CBDC(中央銀行デジタル通貨)とは?各国の導入事例と日本の取り組み

                  Fortna Ventures

 CBDC(中央銀行デジタル通貨 )とは、世界各地の中央銀行自らが発行するデジタル通貨のこと。

研究や調査・実証実験などの取組みを行っている国も多く、日本銀行でも実証実験を開始している。

本記事では CBDCの概要やメリット、日本の取り組み状況などを紹介する。

MENU

 

CBDC(中央銀行デジタル通貨)とは?

 CBDCとは「Central Bank Digital Currency」の略で、中央銀行デジタル通貨とも呼ばれるもの。

以下の3つの条件を満たすものと定義されている。

  1⃣ デジタル化されていること

  2⃣ 円などの法定通貨建てであること

  3⃣ 中央銀行の債務として発行されること

ここでは CBDCの概要や仮想通貨との違いについて解説する。

 

〇 各国の中央銀行が発行するデジタル通貨

     CBDC(中央銀行デジタル通貨 )とは、各国の中央銀行が発行しているデジタル通貨のこと。

 現在 私たちが支払いに使っている通貨は 紙幣や硬貨といったアナログな貨幣であり、CBDCは

 それらと異なり デジタルで取引される通貨である。

 中央銀行では 誰でも 1年365日、24時間使える支払手段として銀行券を提供している。

 これをデジタル化するのはどうか という議論が 各国で行われている。

  各国では CBDCの調査や実証実験が積極的に行われ、正式に発行する国も出る一方、民間銀行の

 預金や民間ビジネス、既存の金融システムへの影響など検討すべき課題も多いのが実情。

 そのため、慎重な姿勢を示す中央銀行も少なくない。

 

〇 国家の経済状況によって 通貨の価値が決まる

   CBDCは 国家経済状況により、通貨の価値が決定する。

 国家によって裏付けされた通貨のため、CBDCは 大きな価格変動が起きないのが特徴である。

 各国の中央銀行は 国の通貨供給量を管理しており、供給量の調整により 経済を刺激したり金利を

 設定したりする。

 CBDCも、これら通貨と同じ役割をするとされている。

   CBDCは 通貨・金融システムの安定を損なわず、公共政策上の目的を達成するために利用される

 のが原則である。

 現在発行されている通貨が CBDCに置き換わるのではなく、共存・補完するべきものとされている。

 

〇 仮想通貨との違いは 「法定通貨かどうか」

    CBDCと似ているものに仮想通貨がある。

 仮想通貨は 暗号資産とも呼ばれ、インターネット上でやりとりできる財産的価値のこと。

 代表的な仮想通貨には ビットコインやイーサリアムなどがある。

    CBDCと仮想通貨の違いは、法定通貨かどうかという点である。

 CBDCは 各国の中央銀行が発行するもので、国家に価値が保証されている。

 これに対し、仮想通貨は 国家による強制通用力を持たず、主に インターネット上での取引などに

 利用されている。

   CBDCは 国家によって裏付けされた通貨で 価格変動が起きにくいものですが、

 仮想通貨は 裏付け資産を持たず、さまざまな要因により価格が大きく変動しやすいのが特徴。

   仮想通貨は 新たな通貨としての道を開拓する一方で、国家からの支持を得られるものではない。

 オープンソースであり グローバルな支持基盤があるため、政府によるコントロールが不可能である

 ためである

   これに対し、CBDCは 自国の管理下におけるため 支持され、中国をはじめとする各国は 積極的に

 導入を検討している。

 

CBDCを導入する 3つのメリット

   中央銀行が CBDCを導入することで得られる大きなメリットは、現金取引でかかる さまざまな

 コストの削減や、業務の効率化ができることである。

    また、利用履歴が残るために マネーロンダリングを抑制でき、多くの人が金融サービスを利用

 できるようにするというメリットもある。

 

 ここでは、CBDCを導入するメリットについて、3つ紹介する。

⑴.現金取引にかかるコストを削減できる

   CBDCの導入によって、現金取引にかかるコストを削減できるのがメリット。

 現金取引では まず 印刷から始まり、保管、輸送、警備など多くのコストがかかる。

 ATMなどの現金管理にも コストが必要だ。

   また、CBDCは 決済のコストや業務の負担も削減する。

 銀行が 営業拠点のない国に送金する場合、現地の銀行を経由して行うが、そのプロセスは複雑である。

 スイスにある BIS(国際決済銀行)が行った実験では、これまで 国境を超えた決済に 3〜5日かかって

 いたところ、CBDCを使った決済では 数秒に短縮し、コストを最大50%削減できるという。

 CBDCは 金融機関のつながりが強くなるため、スムーズに通貨を動かせるようになるとされている。

 

