偽造マイナカードは「誰でも被害にあう恐れ」 

9200万枚突破、トラブル続出でも政府は用途拡大にまい進

                2024年5月15日   東京新聞

 偽造マイナンバーカードを使ったとみられる手口で スマートフォンの「乗っ取り」被害が起きた。

情報のひも付けミスなど マイナカードを巡るトラブルは相次ぐ中、 国会では カードの個人情報の

スマホ搭載や、外国人の在留カードとの一体化を図る法案が審議され、

将来的に 治安管理に使われないかとの懸念も上がる。市民の不安を残したまま、制度改正が進む。 

 

◆ スマホが突然使えなく

 「 私が巻き込まれた犯罪について知ってもらい、皆さまも ご注意いただくことを 切に願います 」。

大阪府八尾市の松田憲幸市議(43)は 今月6日、自身のホームページ(HP)で こう被害を公表した。

  4月30日午後、自身のスマホが 突然使えなくなった。契約するソフトバンクの地元店舗に相談すると

「 名古屋市の店舗で 機種変更している 」と告げられたという。名古屋の店員と電話で話したところ、

松田氏になりすました人物による「 スマホ乗っ取り 」詐欺の可能性が浮上した。 身分証明には偽造

された マイナンバーカードが使われたという。

 

◆225万円のロレックス購入に使われる

 機種変更後のスマホを使ったネットショッピングで、東京・銀座の時計店から 225万円のロレックス

の腕時計が購入されたことも 後に判明。腕時計は 店頭で受け取られていたという。

 名古屋の店員から「 目視で(偽造とみられる)カードを確認し、不審な点はなかった 」と

伝えられたという松田氏。「こちら特報部」の取材に「 身に覚えがなくて 大変 驚いたが、振り返ると

僕は 狙われやすい状況だった 」と振り返った。

 

   被害前、HPに 住所だけでなく 生年月日や携帯電話番号を載せていたという。

確かに 券面記載の住所、氏名、生年月日、性別と顔写真などのカード偽造に必要な情報は、サイトで

公表している議員ならば 手に入りやすい。ただ、松田氏は 偽サイトに誘導して 個人情報を入手する

「フィッシング」の手口もあるとし、「 誰でも 被害に遭う恐れがある 」と警鐘を鳴らす。

 

◆二重チェック、不徹底のケースも

 ソフトバンクによると、松田氏の事例のような 偽造マイナカードによる詐欺被害は 他にもある

という。「 カードなどの確認と本人確認の二重チェックをしているが、一部 店舗で運用が 不十分な

ケースがあった。二重チェックの再徹底に加え、新たな確認手法を導入する 」とコメントした。

 相次ぐ偽造マイナカード被害を受け、河野太郎デジタル相は 今月10日の会見で、

カードのチェック方法に自ら言及。カード券面の右上に描かれたウサギが傾けば 色が変わるなどと

紹介。「 券面を印刷しただけの偽造カードは 本来 見破られるはずだ 」と強調し、偽造を見破る

ポイントをまとめた文書を事業者に配ると説明した。

 

◆いまや国民の74%が保有

 保有枚数が 4月末時点で 約9238万枚に達し、国民の約74%が持っているマイナンバーカード。

普及が進む一方で、総点検の対象となったひも付けミス、公的証明書のコンビニでの誤交付など、

トラブルも 後を絶たない。

 

 14日昼、日比谷公園で カード偽造の受け止めを聞いてみた。埼玉県草加市の鈴木章さん(70)は

「 偽造カードのチェックを本当に(携帯電話などの)事業者ができるのか、不安が残る。これから

カードの申請を考えていた人は ためらってしまうよね 」。   東京都世田谷区の主婦(75)は

今回の問題を受けて マイナカードを持ち歩くのをやめたという。「 個人情報を盗まれたくないので、

人目に付かないように 」と意図を明かした。

 

