孟子/告子下 - Wikisource

【現代語訳】

 

孟子は言う。
「 今日の諸侯に仕えている者らは、みな誇らしげに、

 『 自分は 主君のために、土地を開いて 租税を多く取り立て、

 国庫を豊かにできる 』と言って(これを忠義と心得て)いる者がある。

 このような者を、世間では良臣と言っているが、昔なら人民の賊と言ったものだ。

 

  なぜなら、君主の心が 少しも正しい道に向かわず、仁に志しもしないのに、

 (それを正そうともせず) ひたすら このような不善の君を富まそうとする

 ばかりでは、まるで 昔の暴君・桀王を富ますのも同然だからだ。

                 桀 - Wikipedia


  また 彼らは、誇らしげに

 『 自分は 主君のために、同盟国を結束させて、いったん戦えば、

 必ず勝ってみせる 』と言いたてている。

 このような者を、世間では良臣と言っているが、昔なら 人民の賊と言ったものだ。

 

  なぜなら、君主の心が 少しも正しい道に向かわず、仁に志しもしないのに、

 (それを正そうともせず) ひたすら このような不善の君のために

 無理な戦をしようと努めるのは、まるで、昔の暴君・桀王を助けるようなものだ。

 

  それゆえ、今のやり方に従っているだけで、今の この悪風を改めないならば、

 よしや、これらの君主に 天下を与えて 王としてみたところで、

 一日として、その地位に安んじていることはできまい。(すぐさま滅亡して

 しまうことは明らかだ)」

 

 

  【読み下し文】
  〈 孟子曰く、事(ツカ)ふる 曰く、

    『は 能(ヨ)く めに土地辟(ヒラ)き 府庫たさん』 と。

  今 の 所謂(イワユル)良臣は、古(イニシエ)の 所謂 なり。

   君鄉(ムカ)はず   さずして、まさんことをむ。ますなり。

    『れ く めに、与国とし 戦へば たん』と。

   今所謂 良臣は 所謂 なり。道にはず 仁に志さず、

   而して 之を爲めに強戦することをむ。是れ 輔(タス)くるなり。

   今りて を変ずることければ、天下を与ふとも、

   一ること能はざるなり。〉

 

 【白文】

   孟子曰:「今之事君者,曰:『我能爲君辟土地,充府庫。』

  今之所謂良臣,古之所謂民賊也。 君不鄉道、不志於仁,而求富之,是富桀也。

  『我能爲君約與國,戰必克。』今之所謂良臣,古之所謂民賊也。

  君不鄉道、不志於仁,而求爲之强戰,是輔桀也。

  由今之道,無變今之俗,雖與之天下,不能一朝居也。」