岩田健太郎氏に聞く ワクチンによる「集団免疫」成立の3条件 

             2021/3/8     毎日新聞

 新型コロナウイルスのワクチン接種が日本でも始まった。変異ウイルスが次々と生まれる中、

ワクチンで「集団免疫」は果たして獲得できるのか。日本が目指すべきゴールはどこなのか。

神戸大大学院医学研究科の岩田健太郎教授(49)に聞いた。

 

「突然変異でめったにないことが…」

 ―― 南アフリカ、ブラジル、インド、米国などで次々と変異ウイルスが見つかっています。

 ワクチンは魔法のつえなのでしょうか。

 

 ◆遺伝子が変異することは普遍的な現象で、しょっちゅう起きることです。ウイルスだけでなく、

微生物や人間でも 遺伝子の突然変異は起きています。でも、遺伝子の変化と性質(キャラクター)の

変化は 直接にはつながっていません。つまり、突然変異は起きても、人間の腕が突然4本になったり、

身長が 6メートルになったりはしないのです。

 しかし、新型コロナウイルスの場合、1年ちょっとで 世界の感染者数が1億人を超えています。

突然変異の数も 膨大になるため、短期間で ウイルスが変化するという、めったにないことが起きて

しまっている。もちろん 技術の進歩により、変異が見つけやすくなったという側面もありますが。

 

 英国で見つかった変異ウイルスは 感染率が高く、流行に拍車がかかってしまうので、非常に

心配しています。英アストラゼネカのワクチンは、南アで発見された変異ウイルスに対して有効性が

低いともいわれています。

 感染のスピードが上がる、既存のワクチンが効きにくくなる ――。この二つが 懸念材料です。

病原性が高まった変異ウイルスの出現は 今のところ強くは心配していませんが、可能性としては

否定できない。新型コロナウイルスは、「 ウイルス感染症ってこんなもんだよね 」という我々の

常識を、次々と破ってきているからです。

 

 ―― 新型コロナのワクチンは ウイルスの遺伝子の一部を利用した新しい技術を使い、急ピッチで

  開発されました。長期的な副反応の心配はないのでしょうか。

 

 ◆ 生物学的に言えば、ほとんど気にする必要はありません。米国のファイザー社とモデルナ社の

ワクチンで使われているメッセンジャーRNAは、人間の遺伝子に組み込まれたりしないし、とても

脆弱で 細胞の内でも外でも 1週間ほどで壊れてなくなります。有機水銀のように身体の中に残って

ずっと作用して 水俣病を引き起こすようなことはないのです。

 ただ、慢性的な反応が出る可能性はあります。注射を打った時の痛みなどのトラウマがきっかけで

体調不良の症状が起き、それが続く。子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の

ワクチンでもありましたが、これは ワクチンの成分によって引き起こされた自己免疫疾患などの

副反応ではありません。だから、そういう症状が起きる確率は、他のワクチンと比べてHPVワクチン

が 特に高いわけではないのです。身体的、心理的なトラウマがきっかけで、眠れない、気分が悪い、

頭が痛い、などの症状が出ることは、私にもあります。   強いか弱いかの違いがあるだけで、

ほとんどの人に起きることです。なので、ワクチン接種後に そういう症例が一定数出てくることは

予期しておくべきでしょう。

 

 ただ、コロナに罹患してもトラウマは起きます。血栓ができて 臓器の細胞に傷がつくなど

生物学的なトラウマもありますが、集中治療室(ICU)に入院しなくてはならなかった、といった

心理的なトラウマも起きます。トラウマが 心身に影響を与え、それが長く続くこともあります。

 コロナに感染し、世界で 250万人以上が死んでいます。コロナのワクチンは 僕が知る限り、

まだ 誰も殺していません。感染する方が はるかに怖いのです相対リスクの考え方が重要です

ワクチンは コロナの感染発症重症化を防ぐ点で とても効果が高いことは分かっているので、

これを最大限活用することが大事です。

 

 ―― ワクチンを打たない方が良いという人たちの集団は ありますか?

