2024/05/17 読売新聞
【ベルリン=中西賢司】 中欧スロバキアの報道によると、ロベルト・フィツォ首相(59)が
15日に銃撃された事件で、狙撃した男(71)が現場で拘束された。
スロバキア政府は「政治的な動機」があったと主張しており、権威主義色を強めるフィツォ氏の
政治手法への不満が背景にあるとの見方が出ている。
フィツォ氏は15日に 中部ハンドロバでの会合に出席後、屋外で出迎えようと柵越しに待っていた
市民らに近づいた際に 銃撃された。男は 至近距離から5発発砲し、3発が腹などに命中した。
ロイター通信によると、病院関係者は16日、「 容体は安定しているが、非常に深刻な状態で、
集中治療室に入る予定だ 」と述べた。
![フィツォ氏=ロイター](https://www.yomiuri.co.jp/media/2024/05/20240517-OYT1I50015-1.jpg?type=large)
スロバキアメディアによると、男は 元警備員の年金生活者で、長年 銃を合法的に扱っていた。
反暴力運動グループを組織したこともあった。地元テレビが 男の拘束後の発言として報じた映像
によると、男は「 政府の政策に同意しない 」と述べ、フィツォ政権によるメディア統制の強化など
への不満を示した。 当局は 16日、男を殺人未遂罪で訴追した。
汚職問題で 2020年に下野した左派ポピュリスト政党「スメル」を率いるフィツォ氏は、
昨秋の総選挙で勝利して 首相に返り咲いた。「客観性に欠ける」と主張して 公共放送局を廃止し、
国の管理下に置くことを提案したほか、汚職犯罪を捜査する 特別検察官事務所の廃止を決めた。
米欧のウクライナへの軍事支援に反対して早期停戦を求め、スロバキアが加盟する欧州連合
(EU)と一線を画す 親露的な姿勢を鮮明にした。
※ 2023年にはスメル党首として、ウクライナ支援とロシア制裁への反対を表明し
国内の親露派の支持を集めた。9月30日に執行された国民議会選挙で スメルは
150議席中42議席を獲得し第1党となり、10月2日にズザナ・チャプトヴァー大統領より
組閣を要請された。10月11日、スメルと中道左派政党の声・社会民主主義、
民族主義的右派政党の人生・国民党は 3党連立政権を樹立することで合意し、
10月25日午後2時に、チャプトヴァー大統領より首相に任命された。
そして、翌26日、ロシアによるウクライナ侵攻(2022年2月24日)は 我々には
一切 無関係であるとして、選挙時の公約通りウクライナに対する支援は 人道および
民生分野にとどめ、軍事支援は停止すると発表した。
東欧革命の流れで 1993年にチェコとの連邦を解消して独立したスロバキアの政治情勢は、
社会主義時代を知る世代を軸とする左派勢力 と 都市部に多い親欧リベラル勢力が対立する構図
といえる。
リベラル派のズザナ・チャプトバ大統領は 銃撃事件について「民主主義への攻撃だ」と強く非難
した。だが、スメル側は「フィツォ氏への憎悪をあおってきた」とリベラル勢力の責任を主張し、
国内の政治対立が先鋭化する恐れもある。