その本場での実証によると、

  「民主主義」は、

   他人を富ませ、自らは貧乏になる

  ――― ことを主張する主義だったのである。

 

  ”新自由主義の失敗”ではなく、

  「民主主義」の虚像を、

  新自由主義は実証したのではないのか?

 

                合掌

 

スティグリッツ教授

「40年かけて実証された。サッチャーとレーガンが扉開いた新自由主義は失敗した」

     堅調に見える米経済も 一握りの富裕層を除けば 惨憺たる状況

                             2024.5.5   木村 正人       JBpress (ジェイビープレス) 

 

「 成長率が高まれば 誰もが恩恵を受ける約束だった 」

 

[ロンドン発]米国を代表する経済学者でノーベル経済学賞受賞者、コロンビア大学の

     ジョセフ・スティグリッツ教授が 5月2日、ロンドンの外国人特派員協会(FPA)で質疑に応じ、

     マーガレット・サッチャー英首相とロナルド・レーガン米大統領の新自由主義は失敗したと

     断罪した。

 

  「 サッチャー、レーガン以来、40年間続けてきた新自由主義の実験は失敗し、人々は その本質

    と大きさを 理解し始めている。成長率が 高まり、トリクルダウン経済学と呼ばれる神秘的な

    プロセスを経て 成長率が高まれば 誰もが恩恵を受ける約束だった 」

 

とスティグリッツ氏は振り返る。

 しかし 実際には 米国の経済成長は著しく鈍化した。中間層の賃金は低迷し、下層部では さらに

悪化して 実質賃金は 60~65年前と同じ水準に落ち込んだ。

アマゾンのジェフ・ベゾス氏やテスラのイーロン・マスク氏のように 上位400人に生まれると

分かっていたら 米国は良い国だ。

 衰退する欧州より 米国は 成長しているように見える。

 

 「 しかし 中間層に生まれるとしたら、それほど良い国ではない。平均寿命は 他の先進国に比べ短い。

   医学分野で 最高の研究が行われているにもかかわらず、富裕層と貧困層の平均寿命の格差は 非常に

   大きい 」(スティグリッツ氏)

 

狼にとっての自由は羊にとっての死

 米国の経済・社会システムは 機能不全に陥っている。民主主義を信じていないカルト的な

ドナルド・トランプ前米大統領が 11月の米大統領選で勝利して返り咲く可能性もある。

トランプ大統領を生み出したのは 新自由主義だ。

 

  「 実に 示唆的で、何かが間違っているのだ 」(同)

 

 スティグリッツ氏と同じ ノーベル経済学賞受賞者でオーストリア学派のフリードリヒ・ハイエク

は 1944年に「隷属への道」を発表した。

 大恐慌後、マクロ経済の安定を維持する政府の役割が 見直されるようになったが、ハイエクは

大きな政府が 権威主義的な政治体制につながる危険性を指摘した。

 

 サッチャーとレーガンが主導した新自由主義の柱になった ハイエクの「隷属への道」は、

英国のアイザイア・バーリン氏に「 狼にとっての自由は 羊にとっての死を意味する 」と揶揄される。

   ケインジアンのスティグリッツ氏も「 隷属への道は 歴史に対する間違った診断だった 」と

切り捨てる。

 

 「 新自由主義は、規制を撤廃し、税金を引き下げれば、経済が 自由になり、誰もが得をすることを

   約束した。しかし 今、世界を見渡せば、醜悪なナショナリズムのような ポピュリズムが拡大して

   いるのは、政府が やり過ぎたというよりも、政府が十分なことをしてこなかった国だ 」(同)

 

政府の適切な措置がすべての人の自由を拡大できる

 スティグリッツ氏は もっと自由がほしければ、ある程度の規制が必要だという。

 

  「 自由には トレードオフがある。米国では 毎日のように大量殺人が起き、幼稚園や小学校1年の

   子どもたちは 銃を持った犯人が部屋に入ってきた時 どうすればいいかを教わる。それが 米国の

   日常生活の一部だ 」

 

 米国社会は ソ連製自動小銃AK-47を携帯する自由を与える代わりに、子どもたちから自由を

奪っている。その一方で 「 政府の適切な措置が すべての人の自由を拡大することができる多くの

事例がある 」とスティグリッツ氏は信号機を例に挙げた。

 

  「 これは一種の強制だ。青信号になるまで 交差点を通ることはできない。つまり 赤信号の時は

   動いてはいけない。しかし、もし ニューヨークやロンドンで信号機がなかったら、どうなるか

   考えてほしい。つまり 単純な規制によって 私たちは より多くの自由を手に入れることができる 」

 