 

 ◆ 今のところ、「 打たない方が良い 」という集団はありません。しかし、ワクチンの有効性

についてのデータが十分でない集団はあります。妊婦と小児です。

 例外は、ワクチン成分…

 

                     (3分)

 

 

 

 

 現状は半分人災、ロックダウンを 岩田健太郎医師の警鐘

               2021年8月23日  朝日新聞デジタル

   国内の新型コロナウイルス感染症は現在、「感染爆発」「医療崩壊」と専門家たちが

  警告してきたような状況が広がっています。なぜこんな事態になり、今から何ができるのか

   ・・・・

 

   自宅療養は「必要悪」

   ―― 後に 一部修正しましたが、政府は 8月初め、重症者以外は「自宅療養」を原則とする

           方針を打ち出し、現在も 重症化リスクの高い患者に 入院を重点化しています。

           現在の感染状況と合わせ、どのようにみていますか。

 

     「『自宅療養』は、そうしたくてするわけではなく、やむを得ず行う『必要悪』です。

        災害医療では 対応能力を超える数の被災者が出た場合、少しでも多くの命を救うために、

        優先順位を付けて治療します。人間が 勝手に地震や洪水と区別しているだけで、新型コロナ

    で起きている現象は 災害そのものです 」

 

       ―― 第5波などと表現しますが、病床が埋まっても  患者が 次々に出る様子は

           通常の波ではなく、水位が上がり続ける津波を思い起こさせます。

 

     「 私も よく水にたとえます。1滴、2滴の水が 顔にかかってもどうということはありません。

        これが 大雨になれば 外に出ない方がいいし、台風や津波になれば 多くの犠牲者が出てしまう

        ことがある。『 コロナは ただの風邪だ 』という人がいますが、患者さんが少ないうちは

        確かに『 ほとんど、ただの風邪 』です。しかし、1千人、1万人と患者が増えるにつれて、

        被害が大きくなり収拾がつかなくなります 」

     「 だから コロナで 一番大事なのは、感染者を増やさないことなのです。今の東京のように

        増えてしまうと、何をやっても なかなか通用しなくなってしまいます 」

     「 幸い、感染症は 津波と違って、人間の手である程度広がりを管理することが可能です。

        いくつかの国は 実際にやっていますし、日本も そうすべきだったのですが、残念ながら

        五輪なんかに うつつを抜かしているうちに チャンスを逃し、東京や沖縄で感染爆発を起こして

        しまいました 」

 
      「思考停止」の政府

       ―― 東京では 検査の陽性率が 20%を超えています。これは 検査が間に合っていなくて

           数字以上に 市中感染が広がっているということでしょうか。

 

         国民の危機感を高めずに、五輪へ突っ走った政府。岩田さんは、現在の事態は「半分は人災」

       と断じます。インタビューでは「もうロックダウンしかない」という真意、日本の感染症医療

       の問題点についても語り、警鐘を鳴らします。・・・

 

 

     岩田健太郎「非科学的なコロナ対策が危ない」 

          クルーズ船の失敗を繰り返してはならない 

               2020/03/12     東洋経済

 
 
 
 
           2023年2月23日    エキサイトニュース
  マスクやワクチンを巡って 賛成派と反対派の対立が ますますエスカレートする?

      政府は 新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけを 5月8日から「5類」に引き下げる

   ことを決定した。

 

■ 電車やバスでのマスクはどうしたら?

―― 5月8日から 新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが「2類相当」から、

季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に引き下げられますが、政府は マスクの着用についても、

3月13日から「屋内・屋外を問わず個人の判断に委ねる」という方針を決定しました。

   とはいえ、突然「 自分で考えて決めろ 」と言われても、戸惑う人が多い気がします。

 

