SHARPに「振り回された…」 「世界の亀山」に沸いた町の今
2024/6/14 毎日新聞
シャープが液晶ディスプレー事業を行う亀山工場(三重県亀山市)などの生産規模を縮小する方針
を示して 14日で1カ月。 県と亀山市の肝いりで誘致し、一時は 一貫生産した液晶テレビが
「 世界の亀山モデル 」として一世を風びした。
同社は 亀山工場の従業員のリストラなどを実施しない としつつも「 配置の最適化を行う 」と表明。
市民からは 存続を不安視する声も上がっている。
「 工場が完成した頃は 朝から夕方まで 工場と亀山駅のピストン輸送で 月 160万円稼いだ。
今では その区間のお客さんは 1日1組あればいい方。寂しいね 」。
タクシー運転手の男性(62)は さみしげな笑みを浮かべた。
市内の不動産業者も「 シャープの従業員向けに建てた集合住宅に 空き部屋が目立つ。特に 最近は
ワンルームが供給過剰になっている 」と肩を落とした。 全30室のうち 20室が空室の物件もある
という。
シャープ亀山工場は 2000年代に 当時の北川正恭知事が中心となって誘致。県は 補助金約90億円
(うち約6億円は その後返還)を支出し、亀山市は 45億円を減免措置した。ともに破格の拠出だった。
県企業誘致推進課によると、シャープ関連の県の税収が 04年~18年で 約540億円(関連15社を
含む)増えており、担当者は「 一定の成果があった 」と評価。
操業前に 3406億円だった市の製造品出荷額も 08年に 1兆3843億円と4倍に増え、市の税収も
70億円台から146億円へと倍増した。
しかし、価格競争などで 次第に苦境に立たされたシャープは テレビ事業の大幅縮小を迫られる
などし、亀山工場も影響を受けた。最盛期に 約3000人いた従業員は 今年3月時点で 約1900人。
今回は 06年に 生産を開始した第2工場で 生産規模を25%削減するとしている。空いたスペースを
外部に貸し出すことも検討しているという。
亀山市の桜井義之市長は 5月28日の定例記者会見で シャープ側から「 現時点で関連企業や従業員
への影響はない 」と 人員は削減しない趣旨の説明があったことを明かし 「 今後についても ご期待
申し上げ、注視していきたい 」と話した。
ただ、シャープに「 振り回された 」と感じている亀山市民もいる。 市内の女性(82)は
「 シャープが来たからといって 思ったほど中心市街地は盛り上がらなかった。もし 今後、撤退
なんていうことになれば、さらに 町は衰退してしまうのでは 」と不安を口にする。
亀山市で 25年間市議をしている服部孝規市議は「 誘致の段階から見通しが甘かったのでないか 」
と指摘。「 技術革新が早い産業の一社に依存してしまった結果だろう。地元の正社員の採用も少ない
とされており、中心街でも シャッターの下りた店舗が目立つ。今後について 市には しっかりと
考えてもらいたい 」と注文した。