アングル:ドイツで政治家標的の暴行事件急増、背景に社会の分断

           2024年5月13日  ロイター

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[ベルリン 10日 ロイター] - ドイツでは 今年に入って、政治家を標的にした暴行事件が急増して

   いる。専門家は ポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭や、ソーシャルメディアの普及による社会

   の分断が背景にあると指摘する。

      欧州議会選挙と地方議会選挙に向けて 選挙戦が進む中、わずか 1週間で政治家を狙った

   暴行事件が 3件も発生した。

   ドイツ東部ドレスデンでは3日、与党・社会民主党(SPD)所属のマティアス・エッケ欧州議会議員

 が ポスターを貼っていたところ、黒ずくめの集団に殴られて重症を負い、手術を受けた。

   ノルトホルンでは 男が議員に卵を投げつけて顔を殴り、ベルリンでは上院議員がカバンで殴られた。

      投票を控えて 緊張が高まるのは いつものことだが、政党関係者やアナリストの間からは、何か

    変化が起きているとの声が出ている。連邦刑事庁の発表によると、身体的傷害を伴う襲撃事件が

    急増しており、2023年 通年の27件に対して 今年は 既に22件に上る。

       ソーシャルメディアによる あおりを受けた対立のエスカレート、ポピュリストによる 分断や

   「口撃」で、選挙戦は 殺伐としたムードになっている。

 

        デュッセルドルフ大学の政治学者シュテファン・マルシャル氏は「 感情的な二極化が起きて

    おり、反対勢力は 『敵』に位置付けられている 」と述べた。

    ロイターは 身体への攻撃 もしくは言葉による攻撃を受けた政治家12人を取材。そのほとんどが、

    敵対的な風潮に 候補者や選挙活動家がおびえ、最終的に 選挙結果がゆがめられてしまうことを

    主なリスクに挙げた。

      「 自分は ここでは必要とされていない。姿を消すべきだと感じるようになる 」と、

    東部テューリンゲン州の地方選に 中道左派の SPDから立候補しているミヒャエル・ミューラー氏

    は話した。2月に 過激思想に反対するデモを組織した後、自宅に火をつけられ「 以前は 考えも

    しなかったが、撤退も選択肢の一つになった 」という。

 

<襲撃の急増>

        政府データによると、ドイツでは 2019年以降、政治家に対する言葉による攻撃や身体への攻撃

     が 全体で2倍以上に増加した。

     政党別で 最も被害件数が多い連立与党、緑の党は、党員による 昨年の被害報告が 1219件と 19年

   から 7倍に急増。次に多いのは 極右政党「 ドイツのための選択肢(AfD) 」の 478件、3番目

     が SPD の 420件。

 

         SPDや緑の党など 与党政党の関係者は、雰囲気が険悪になって対立が激化したのは AfDによる

   過激な論調のせいだ と非難する。

     緑の党の欧州議会議員である ニクラス・ニーナス氏は「 公の場で『彼らを追い詰めよう』と放言

     する政治家がいると、言葉が行動を形成してしまう 」と述べた。AfDの前党首アレクサンダー

  ・ガウラント氏は 17年の演説で、当時のメルケル首相を追い詰めると発言した。

 

        ニーナス氏は 小児性愛者、犯罪者といった言葉を投げつけられているという。

     一方、AfD は こうした批判を全面的に否定。共同党首のアリス・ワイデル氏は 先週、襲撃事件を

     政治的利益のために利用しようとする試みは「 卑劣かつ無責任 」であり、AfD の政治家や

   メンバーも頻繁に襲撃を受けていると反論した。

 

<自衛策>

         緑の党の政治家は、自分たちに向けられた 侮辱的な多くの発言に ナチスの影響が強まって

      いると述べた。テューリンゲン州の緑の党代表マックス・レシュケ氏は「ブーヘンバルト強制

      収容所に行け」といった発言を挙げた。

 

          警察当局によると、エッケ氏襲撃事件で 捜査を受けた4人のうちの1人は、自宅に右翼的な

       資料を所持していた。また、エッケ氏襲撃グループは以前、やはり ポスターを貼っていた緑の党

       の選挙活動家を襲撃していた。

          この襲撃事件を目撃した緑の党の選挙活動家によると、選挙イベント予定の事前公表を避け、

       標的にされるのを避けるために 車にマークを表示するのをやめるメンバーもいるという。

 

           フェーザー内相は先に、政治家や活動家を襲撃した場合の法的処罰を厳格化し、選挙陣営

        に対する警察の保護を強化する方針を示した。

           東部で選挙運動中の政治家によると、既に独自の予防策を講じ、身を守るための講習会の

        開催も増やしている。東部の町ゲラで 緑の党を率いるルイス・シェーファー氏は、もし、

        誰かが 選挙ポスターに害を与えているのを見かけても、それを止めようとして自分の身を危険

        に さらさないように呼びかけているという。