岩田 まず、2類か 5類かの話ですが、僕は 本質的な意味のない「どうでもいいこと」だ

     と思っています。

     もちろん 5類になると、これまで無料だった コロナのワクチン接種や治療費、検査代などが

     有料になる可能性があるなど、いろいろと細かい違いはあるでしょう。

       しかし、例えば マスクに関して言えば、政府は これまで 一度もマスクの着用を義務化した

     ことはなくて、約3年 ずっと「お願いベース」でやってきたわけですから、その意味では

     何も変わりません。

       それどころか、厚生労働省がある時期から「 屋外では 基本的にマスクは不要です 」と方針を

     変更しても、街を歩いている人たちの多くは マスクをしたままで、人々の行動は変わらなかった。

     これって要するに、2類だ 5類だという分類の問題ではなくて、日本社会を支配する「空気」の

     問題だということです

       そういうふうに「空気」ばかりを気にして「本質」を考えないのは 政府も同じで、おそらく

     岸田首相が打ち出した方針も、今年5月に 広島で開催されるG7サミットのときに、日本人が

     マスクしてない姿を 各国首脳に見せたいだけなのではないでしょうか?

 

  2類か5類かの話は、本質的な意味のない「 どうでもいいこと 」と岩田教授は話す

―― 政府の「お願いベース」もなくなると、その「空気」にも 変化が出るのでは?

 

岩田  うーん、結局「 なんらかの指針が欲しい 」とか「 一律に 横並びにしたい 」みたいな話に

      なりそうですよね。 みんな自分で考えるのが面倒だし 責任も取りたくないので、

      強要されなくても、非合理でもいいから 誰かに決めてもらって合わせたい。

         日本の場合、上は 首相から普通の人たちまで、みんなが そういう感じなので「自分で考えて」

      と言われても 多くの人は困るのだと思います。

 

―― そのマスクについて「自分で考える」場合、何を基準に判断すればいいでしょう?

 

岩田  これは もう、再三再四言っていることですが、やはり「状況判断」が大事です。

       基本的には「 その場の感染のリスク 」と「 マスクをすることの不快感 」とのバランスの

       問題だと思います。

          例えば、社会の中で コロナ感染がある程度広がっているときに、屋内で 複数の人が

       おしゃべりしているような場合、それが 5人とか10人だったら「 この中に感染者がひとり

       ぐらいいるかもしれない 」と考えると、マスクをすることで 感染のリスクをある程度下げる

       ことができます。

         ただ 同じ屋内でも、今 取材を受けている部屋に 僕は ひとりなのでマスクは必要ないし、

       自宅で同居する家族しかいない場合も マスクはしません。

 

―― 電車やバスなどの公共交通機関では マスクをしたほうがいい?

 

岩田   これも 状況次第だと思います。満員の通勤電車の車内って、一見 リスクが高そうですが、

       日本の通勤風景を思い浮かべると ほとんどの人が黙って スマホの画面とかを見ているので、

       実は それほど感染リスクは高くない。

          一方で、例えば 比較的すいている新幹線の車内でも、近くに ゴホゴホと咳をしている人が

       いたり、飲食をしながら ワイワイ騒いでいる団体がいたりしたら、マスクをしておいたほうが

       いいかもしれない。

          それから、コロナに感染してから 1、2ヵ月は 再感染の可能性は 非常に低いので、最近、

        感染して回復した人と一緒の場合なら マスクは必要ない、というのも合理的です。

        つまり、電車の車内は どうとか、屋内だったらいいとか 単純にマル・バツをつけるのではなく、

        その都度、状況に合わせて 感染リスクと必要な対応を判断することが大事です。

 

―― 「 マスクで 感染を完全には防げないなら、別にコロナにかかってもいいや 」という人も

      いるかもしれません。

 

岩田   感染しても、重症化する人は 一部です。ワクチン接種済みの僕が感染しても、おそらく

        症状は軽いでしょう。

        それでも、僕は コロナにかかって熱を出したり 何日も仕事を休んだりするのは嫌なので、

        マスクも含め、リスクや状況に応じて 合理的な感染予防はしたいと思っています。

          ただ、人間には「 合理的に考えない自由 」もあるので、ひどい二日酔いを覚悟の上で

         お酒を飲む人がいるように「 マスクを気にせず 大勢で飲食をするなど、感染のリスクが

         高くても、その日が楽しめれば 後のことは考えない 」という人はいるでしょう。

         そういう人の存在を全否定すると不自由な社会になってしまうので、まあ、たまには 羽を

         伸ばすのもありなんじゃないか とも思います。

           ただし、身近に高齢者や重症化リスクの高い人がいる場合には、自分が その人たちに感染を

         広げるリスクと責任も考慮した上での「自分の判断」だということを理解しておく必要がある

         と思います。

 

■コロナ感染した後の追加接種は有効か?

