岸田政権を操る「電力マフィア」が焦りだした

…「能登半島地震」でバレた「原発再稼働」避難計画のお粗末すぎる実態

                2024.04.15  週刊現代

 

地震で「潮目が変わった」

 「 電力マフィアの頭目 」と綽名される嶋田隆首相秘書官(1982年旧通商産業省)と結託して

岸田文雄政権を操り、政府の エネルギー 政策を「脱原発」から「原発推進」に大転換させた経済産業省。

                                                                     嶋田隆 - Wikipedia

    ロシアのウクライナ侵攻に伴う 原油・天然ガス供給不安の高まりや、地球温暖化防止のための

脱炭素化の取り組み強化にかこつけて、昨年には、60年超の運転容認など 既存原発の再稼働推進や

原発のリプレース(建て替え)を 国の正式な方針に位置付けさせた。

   村瀬佳史・資源エネルギー庁長官(1990年同)ら幹部は「 フクイチ(東京電力福島第一原発)事故

の呪縛からやっと解き放たれた 」(資源エネルギー庁幹部)などと溜飲を下げていた。

   だが、好事魔多しとはよく言ったもので、元日の能登半島地震をきっかけに、「原発復権路線」の

旗色は 急速に悪くなっている。北陸電力の志賀原発(石川県志賀町)は運転休止中だったことも

幸いし重大なトラブルを免れたが、原発事故が起きた際の住民避難計画が機能しない代物であること

が白日の下にさらされたからだ。

                     資源エネルギー庁 - Wikipedia

避難計画は「絵にかいた餅」

    「 原子力災害対策指針 」では、重大事故の際、原発から半径5km圏内の住民は即座に避難し、

 5kmから30km圏内の住民は「屋内退避」が原則だ。

 だが、能登半島地震では 志賀原発周辺の広い範囲で土砂崩れにより道路が寸断された上、家屋

   ・建物の倒壊が相次いだ。地震と原発事故の複合災害では、政府が想定する圏外避難も 屋内退避

   も「絵にかいた餅」だと浮き彫りになった。

      原子力規制委員会は「 避難のあり方について 外部の専門家も交えて議論する 」というが、

   抜本的な指針の見直しは見送る方針だ。指針に欠陥があると認めてしまえば、圏外避難と屋内退避

   の組み合わせを前提に策定された各原発の避難計画が意味をなさなくなる。

 

     福島事故を教訓に「推進」と「規制」を分離する目的で、国家行政組織法3条に基づく

  「 政府から独立性の高い機関 」として設立されたはずの原子力規制委が、すっかり経産省に

   取り込まれた様子には 驚くばかりだが、立地住民に広がる原発不信は 覆い隠せない。

 

地元では 推進派さえ「反対」に

     それが如実に物語るのが、村瀬長官と東京電力柏崎刈羽原発(通称・KK)が立地する新潟県の

   花角英世知事(1982年旧運輸省)による3月21日の会談だ。

 

      村瀬長官は「 エネルギー安定供給や福島廃炉費用の捻出のため、KK6、7号機の早期再稼働が

   必須 」と説明した 斎藤健経産相名の文書を手渡し、協力を求めた。

  「 能登半島地震など災害から得た教訓を原子力災害対策の強化に活かし、再稼働後も 政府が責任

   を持って対処する 」とも強調したが、花角知事は「 県民の間で不安が広がっている。(KK再稼働

   の是非を)どう受け止めているか、丁寧に見極めていきたい 」などとして再稼働同意の言質を

   与えなかった。会談後の取材にも「 『お話は承りました』と答えた 」と聞き置く姿勢を強調する

   ばかりだった。

 

      KKを巡っては 県民の間に「 東電に再び原発を動かす資格があるのか 」との疑念が根強い上、

   6、7号機が 原子力規制委の安全審査をパスした後の 2021年1月以降、東電社員が IDカードを

   不正に利用して 中央制御室に出入りするなど、テロ対策上の不備が相次ぎ発覚したことで不信を

   増幅させた。

     2021年4月には 原子力規制委から事実上の運転禁止命令を食らっており、今では かつて

   再稼働推進派だった自民党県議の中からも「 不祥事を二度を起こさないという確証があるのか 」

   など厳しい声が出る始末だ。

     岸田政権の水面下の働き掛けも奏功してか、昨年12月には再発防止策が認められ、命令は

   ようやく解除されたが、再稼働に必須の地元の同意のハードルは高いままだ。

 

頼みの政治家は裏金で失脚

      そんな中、能登半島地震により 事故時の避難計画の実効性の乏しさが露わになったことで

    県民の態度は いよいよ硬化している。

    花角知事は かねて再稼働の同意の是非を判断する際には「県民の信を問う」と明言。

    出直し知事選も「 一つの選択肢 」としてきたが、永田町では、立憲民主党など 野党が地元で

    知名度が高い前知事の米山隆一衆院議員を対抗馬に立てる可能性も取り沙汰されており、容易には

    踏み切れないだろう。

 

       経産省のある幹部は「 前経産相の西村康稔氏ならエネ庁長官任せにせず、自ら新潟県を訪れた

    はず。そうすれば、知事の態度も違ったはずだ 」と嘆く。安倍派の裏金事件で 大臣が昨年12月

    に交代したことの影響を示唆したものだ。

      旧通産省OB(1985年入省)で エネ庁石油部などに在籍した経験がある上、地元が兵庫県である

    関係で 関西電力をはじめ電力業界首脳とも親しい西村氏が大臣なら「 KK再稼働に もっと汗を

    かいてくれたはず 」とのぼやきだ。

 

