『地方議員は必要か』より #3

「おれの女になれ、一晩どうだ」胸をもまれ、スカートをめくられることも

  …女性の政治進出を妨害する「ハラスメント」の実態

        2024.8.15     NHKスペシャル取材班    文春オンライン

 アンケートによれば、「 飲み会の席で コンパニオンのような扱いをされた 」女性議員も…。

女性の政治進出を妨げる、悪質なハラスメントの実態とは? 

全国1788の地方議会(都道府県・政令指定市・市区町村)と、そこに所属する約3万2000人の

議員すべてを対象とした大規模アンケートを行った、

 

 

◆◆◆

 

議会は “ 超男社会 ”

 日本の地方議会は、聞きしに勝る “男社会” だ。

女性の地方参政権が認められたのは 1946年。その翌年に行われた第一回統一地方選挙で当選した

女性議員は 793人、当選者全体に占める比率は 0.4%だった。

 

 それから 70余年。NHKが 2019年1月1日現在で調べたところ、全国の地方議員の女性の比率は

約13%。女性議員が 一人もいない「女性ゼロ議会」は 全国1788議会のうち、340にのぼる。

 都道府県ごとの女性議員の比率にも 大きな差がある。20%を超えているのは、東京都・神奈川県

・埼玉県のわずか三都県しかない。一方、低いところは、青森県(7.3%)、長崎県(7.4%)、

山梨県(7.6%)などで、10%を超えていない県は 18県もあった。

「女性ゼロ議会」は 市議会では 全体の5%、町議会では 27%、村議会に至っては 55%もあった。

 

 2019年の統一地方選挙は、男性と女性の候補者の比率を できる限り均等にする法律、

「 政治分野における男女共同参画推進法 」の施行後、初めての大規模選挙だった。議員選挙に

立候補した女性候補者の割合は、道府県議・市区議・町村議で 過去最高となったが、当選した女性

の比率の上昇は 僅かにとどまった。比率は 回数を重ねる毎に着実に高まっているが、その歩みは

あまりに緩やかだ。

 

  「 婦人参政権が 平等で 平和な社会を築く手がかり、『鍵』である 」

 

 そう訴えて女性参政権運動に尽力した故・市川房枝参議院議員の記念会が 東京・渋谷区代々木

にある。市川房枝の精神を受け継ぎ、いまも 政治家を志す女性や有権者向けの勉強会などに

取り組んでいる。

 市川房枝の晩年に秘書を務めた久保公子理事長に、なぜ 女性議員が増えないのか、なぜ増えた方

が良いのか尋ねた。

 

   「 以前に比べたら、弱まっては来ていますが、政治は 男がやるもの、女性は 内助の功

   じゃないですが、おとなしくしているものだという意識、大声では言わなくなったとしても

   男尊女卑的なものが まだあります。ただ、女性は “次の世代” のことを より考えて行動している人

   が多いように思います。色々な問題が、従来の発想では解決しづらくなっているいまこそ、

   違った視点をもつ女性が 議会に進出することが重要なのです 」

 

 それを探ろうと、女性議員が半数を占める 神奈川県葉山町議会(定数14)を訪ねた。

2019年3月の時点で 7人いる女性議員も 30年ほど前は たった一人だ。 “第一号”だった横山すみ子

(2019年3月に引退表明)は、議員になった当初、「 よくヤジを受けた 」と言う。

   ただ、ゴミや保育園の問題といった生活に密着した課題について議論を重ねる中で、男性議員

から「 僕たちは気が付かなかった 」と言われるようになった。議会に 女性の視点や意見が加わる

ことで、徐々に “雰囲気”が変化していったと振り返ってくれた。

 

 同じく長年議員を勤めた 畑中由喜子(2019年3月に引退表明)も、女性議員が増えたことで

議論が活性化し、それに触発されるかのように 男性議員も活発に発言するようになったと言う。

こういう変化が生まれたのは、女性議員の方が より社会的な縛りがなく、「 これはダメとか、

これはこうしよう というような考えを 割とはっきり打ち出す 」傾向があるからだ というのだ。

 

   葉山町議会は あくまで一例だが、女性議員は、ゴミや保育園、介護など、男性議員が取り上げ

なかった生活に密着した課題に、女性の視点・立場で より積極的に取り組む傾向がある。

女性議員の存在は、“ 男社会 ”に化学変化をもたらす “ 触媒 ”のような役割を果たしているのかも

しれない。

 

女性議員を悩ませる「票ハラ」

 アンケートからは、やりがいや、議会に起きた変化についての記述もある一方で、女性議員を

取り巻く ハラスメントの実態も見えてきた。

 

〈 飲み会の席で コンパニオンのような扱いをされた 〉

〈 服を脱がされる、両脇をかかえて 両方から胸をもまれる、スカートをめくられる。

   おれの女になれ、一晩どうだ、など 〉

〈 握手をして 手を離さない、お酌を強要する、大きく抱きついて 愛しているとキスをされた。

   議員のお尻を触ってみたい と大きな手でつかまれた。告発したいと思ったができなかった 〉

 

