政官財の罪と罰

岸田首相が米演説で語らなかった“怖い話” 

本当のことだから言葉にできない「自衛隊が米軍傘下に入る」未来 

                 古賀茂明   2024/04/30 AERA dot. (アエラドット) 

 先週、欧州の大国イギリスとフランスから 興味深いニュースが届いた。どちらも、今、日本で

起きている 安全保障政策の大転換と密接に関係する話だ。先週の本コラム「岸田首相は なぜ 

アメリカに隷属したがるのか 背景にある深刻な『ナルシズム』と『白人コンプレックス』」で、

岸田文雄首相の米議会演説について詳しく紹介した。

   その中で、岸田首相が、英国を差し置いて、日本が「 米国の最も近い同盟国 」になったと

述べたが、その英国が、日本の進路を示す先導役になるだろうと思わせるニュースが入ってきた。

 

   英国のスナク首相は、4月23日、国内総生産(GDP)に対する国防費の比率を 現在の約2.3%から

2030年までに 2.5%に高めると表明した。この目標値は すでに言及されていたが、時期が明示

されたのは初めてだ。これが実現すれば、30年の英国防予算は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国

では 米国に次ぐ 16兆7千億円になるという。ちなみに、NATOが 各国に目標として課しているのは

2%である。

 

 つい 先日のイランによるイスラエル国内直接攻撃の際、英国軍は、米国軍と共に、イランからの

ドローンやミサイルの迎撃に参加した。

 イスラエルによる ガザのパレスチナ住民へのジェノサイドに対する国際的批判が高まる中でも、

迷わず イスラエル支援のために 米国と行動を共にする姿勢は、「 米国の最も近い同盟国 」としての

英国の立場をあらためて世界に示すことになった。

 

 岸田首相は、この英国を差し置いて、日本が「 米国の最も近い同盟国 」だと宣言し、さらに、

「 日本が 米国の最も近い同盟国としての役割を どれほど真剣に受け止めているか。このことを、

皆様に知っていただきたいと思います 」と米議会で語りかけた。

 岸田首相は、その言葉の意味を「 どれほど真剣に 」考えていたのだろうか。今後、英国を凌ぐほど

の忠誠を 米国に示すには 何をしなければならないのかを。

 

 一つ非常に明確なのは、今、岸田政権が目指す、防衛費の対GDP比 2%達成の先に 2.5%という

数字が設定された ということだ。それを 英国が達成する 30年までには達成しなければならない。

   さらに 心配なのは、英国は 米国のみならず NATO諸国と共同で ロシアの脅威に立ち向かうのだが、

日本が立ち向かう相手は 中国だ。ロシアに比べて、人口で 約10倍、経済規模は 9倍近い。

その大国と戦うには 英国のいう 2.5%では とても足りない。5%でも不足するだろう。しかも、

アジアで 中国と戦う覚悟を示しているのは 日本と台湾のみ。韓国は 中国との戦争は望んでいない。

つまり、共に戦う仲間が ほとんどいないのだから、防衛費は さらに膨らむ。

 

 日本のGDPは 約591兆円。GDP比で 2%から5%に上げるためには、18兆円弱が必要だ。

現状 消費税率は 10%で、税収は 23.8兆円(2024年度予算)だから、単純計算で 1%分が

2兆3800億円。 したがって、防衛費増加を 消費税の増税で賄えば、7%強の増税が必要になる。

そんなことになれば、庶民には 大打撃だ。

 

   もちろん、欧州諸国でも、増える防衛費負担を どうするかは大きな課題であるが、驚くべきことに、

最近では、社会保障費を削減しよう という意見が 堂々と主張されるようになってきた。

「 ロシアが攻めてくる! 」といえば、ウクライナの悲劇を目の当たりにした市民も 頷きがちだ

という状況がうまく利用されているようだ。

 4月23日配信の日本経済新聞電子版によれば、今年2月には、ベルギーのデクロー首相が、

社会保障関係費を削減するのは合理的だ と述べ話題になった。デンマークのフレデリクセン首相も

同様の主張をしたという。同国では 勤務時間の増加で 税収を伸ばし、防衛費に充てるために、

祝日を削減する法案が 23年に可決されたという。「自由の代償」だから仕方ないと正当化されて

いるというから驚きではないか。

 スナク首相の発言にも驚く。殺傷兵器を扱う企業への投資が ESG(環境・社会・企業統治)の

評価で プラスになることを明確にすると述べたそうだ。その理由が「 生活を守ることは倫理的 」

というのだが、牽強付会の極致ではないか。

 

 それでも、欧州では、国の指導者が、正面から 国民に負担を求める姿勢を示している。

 米国の最も近い同盟国への格上げを 自ら宣言した日本でも、今後 さらに拡大する巨額の防衛費増額

のために 誰かが負担することは回避できない。

岸田自民党政権の下では、経団連企業に負担を求めることはタブーだから、結局は一般市民の負担を

増やす以外にない。

 しかし、「増税メガネ」と揶揄されるのを ことのほか嫌う岸田氏は、正面から国民に問いかける

ことをせず、「 これは増税ではない 」「 実質的な負担増はない 」などという 詐欺的な説明で

乗り切ろうとするのだろう。どんな珍説が飛び出すのだろうか。