⑵. マネーロンダリングを抑制できる

   デジタル通貨のCBDCは、利用履歴を残すことが可能である。

 匿名性の高い現金では難しかった利用者の追跡ができ、マネーロンダリングの抑制や脱税防止、

 犯罪組織に資金が流れることを防止するなど、犯罪対策に役立つ。

   利用履歴の追跡を目的の一つとして CBDCの導入を検討している国もあるが、プライバシー保護

 といかに両立するかの課題は残る。

 

⑶. 貧困層を含む多くの人が金融サービスを利用できる

    CBDCは ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)を可能する。

 貧困層を含む すべての人々が、金融サービスを利用できるようにする取り組みのこと。

 利便性の低い決済手段しかなく、経済や社会の発展が遅れている国や地域もある。

 CBDCにより ファイナンシャル・インクルージョンが進めば、銀行口座を持てない人やデジタル技術

 を利用できない人なども含め、多くの人に 安全で便利な支払い手段を低コストで提供できるように

 なる。

 

 

各国が CBDCを検討 及び導入に至った背景とその事例

    CBDCを検討している国は多く、導入に至った国も少なくない。

 特に 中国は 積極的にCBDCを導入しており、デジタル人民元のオンライン決済など実証実験も

 数多く実施している。

 また、スウェーデンやバハマ、カナダでも 導入や実証実験が行われている。

 各国が CBDCを検討・導入している背景や実施事例について、詳しくみていこう。

 

〇 中国|「デジタル人民元(DCEP)」を導入

   中国は 主要国の中でも CBDCの導入に積極的な国である。

 中国人民銀行が「デジタル人民元(DCEP)」を発行し、多くの実証実験を行っている。

 実証実験は 中国国内28都市で行われ、2020年12月には 蘇州市で デジタル人民元のオフライン決済

 の大規模な実証実験を行った。

   利用は スマートフォンに インストール した専用アプリを使い、店舗にある読み取り機で支払ったり、

 スマホ同士をタッチしたりなど、簡易な方法。

 実証実験は 街中の店舗や政府による補助金の支給など、幅広く実施された。

   2022年2月の北京冬季五輪では 外国人向けのデジタル人民元も発行し、導入を加速している。

 

 導入が急がれる理由

  中国でのデジタル人民元導入は 2014年から開始され、2017年にはデジタル通貨研究所を設立し、

 2020年には 法整備も行われるなど積極的に行われている。

 導入を急ぐ理由には、人民元の世界的地位向上の目的がある。

 米ドルより先に 人民元が デジタル化されて世界的に利用されれば、世界市場で優位に立てる可能性

 があるからだ。

   また、2019年に Facebookが デジタル通貨の「Libra(リブラ)」を発表したことも、中国が導入

 を急ぐ理由の一つとなった。

  Libraは 中国国内でも広く流通されることが考えられ、Libraの流入により 資金の移動について

 監視・統制体制が損なわれるとして、Libraが流入するより先に デジタル人民元を導入したいと

 考えたのである。

   ただし、Libraは その後「Diem」(ディエム)と名称を変え、連邦政府規制当局との対話を経て

 サービス提供を断念・終了している。

 

〇 スウェーデン|「eクローナ」を導入

   北欧のIT先進国であるスウェーデンは 世界に先駆けて CBDCの検討を始め、「e-クローナ」の

 実証実験が進められている。

 CBDC導入を急ぐ背景には、現金の利用が減少し、キャッシュレス決済が拡大しているという事情が

 ある。 カード決済の客が多くなるにつれて、コストのかかる現金の決済をやめる店舗が急速に増え、

 このまま キャッシュレス化が進めば 2025年には スウェーデンの半分以上の店舗で 現金が使えなく

 なると予想されているのだ。

    このような状況の中で 2016年から e-クローナの導入が検討された。

 e-クローナの実証実験は 2020年2月から開始され、2021年には「フェーズ1」として検討段階に

 おける報告書が公表されている。

   e-クローナの実証実験は 2021年2月までの期間を予定していたものの 2022年までに完了せず、

 2026年まで試行を続ける可能性もあると示唆されている。

 

〇 バハマ|「サンドドル」を導入

   人口が 約40万人であるカリブ海の島国バハマでは、2020年、CBDC「サンドドル」を 世界で

 初めて発行した。

   700以上の小島からなるバハマは 現金の輸送にコストがかかり、銀行の店舗数も減少している

 ことが CBDCの導入を急いだ背景にある。

 政府は サンドドルの発行により、国民が金融サービスにアクセスしやすくなるなどの効果を狙った。

   しかし、発行から 1年後の流通量は 現金の1%未満に止まっており、国民の認知度も低い状態だ。

 サンドドルは 十分な広報宣伝活動が行われておらず、一般国民や飲食店オーナーらの認知度が

 高まっていないという実情がある。

   CBDCの普及には 利用促進策が必要だ という課題が示され、中央銀行では さらに普及促進に力を

 入れていくことを表明している。

 