 アンケートの自由記述欄には、目を疑いたくなるような女性議員の悲痛な声が並んでいた。

憤りにも似た驚きを持って 読み進める中で、耳慣れない言葉を見つけた。

 

〈 女性議員に対する「票ハラ」は 厳然と目の前にある現実である。私も 例外ではなく、

   この現実のなかで もがき苦しんでいる女性議員の一人である 〉

 

  「票ハラ」とは 一体何なのか、さっそく 議員本人に連絡を取った。

この女性議員は「 票ハラは 女性議員なら誰もが経験している 」と断言した上で、選挙や日常活動

を巡るハラスメントの現状を打ち明けてくれた。

 

『地方議員は必要か』より #4

 「ハグさせて」「おっぱい触らせて」と言ってくる有権者も

   …女性議員を苦しめる犯罪的行為「票ハラ」の悪質

 

有権者によるセクハラ的言動は 日常茶飯事

 一票の力に物を言わせて 有権者が行うハラスメント、「票ハラ」が起こる場面は、選挙運動、

日常の活動、いずれの場合も問わないという。女性議員は「 自分が住む地域は 男尊女卑が強いのか、

セクハラ的言動は 日常茶飯事。ストーカーのように 一方的にメールを送りつけてくる、有権者の

おじさんから、『ハグさせて』『おっぱい触らせて』なんて言われることも たびたびあった」と憤る。

 

 こんな言葉をかけられて、「 怖い 」と思わないはずはない。ただ、そう思っても

「 相手も人間だから、有権者だから、寛容であることも必要だ 」と 当初は我慢していた。

しかし、我慢したという “誠意” は 相手には伝わらなかった。女性の支援者に相談したら、

「 大目に見ようなんて言っていたら ダメ 」という話になったという。毅然と対応するようにした

ところ、徐々に「 票ハラ 」は受けなくなった。

 

  「 有権者は いい人、といった性善説ではやっていられない。有権者の意識を変えることは

もちろんだが、ハラスメントを受ける側も 毅然と対応するという意識を持たないといけない」

                                                                                                           (同じ女性議員)

 別の女性議員も 実態を打ち明けてくれた。選挙運動中は 感じなかったが、当選後、活動の際に

セクハラを実感する機会が増えたという。

  例えば、年長の有権者がいる会合に参加した時、水商売の女性に声を掛けるようなトーンで

「 お姉ちゃん 」と呼ばれることが多々あるという。男性議員は 当選回数を重ねるたびに、扱いが

「重く」なっていくが、女性議員は そうしたことがなく、常に「格下」にみられているような感じ

がしているのだそうだ。

 

 胸・お尻の形や大きさ、スタイル・容姿に関することを しつこく言ってくる人も多く、無駄(?)

に抱きついてくる男性有権者も あとを絶たないそうだ。 だから この女性議員は 自由記述欄に

次のようなことを書き込んでいた。

  〈 セクハラを言う人は それがセクハラという意識がない 〉

 

 人と会うときは 隣に座らずに、向かい合って座る。手が腰などに回ってきそうな場合は、

すっと離れるようにする。自衛策を講ずるしか、いまのところすべはないということだ。

また、行政職員 や 同僚議員からのセクハラを訴える人もいた。

 

  〈 有権者、同僚議員、行政職員に「若い」「女性」へは 失礼があってもよいと考える人もおり、

   パワハラ、セクハラが 必ずついてまわります。そのため、せっかく当選しても 長く続けられず、

   女性の声、若い世代の声が行政に届きにくいまま、改善されることはありません 〉

 

「体触っていいか」

  この書き込みをした女性議員は、議会の会議室で、同じ会派の男性議員と うち合わせをして

いた時に、他の議員から 耳を疑うようなことを言われた。

 

「 できているんじゃない? デートか? 」

 

 真面目に、議会での活動方針について打ち合わせているのに、そのようなことを言われた。

それも 一度や二度ではない。まるで 小・中学生が恋愛を冷やかすような言葉だが、いわれるたびに

心が折れかけた。

 「 きょうは生理か 」なんて 事を平然と聞いてくる人も 後を絶たない。行政の幹部から、廊下で

急に「 体触っていいか 」と何の脈絡もなく言われたこともあった。しかし、相談できる相手は、

周りにいない。

 

 信じられないような話だが、どうやら これが実態らしい。議会の内外で 女性議員を取り巻く環境

には、「時代錯誤」、いや、犯罪行為とも言えるような 横暴もまかり通っているというのだ。

 議会内で ハラスメントが横行している実態は アンケートの集計データからも浮かび上がる。

 

 「 別の議員のセクハラ・パワハラがある 」という設問には 15%、「 有権者のセクハラ・パワハラ

がある 」という設問には 10%が、そう思うと答えた。

   何と議員の方が、割合が高いのだ。議員は 社会に蔓延するセクハラ、パワハラ、モラハラを

社会から無くす方策などを率先して考える立場なのだが……。 ハラスメントの有無については、

性別によって認識の隔たりが見られた。