死体がどんぶらこっと、流れていく。
足下では、ヤギが破れかけたポスターを、食べている。
折れそうな骨と皮だけの修行僧が、河に入って沐浴をしている。
インドという国の縮図が、この河にはある、と感慨にふけった。
ホテルに戻ると、こんどは、ひとりぽっちに耐えられない。
食事もテレビも荷造りも、味気ない。
外では、あんなに、ひとりになりたかったのに、
しゃべる人がいない夜は、とても長い。
仕方なく本を読んで過ごす。
孤独だあーーー。
ベッドで何度も叫びながら、眠った。
インドを発つ日、
空港のデューティーフリーショップで、レジに並んでいたら、
「日本人ですか? それとも、韓国人? 」
と、めがねをかけた、まじめそうな青年に声をかけられた。(英語で)
「日本人です」
インドに疲れて、もう、だれともしゃべりたくなかった。
でも、流暢な英語を話す彼は、なにか売りつけるふうでもないし
レジを待つあいだだけ、しゃべることにした。
「日本て、いいですよね。 僕、日本に行ってみたいんです」
「どんなところがいいの?」
「だって、ほら、イルカが芸をするでしょ? 水族館のショーで」
「イルカ? ああ、そうね。イルカショー、おもしろいよね」
「あれは、本当にすばらしい!! あんなことができるなんて、
日本人は、本当にかしこいですよ。日本てすごいですよ」
青年はネットの動画で見たというイルカショーの感動をよみがえらせ、
興奮していた。
「あ、ありがとう。でも、インドだって、ITに強いじゃない。頭いいじゃない」
「一部の人はね。でも、この国は汚いし、貧困だし、僕の夢は、将来インドを離れることです」
「ふうん。住むとしたら、どこ? あ、日本に来たいって言ってたっけ」
「イギリス! じゃなければ、ヨーロッパのどこか、ですね」
「ひえーーー。日本じゃないんかい 」 ←注:日本語で。
素直であどけなさが残る青年が、
旅人のよどんでしまった心を、最後に癒してくれた。
あの青年と出会わなければ、
インドの印象が180度変わっていたかもしれない。
いまは、大げさにも、そんなふうに思っている。
この時のガンジス河の印象を書いた記事↓
・マイコミジャーナル
それにしても、イルカショーは、ヨーロッパにはないのか。
疑問が残ったままの、 161でした。