〇 カナダ|「CAD Coin」の実証実験

   カナダでは 仮想通貨の取引が本格的に行われており、ビットコインの新興企業も少なくない。

 多くのビットコインATMも設置されている。

 また、ビットコインの基幹技術のブロックチェーンは、国家規模でも積極的に利用されている状況。

    2016年には 中央銀行を含む大手銀行5社が、ブロックチェーンの技術を利用した仮想通貨

 「Cad-Coin」の実証実験を行った。

   また、近年は 中央銀行と米マサチューセッツ工科大学(MIT)が CBDCに関する共同研究を行う

 と発表している。

   技術面における CBDC発行に向けての布石とされているが、カナダが CBDCを導入するかは まだ

 明らかにされていない。

 

〇 ロシア|銀行間決済に活用可能なブロックチェーン開発

    ロシアの中央銀行は 2022年、CBDCであるデジタル・ルーブルの試験プログラムを開始した。

 12の銀行が 試験に参加する意向を示し、3つの銀行が CBDCプラットフォームに参加している。

 そのうち 2行は それぞれが提供する銀行アプリを使用し、顧客間のデジタル・ルーブル送金に成功

 した。

   プログラムでは 中央銀行がデジタル・ルーブルの発行元となり、プラットフォームの運営も行う。

 送金までの工程は、顧客が デジタル・ルーブルのプラットフォーム上に デジタルウォレットを開設

 し、銀行アプリから 口座内のルーブルを「デジタル・ルーブル」に交換するという流れである。

   ロシアは 今後も CBDCの導入のための取り組みを続け、数年以内に デジタル・ルーブルを正式に

 発行する予定としている。

 

日本におけるCBDC導入に向けた取り組み状況

    日本では、CBDCの発行については 予定されていない。

 現金流通高が増加している現状において、CBDCの発行を 国民が求めているとは考えられない

 ためである。

  しかし、将来デジタル通貨発行の必要性が高まったときには 的確に対応できるよう、日本銀行では

 技術面や法律面での調査・研究を進めている。

 

  日本におけるCBDC導入に向けた取り組みについて、詳しくみていきましょう。

・2022年4月時点では CBDCを発行する計画はない

   CBDCに対する国際的な関心が高まってはいるものの、CBDCの発行は 金融システムや経済全体

   への影響など幅広い観点から検討する必要性があり、日本は 2022年4月の時点で具体的な発行を

   予定していない。

    しかし、実現可能性については 検証実験が行われ、2018年には「中央銀行デジタル通貨に関する

   法律問題研究会」を設置して報告書をまとめている。

 

・実用可能性については検証中

    日本銀行では 2021年4月から、CBDCの実証実験について段階的な取り組みを行っている。

   まず 実証実験の第1段階として、2021年4月から 2022年3月までの間、「概念実証フェーズ1」を

   実施した。CBDCシステムの基盤となる「CBDC台帳」を中心に、CBDC に関する基本的な取引を

   的確に処理できるかどうかを検証している。

   2022年4月からは「概念実証フェーズ2」として、2023年3月までの検証が始められている。

   フェーズ1で確認した CBDCの基本機能に対し、より複雑な周辺機能を付加し、技術的な実現可能性

   やシステムの処理能力などを検証する実験である。

     日本でCBDCが導入されるかは未知数だが、検証実験の結果によっては 実現の可能性もないとは

   言い切れない。

 

・メリットだけでなく課題も多いCBDC

    CBDCには コスト削減などのメリットがあるが、課題も少なくない。CBDCを発行しても紙幣が

    なくなるわけではなく、従来の流通システムと並行して稼働させる場合は 運用コストや業務の負担

    は増えると予想されている。

      CBDCの手数料を どのように扱うかにより、手数料収入で成り立つ民間のキャッシュレス

    決済サービスにも影響を与える。

 

       また、CBDCは 利用履歴が残るため、個人情報保護の観点からの新たな課題も生じるだろう。

  法定通貨を一度発行したあとは 利用停止や廃止などの措置は取れないことから、万全な体制を

   作り上げることも必要になる。

      CBDCに関する法律上の問題も 幅広い分野で論点になり、立法措置が必要になる場合も考え

   られる。発行に向けた検討を行う際は、より掘り下げた議論が求められるだろう。