 リバタリアンは 自分たちが収入を得たのであり、税金によって その収入を奪われることは

自分たちの自由への侵害であり、不道徳だと唱える。欧州連合(EU)への分担金をやり玉に挙げた

英国のEU強硬離脱派は リバタリアンの典型だ。英国は 今 その代償を支払わされている。

 

テスラが生き残るには 米国政府の5億ドルが必要だった

 

  「 マスク氏は テスラを潰さないために 米国政府からの5億ドルもの資金が必要だった。もっと

   広く言えば、彼の会社の成功には 優秀なエンジニアが欠かせない。彼らが 訓練を受ける公立学校

   や大学は 直接 政府から支援されるか、あるいは 税制上の優遇措置によって運営されている 」(同)

 

  スティグリッツ氏は 米国と英国の富の歴史を考察する。1860年当時、米国南部の富の大半は

奴隷労働から生み出された。英国は アヘンを中国に売る権利、つまり 自由貿易を維持するために

アヘン戦争を仕掛けた。

 

  「 アヘン貿易の理由は 非常に単純だった。貿易不均衡だ。英国は 中国の茶や陶磁器、絹を大量に

   欲しがった。逆に 中国には それほど欲しいものはなかった。そこで 英国は アヘン中毒にさせる

   ことで 中国が欲しがるものを見つけ出した 」

 

と解説する。 今の中国について、スティグリッツ氏は、

 

  「 中国が 先進国との格差を縮めることに成功したのは 新自由主義に基づくものではない。

    チェック・アンド・バランスが 上手く機能していない危険性もある。中国は 残念ながら、

    私が望むような方向には進んでいない 」

 

という。

 

チェック・アンド・バランスが必要だ

 しかし 大きな政府は 官僚主義の落とし穴に陥る危険性もある。

 

  「 私が 社会民主主義に求めることは、政府に 大きな役割を担わせるために、政府や社会に

   より広範なチェック・アンド・バランスのシステムが必要だということだ 」

 

とスティグリッツ氏は強調する。

 

 イスラエルの報復攻撃により パレスチナ自治区ガザで死者が 3万4000人を超えた悲劇に抗議する

コロンビア大学の学生が 警官隊に排除されたことについて、スティグリッツ氏は「 多くの問題が

提起されているが、そのうちの1つは 明らかに学問の自由の問題だ 」と指摘する。

 

 「 多くの政治家、特に 共和党の政治家は 長年にわたって 大学に “戦争”を仕掛けてきた。

   彼らは、私たちが 学生に もう少し 自分の頭で考えることを教えるのが気に入らないのだ。

   米国の強さの源は スタンフォードやハーバード、コロンビアといった大学から生み出される

   テクノロジーや研究だ 」(同)

 「 学問の自由に対する干渉であり、1940~50年代に 赤狩りを進めた下院非米活動委員会以来

   見られなかったことだ。われわれのシステムが機能するには チェック・アンド・バランスが必要だ。

   その1つが 学問の自由であり、独立した大学が 政府の行動を監視し、批判することなのだ 」

 

とスティグリッツ氏は力を込めた。

 

米国では 全資産の40%は 上位1%が所有

 スティグリッツ氏は

 

 「 現在のような 凄まじい不平等をなくす利点は 金持ちの企業や個人に課税することで より多くの

   お金を得ることができるということだ。より社会が平等な時、上位の人たちに課税しても それほど

   多くのお金を得ることはできなかった 」

 

と解説する。

 例えば 誰でも 自分の富の少なくとも 2%を所得税として支払わなければならない 最低富裕税を

創設する。米国では 全資産の40%は 上位1%が所有しているという試算もある。上位1%に課税する

だけでも 多くの税収を生み出すことになる。

 

  「 彼らは 租税回避に非常に長けている。コロナ危機やロシアのウクライナ侵攻で物価が上昇して

   いる時、独占的な力を築いた企業は 価格を吊り上げることができた。その利益に 課税し、

   電気料金の支払いに充てることができていたら、インフレによる 一般市民の痛みは和らげられた

   はずだ 」(同)

  「 配管工として働く人よりも 資本に低い税率を課すべきだという考えは 私には全く理解できない。

   お金をうまく使っていることを示すことができれば、中産階級の市民にも 税金は 社会をより良く

   するために支払われるものだから 良いものだと理解してもらうことができる 」

 

という。