2014年(平成26年)5月1日施行の「改正都市再生特別措置法」(「コンパクトシティ法」)

 をもって、「コンパクトシティ」が「国策」として位置づけられた。

      都市郊外化・スプロール化を抑制し、市街地のスケールを小さく保ち、歩いて行ける範囲を

   生活圏と捉え、コミュニティの再生や住みやすいまちづくりを目指そうとするのがコンパクトシティ

 の発想である。

  交通体系では自動車より公共交通のほか、従来 都市交通政策において 無視に近い状態であった

 自転車にスポットを当てているのが特徴である。

 自治体が コンパクトシティを進めるのには、地方税増収の意図もある。例えば、地価の高い中心部

 に新築マンションなどが増えれば、固定資産税の増収が見込まれ、また、都市計画区域内の人口が

 増えれば都市計画税の増収も見込まれる。

  すなわち、同じ自治体内の郊外から中心部に市民が住み替えるだけで地方税の増収に繋がる

 ことになり、経済停滞や人口減少が予想される自治体にとって コンパクトシティ化は有効な

 財源確保策と見られている。

 

 

「コンパクトシティー」推進10年、見えぬ効果

                      …郊外住民「中心部に住むメリット感じない」

                                                        2024/04/30         読売新聞 

   人口減少が進む中、都市機能を集約して 行政機能を効率化する「コンパクトシティー」構想を

進めるための「 立地適正化計画制度 」が導入されてから 今年で10年となる。

500以上の自治体が計画を策定しているが、その効果は見えにくい。人口データを分析すると、

郊外の人口増加を抑制しきれていない現状が見えてきた。

 

537市町村

    立地適正化計画制度、2014年8月施行の改正都市再生特別措置法で導入された。住民に
居住を促す「 居住誘導区域 」や、病院や商業施設などを集約する「 都市機能誘導区域 」などを
自治体が設定する。道路や上下水道の維持コストを抑える効果があるとされ、国土交通省によると、
昨年12月現在、全市町村の3分の1近い 537市町村が計画を策定している

 

   居住誘導区域で 人口が増え、区域外で減少するのが理想的とされる。

 しかし、読売新聞が 県庁所在市で 計画を策定している39市について、15年と20年の国勢調査

の人口データを500メートル四方ごとに分析したところ、39市の大半で 区域外で人口増加して

いる部分が確認できた。

 

にじみ出し

 

 

 

  高松市もその一つだ。都市計画課の担当者は「 中心部に人口を誘導しようとしているが、

 郊外への『にじみ出し』が起きている 」とこぼす。

 市は 00年代から コンパクトなまちづくりに取り組んできた。18年3月に立地適正化計画を

策定し、市中心部の約60平方キロ・メートルを居住誘導区域に設定。区域内の人口は16年、

1年間で約500人の転出超過だったが、28年に 約700人の転入超過に転換する目標を掲げた。
   

 

   本記事の地図 参照

 しかし、15年と20年の500メートル四方あたりの人口データを比較すると、区域内が

平均で14・7人減った一方、区域外では 0・5人増えていた。特に増えていたのが、区域の

すぐ外側にある 多肥上 、三谷両町の境界付近だ。地域には 新築住宅が並び、空き地に「分譲中」

と書かれた看板が立っている。

   昨年、戸建てを新築した男性(33)は「 土地が安く、スーパーも近くて便利。中心部に住む

メリットは感じない 」と話す。

 22年頃、誘導区域内に高層マンションが複数完成し、同年に 計画策定後 初めて区域内人口の

転入超過を記録したが、区域外の開発は止まらない。担当者は「 区域外の規制をあまり厳しく

すれば、市外に人口が流出しかねない 」と打ち明ける。

 

 岐阜市でも区域外で人口が増加していた。

 

 都市計画法には「 市街化区域 」という制度がある。区域内で 開発を推奨し、区域外で制限する。

市は 17年3月に 立地適正化計画を策定した際、誘導区域を 市街化区域の約6割に設定した。

 その結果、誘導区域外でありながら、市街化区域という「グレーゾーン」が生まれ、誘導区域内

の人口が 15年から20年にかけて 0・3%減る一方、グレーゾーンで 0・6%増えていた。

 誘導区域外で 人口が増える背景には、一般的に区域内より地価が安いことが影響していると

みられる。

 

 

   本記事の地図 参照

 

弱いムチ

 

 

 

 次世代型路面電車(LRT)の整備などを進めてきた富山市は、成功例の一つとされる。

誘導区域内人口が 15年から20年にかけて 0・5%増える一方、区域外は2%減っていた。

それでも、500メートル四方ごとでは、商業施設などがある区域外の一部では 人口が増えている

ところがあった。

 

   本記事の地図 参照

 

     大規模商業施設などが近い居住誘導区域外の一部のエリアでは、人口が増えていた

 
 各自治体に共通するのが、人口を誘導する補助金などの「アメ」に対し、郊外の開発を規制する
「ムチ」が弱いことだ。
 

   立地適正化計画制度では、誘導区域外の開発は 届け出制で、自治体は 事業者に見直しを勧告

できる。しかし、県庁所在市39市で16年以降の届け出が 計5000件に上る一方、勧告はなかった。

 勧告に強制力はないが、ある市の担当者は「 民間事業に影響を与えるので簡単にできない 」と

話した。

 

「多角的な評価が必要」

 

 立地適正化計画制度の課題の一つには、明確な評価基準がないことがある。

 国土交通省が 2023年に公表した調査では、計画策定後に「 誘導区域の人口割合が増えた 」

と答えた自治体は 対象の63・9%に上った。しかし、人口割合の算出方法は 自治体ごとに異なり、

詳細なデータを把握していない自治体もあり、同省は 63・9%という数字について「 実態を正しく

把握・評価できていない可能性がある 」と指摘している。

 同省は 制度の実効性を上げるため、昨年12月に有識者会議を設け、評価のあり方などを検討

している。

 氏原岳人・岡山大准教授(都市計画学)は「 コンパクトシティーは 持続可能な都市づくりのために

必要だが、住民が利点を感じにくい。自治体は 誘導区域内に住むことのブランド価値を住民に丁寧に

説明し、そのためには、短期的な人口増減だけでなく、公共交通機関や病院や商業施設などの指標

を基に多角的に評価し、効果を可視化する仕組みが必要だ 」と指摘している。

 
 
 
                                                2023年12月19日        SDGsメディア『Spaceship Earth』