――  次に、いろいろな議論がある ワクチンについて、今後は どう考えれば?

 

岩田   まず 重症化リスクの高い人は 打ったほうがいいです。これは議論の余地がありません。

        最新のワクチンを打って 免疫を高め、重症化を防ぐのが基本です。今、感染後に重症化する人

        の大半が ワクチン未接種の方で、これは オミクロン株でも変わりません。

 

――  高齢者ではなく、基礎疾患もなく、普通に ワクチン接種をしている人、さらには ワクチン

       +感染で いわゆるハイブリッド免疫を獲得している人など、重症化リスクが低い人の場合は

       どうでしょう?

 

岩田   これは マスクと同じで、やはり ケース・バイ・ケースだと思います。

        まず、ワクチンの感染予防効果に関しては 以前ほどの効果が期待できなくなっていますが、

        それでも 接種後、数ヵ月間は 感染のリスクを下げる一定の効果があることがわかっています。

          もちろん、ワクチン接種の副反応には 個人差がありますから、それとの兼ね合いもあります

        が、例えば 試験や旅行などのイベントを台無しにするリスクを減らすために、適切なタイミング

    で 事前にワクチンを打って免疫を高めておくというのは、ひとつの考え方だと思います。

          一方、ワクチンの重症化予防効果に関しては、もともと 重症化リスクが低い人の場合、

        相対的な追加接種の意味は 小さいといえます。今後は 年に1回程度、ワクチンを接種する

        という感じになるのかもしれませんが、コロナは インフルエンザと違って夏でも流行するので、

        接種のタイミングを どうするのかは悩ましいところですね。

 

 

――  すでに コロナの感染を経験したという人も増えていますが、その人たちにも ワクチンの

      追加接種は有効ですか?

 

岩田   実際の感染で得られる免疫が 感染を防ぐ効果は あまり長続きせず、2、3ヵ月程度と

        ワクチン接種で得られる免疫よりも短い といわれているので、感染のリスクを下げたい場合

        には、やはり ワクチン接種で防御力を高めたほうがいいと思います。

 

■マスクやワクチンで「親」「反」の立場を取らないこと
 

――   マスク緩和と5類移行で「 個人の判断に委ねる 」となると、これまでも見られた

      「 マスクしろ! ワクチン打て! 」や、その逆の「 マスク外せ! ワクチン危険! 」

       といった声は増える気がします。

 

そんな「コロナ5類の世界」とどう付き合っていけば?

岩田   自分が「 親マスクか、反マスクか 」とか「 親ワクチンか、反ワクチンか 」といった立場を

        取らないことが 大事だと思います。

          そうした議論について、人々は すぐに敵か味方かという発想になりがちですし、ネットや

        SNSは どうしても、真偽に関係なく 自分の考えに近い、または そう考えたいと思う情報が

        どんどん提供されます。

           そこで大事なのは「 自分で判断する 」ために必要な情報の選び方で、残念ながら 立派な

        肩書があり、専門家を自称する医師の中にも、最近話題の「ChatGPT」みたいに、一見

        もっともらしく見えて 実はデタラメなことを言っている人が少なくない。

        そういう「 自分が望んでいること 」を言ってくれる人の言説に安易に飛びつくのではなく、

        ファクト(事実)に重きを置いて、自分が望んでいない情報もあえて見るなどして「 自分で

        考える足場 」をつくることが大切です。

           それって、実際にやろうと思うと孤独で しんどい作業なんですけど、それ以外に道はない

        と思いますね。

 

 

  ワクチン接種事業を肯定する 岩田健太郎氏の言(魚拓) 

                      2023.11.24