◆スマホで 本人確認できる仕組みも

 マイナカードに不安の声も上がる中、政府は さらにデータの用途拡大を進めようとしている。

 3月に閣議決定された マイナンバー法などの改正案では、個人情報を スマートフォンに搭載し、

カードがなくても 同様に本人確認ができる仕組みを設ける内容を盛り込んだ。法案は 今月7日に

衆院を通過した。

 搭載される情報には、既に始まっている 電子証明書機能に加え、券面に記載された顔写真や番号も

含まれる。デジタル庁は 本人確認や住民確認などが「 さまざまな行政手続き・民間サービスでも

利用可能 」とメリットを強調。

改正案が議論された 4月の衆院特別委員会では、同庁の村上敬亮統括官が「 いろんな形で民間ビジネス

にも使っていただける余地が増えるということで、ぜひとも進めたい 」と意欲を示した。

 

◆「なりすましの危険性高まる」

 これに対し、今月13日に 院内集会を開いた市民団体「共通番号いらないネット」の原田富弘さん

は「 カード以上に スマホは 紛失や盗難のリスクがある。なりすましの危険性も高まる 」と不安視

する。電子証明書の発行番号は IDとして利用され「 個人情報とひも付けていくことで、サービスを

使った際の顧客データなどとも結び付いてしまう。規制が不十分なまま利用が広がっている 」と話す。

 また 今国会では、外国人の在留カードに マイナカードを一体化する内容を含む入管難民法改正案も

審議されている。外国人の支援をする 自由人権協会の旗手明理事は「 マイナカードによる確認が必要

な場合に、在留資格や出身国、就労制限の有無など、本来 必要のない情報まで分かるようになって

しまう。それ自体が差別的だ 」と批判する。

 

◆マイナ保険証の普及は低迷

  政府は、病歴や薬剤情報など 極めて慎重に扱われるべき 個人情報も含まれる「マイナ保険証」の

普及にも躍起だ。国内全体の利用率は 3月時点で 5.47%、国家公務員でも 5.73%にもかかわらず、

12月には 従来の保険証を廃止する方針を変えていない。

 

 5〜7月には「利用促進集中月間」として マイナ保険証を利用した患者数の増加に応じ、医療機関に

最大20万円を支給する。4月には、河野デジタル相が 自民党の国会議員に、支援者らがマイナ保険証

が使えない医療機関を見つけた場合、政府窓口に連絡するよう求める文書を配布した。

 なりふり構わない政府の姿勢。先の原田さんは「 税・社会保障・災害対策の3分野に限定するはず

だった利用事務が 昨年度の法改正で拡大された。政府は否定しているが、マイナ保険証の情報が

重要経済安保情報保護法の適性評価など、治安の管理に広がらないだろうか。長い期間でみると不安

がある 」と懸念する。

 

◆治療に必要ない個人情報まで提供

 ネットのセキュリティー問題などに取り組む市民団体「JCA‐NET」の小倉利丸代表理事は、

マイナ保険証が抱える根本的な問題として「 その時の治療などに 必ずしも必要のない個人情報まで

医療機関に提供することになる。提供する個人情報は 必要最低限として、医療サービスを受けられる

権利を保障することは基本だ 」と強調する。

 

 市民の不安を残したまま、マイナカードの用途は拡大の一途をたどる。小倉氏は 現在の法律制度が

未来永劫続く保障はなく、個人情報の保護や目的外使用の基準が 将来、緩くなるとも限らないと

警鐘を鳴らす。

 「 例えば、治療歴や健康状態などの情報が 民間で使えることになれば、就職や転職、昇進の際に

利用され、差別につながる可能性も考えられる。人生100年時代で 個人情報を考えなくてはいけない。

一度出してしまった情報は 二度と戻ってはこない 」

 

◆デスクメモ

 マイナンバーカードを保有していない。引っ越しや銀行などの手続きのたびに 行政窓口で

ナンバー入り住民票を交付してもらっている。お互いに面倒ではあるし、電子申請の利便性も

ポイントの恩恵も こうむっていないが、私の情報が ひとり歩きしないで済めばという安心感が

少しある。(恭)

 

 

 

 

マイナカード偽造「1枚5分、技術や準備は不要」中国籍の女証言

 …本人確認に目視のみ多く悪用拡大

         2024年5月25日    (読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース

  マイナンバーカードの偽造が相次いで発覚している。不正対策による「信用」で 本人確認時の

   チェックが甘くなり、悪用につながっているとみられ、SNSでは 1万~2万円で流通している

   という。中国籍の被告が取材に応じ、偽造の実態を証言した。

 

