携帯契約での「読み取り義務化」は、

   マイナンバーカードの「基本概念」を根本的にひっくり返す悪手だ

       加谷珪一(経済評論家)  2024年07月04日   ニューズウィーク日本版

 < 政府は 当初、マイナンバーは 厳格な意味でのIDではなく、取得は任意としていたが、

    すでに そうした説明は完全に破綻してしまった >

 

  携帯電話契約時(対面の場合)の本人確認に当たって、マイナンバーカードに搭載されている

ICチップの読み取りが必須となる。携帯電話がなければ 社会生活を送るのが極めて困難という

現実を考えた場合、これは 政府による事実上のマイナンバーカード義務化といえる。

 

    マイナンバー制度については、無理に カードを使わせようとする政府のスタンスや、

セキュリティー面での不備などに対して 数多くの批判が寄せられてきた。

    だが、これまで指摘されてきた事象は、あくまで 個別の問題であると見なすこともできたが、

今回の措置は、任意取得という基本概念を根本的に ひっくり返すものといえる。 制度の根幹が

揺らいでいる以上、解体的な出直しが必要である。

 

   マイナンバー制度に対しては、当初から いくつかの疑問点あるいは問題点が指摘されてきた。

1つ目は、マイナンバーカードは 厳格なID(身分証明書)なのか、そうでないのか、はっきり

していないというもの。 2つ目は、物理的なカードの導入に 政府が過度に固執している理由が

不明瞭であること。  3つ目は、民間での商業利用が大前提となっていること、である。

 

なぜ 政府は「カード」を絶対視しているのか?

    政府は 当初、マイナンバーは 厳格な意味でのIDではなく、「IDカードとしても利用できる」

との説明にとどめており、そうであればこそ  取得は任意であり、民間企業にも開放するとの流れ

だった。

   厳格なIDでなく、より便利になるツールという程度の位置付けであるなら、セキュリティー も 絶対

である必要はなく、民間企業に 事業を開放し、ポイントなどを使って取得を促すことも許容される

だろう。

 

    だが、紙の健康保険証の廃止に続き、携帯契約時の読み取り義務化が実施されれば、

マイナンバーカードは ユニーク(唯一の)な身分証明手段とならざるを得ない。そうなると、

これは れっきとしたIDであり、もし そうであるならば、気軽に持ち歩くようなものではないし、

民間への自由な開放など 危険極まりない。

 

    筆者は 今でも 政府が物理的なカードを絶対視している理由がよく分からない。一部の論者は

カードや読み取り機を製造するメーカーの利権が関係していると指摘している。

そうした面があるのは 事実かもしれないが、それだけの理由で カードの導入をここまでゴリ押しする

というのは、他の政治利権との比較で考えても不自然である。

 

これまでの政府の説明は完全に破綻してしまった

    改めて説明するまでもなく、マイナンバーそのもの と マイナンバーカードは 不可分ではなく、

カードがなくても、制度は問題なく機能する。実際、韓国では 類似の制度を 既に導入しており、

行政手続きは 日本では考えられないほど便利になっているが、手続きに際して カードの提示は

必須ではない。

   筆者は、政府内部で 制度設計に携わった担当者や、カード導入を強く主張した関係者の多くが、

カードという物理的なツールが存在しないと 本人確認ができないと、本気で誤解していたのでは

ないかと疑っている。

 

   いずれにせよ、これまでの政府の説明は 完全に破綻しており、到底、国民の信頼を得ることは

できないばかりか、大規模な情報漏洩など 取り返しのつかない事故を引き起こすリスクについても

考える必要が出てきた。マイナンバー制度は ゼロベースで見直す必要があるだろう。