       斎藤経産相も 旧通産省OB(1983年入省)で同じく資源エネ庁石油部で働いたキャリアを持つが、

    政界入り後は 主に農水族議員として活動してきた。その上、当選同期の 小泉進次郎氏や、

    河野太郎氏ら アンチ原発派議員と親しく「 原発復権に 西村氏ほどの思い入れがない 」(エネ庁

    幹部)という。

 

      経産省は 花角知事が 官僚時代に二階俊博運輸相(当時)の大臣秘書官を務め、その後も

    可愛がられてきたことから「 いざとなれば 経産相経験者で自民党幹事長も務めた実力者の二階氏

    に動いてもらえる 」とも期待していた。

      だが、その二階氏も 3月25日、派閥の裏金事件に絡んで 次期衆院選への不出馬を表明。事実上、

   「蟄居の身」となり、この知事説得工作も露と消えた。

 

嶋田秘書官は「ご執心」だが…

     福島事故後、1基も 再稼働できていないフクイチと同型のBWR(沸騰水型原子炉)について、

   まず 今秋、東北電力女川2号機(宮城県女川町)と中国電力島根2号機(松江市)を先行して再稼働

   させ、それに続く形で KKも 年内に動かすというのが 経産省が描くシナリオだった。

   実現すれば、各電力会社に 家庭向け電気料金などを引き下げさせ、原発の優位性を世論にアピール

   することも算段していたようだ。

 

     しかし、能登半島地震をきっかけとした住民の不安の高まりは新潟県だけに止まらず、女川2号機

 や島根2号機についても 再稼働に向けた地元同意をしっかりと確認する必要があり、シナリオ全体

   に暗雲が垂れ込めている。福島事故直後に 社外取締役として東電に出向して 経営再建策を主導した

   経緯から嶋田首相秘書官は「 KK再稼働にことのほかご執心 」(官邸筋)というが、さすがに

   ゴリ押しできないだろう。

 

      原発復権のもう一つの柱である「リプレース」も視界不良だ。経産省は昨年、国会で成立した

  「GX(グリーントランスフォーメーション)推進法」を根拠に、原発のリプレースにも公的支援

   できる道を付けたが、大手電力からは「 支援の規模が小さ過ぎる。投資回収の予見可能性が

   立たない 」などと不満の声が噴出している。

 

笛吹けど踊らず

     福島事故後の安全対策の厳格化で リプレースには 1基当たり1兆円規模の投資コストがかかる

   とされるだけに、各電力とも「 投資回収を終えて確実に儲かる 」(関電幹部)の既存原発の

   運転延長を優先したいのが本音。新たに 巨費を投じるリプレースには 二の足を踏む。

      資源エネ庁の村瀬長官や松山泰浩次長(1992年同)らは「 国民の理解を得ながら支援を徐々に

   拡大していく 」などと しきりに囁いているが、公的支援を拡大すればするほど原発は「高い電源」

   となり、世論の反発を招くジレンマを抱える。

 

      今年は 国の中長期のエネルギー政策の方向性を示すエネルギー基本計画を改定する節目の年でも

   ある。前回2021年の改定では 脱炭素に向けて原発活用をうたいながら「 可能な限り原発依存度

   を低減する 」との文言が入るなど 中途半端な内容となった。

     このため、経産省は今回、「 2050年に温室効果ガスの排出量実質ゼロ 」という国際公約も

   錦の御旗に 原発復権を大々的にうたい上げたい方針だが、衆院解散・総選挙の可能性も取り沙汰

   され、秋には 自民党総裁選も控える中、国民の不興を買いかねないリスクがある。

   そもそも 既存原発の再稼働推進にしろ、リプレースにしろ お題目ばかりで実態が付いてきて

   おらず、改定を主導するエネ庁幹部らは「笛吹けど踊らず」の現実に頭を抱えている。

 

 

    首相秘書官に開成の後輩、元次官の起用は異例…岸田氏と長年のつきあい

                                                               2021/10/04    読売新聞

       自民党の岸田文雄総裁は3日、8人の首相秘書官人事を固めた。嶋田隆・元経済産業次官

     に加え、経産省からは 荒井勝喜商務情報政策局長を起用する。財務省出身者も 2人登用する。

嶋田隆氏
嶋田隆氏

      嶋田氏は 岸田氏と同じ私立開成高校出身で、長年のつきあいがある。次官経験者の起用は

    異例で、事務秘書官の筆頭として まとめ役を担う。財務省からは 宇波弘貴主計局次長、同省出身

    の中山光輝内閣官房内閣審議官を登用する。

       このほか、外務省出身の中込正志内閣官房内閣審議官、警察庁の逢阪貴士会計課長を充てる。

    防衛省出身の中嶋浩一郎氏は 菅内閣からの留任。岸田氏の事務所で秘書を務める山本高義氏が

    政務を担う見通しだ。

 

 

   経産省の本命と対抗 霞が関を揺るがした「逆転人事」はなぜ起きたのか

                            2023/09/07     文藝春秋 電子版