最大60枚

 「 作業は 簡単で準備や技術は要らない。5分もあれば 1枚作れる 」。

マイナカードを偽造したとして、警視庁に 昨年12月、有印公文書偽造容疑などで逮捕された中国籍

の女(27)(1審で 懲役3年、控訴中)は 東京拘置所 でそう語った。

 女が偽造に手を染めたのは 昨年6月頃。生活費に困り 友人に相談すると「 カードを作る仕事 」を

紹介された。中国のSNS「微信(ウィーチャット)」で「ボス」に連絡し 偽造法の説明を受けると、

作業用のパソコン と プリンターが自宅に届き、個人情報が メールで送られてきた。

 作業は 偽のICチップが埋め込まれた白いカードの表裏に 個人情報のデータを印刷するだけ。

多い時には 1日約60枚のカードを偽造して 指定された国内の住所に郵送した。 日当は

約1万2000~1万6000円相当の電子マネーだった。

 

 警視庁は 指示役が中国にいるとみて 捜査。同じ仲間からの依頼で マイナカードを偽造した疑いで、

今月15日、中国籍の2人を 有印公文書偽造容疑などで逮捕した。偽造カードが 携帯電話の契約など

に使われた可能性があるとみている。

 

1万~2万円で売買

 2016年に運用が開始されたマイナカードは 今年4月末時点で国民の8割にあたる約9900万枚

が交付され、外国人にも 約290万枚発行されている。

 行政サービス以外の利便性も高く、本人確認の証明書として 携帯電話の契約や口座開設などの場面

で使われてきたが、確認は 目視のみのところも多かったとみられる。

全国銀行協会(東京)によると、ICチップの情報を読み取って確認する機器の導入は 大手銀行など

一部に限られる。

 昨年3月には、東京都葛飾区の携帯電話販売店で 偽造マイナカードを提示し、スマートフォンを

不正契約しようとしたとして ベトナム国籍の男が警視庁に逮捕された。偽造マイナカードは 中国語や

ベトナム語のSNSで 1万~2万円で売買されているといい、警視庁幹部は「 発覚している不正は

ごく一部だろう 」と語る。

 

外国人組織

 外国人らが使う偽造の証明書は かつて、3か月を超えて滞在する場合に交付される「在留カード」

が主流だった。警察庁によると、20年には 偽造在留カード所持などの摘発が790件に上った。

このため 出入国在留管理庁は 同年、カードの真偽を判別できるアプリの提供を開始。 公的機関や

技能実習生の受け入れ企業などで活用が進んだ。

 一方、マイナカードは 表面の一部に 特殊な印刷技術を使うなど偽造対策が進んだこともあり、

総務省は 判別ソフトの利用を呼びかけてこなかった。相次ぐ偽造発覚を受け、同省とデジタル庁は

今月17日、偽造品の見分け方を示した文書を民間業者向けに周知した。

 警視庁は、在留カードを偽造してきた外国人組織が、マイナカードに目を付けて 偽造と販売を拡大

しているとみて警戒している。

 

スマホ 知らぬ間に機種変更…都議10万円被害

 偽造マイナカードで 携帯電話を乗っ取られる被害も出ている。立憲民主党の東京都議(51)は

4月17日、決済アプリ「PayPay(ペイペイ)」の運営会社から「パスワードリセットのお知らせ」

という身に覚えのないメールを受け取った。

 スマートフォンで通話できなくなり、携帯電話販売店に相談したところ、名古屋市の店で何者かが

都議名義のマイナカードを使って 機種変更したことが判明。すぐ スマホの利用を停止したが、

ペイペイや携帯会社の決済サービスで 計約10万円分が使われていた。

 名古屋市の販売店は 何者かが提示したマイナンバーカードを目視でチェックしただけだったという。

都議は「 マイナカードで顧客の身元を確認している事業者は、ICチップで判別する機器の導入や

別の本人確認書類での確認も進めるべきだ 」と話した。