日本製鉄跡地を複合防衛拠点に…防衛省が広島県と呉市に意向伝える

                 2024/03/05  読売新聞

 昨年9月末に 事実上の閉鎖となった広島県呉市の日本製鉄(日鉄)瀬戸内製鉄所呉地区の

跡地活用を巡り、防衛省の担当者が 4日、県庁と呉市役所を訪れ、「多機能的な複合防衛拠点」

として整備したいとの意向を伝えた。

  県と呉市が明らかにした。防衛省幹部らが、跡地を活用して 防衛力の抜本的強化を図る方針を説明。

今後、日鉄と県、呉市との4者で 協議を進めたいとの申し入れがあったという。

 

   県は玉井優子副知事らが対応。湯崎知事は「 選択肢の一つ 」とした上で「 防衛省から話を

聞きながら、引き続き地域経済の活性化につながる利活用について検討していく 」とコメントした。

呉市の新原芳明市長は「 防衛省から丁寧に話を伺う 」とした。

 

 同地区は、戦艦大和を建造した旧日本海軍の工場「呉海軍工廠」の跡地で、広さは約130ha。

戦後は 民間転用され、2020年2月に 日鉄が閉鎖方針を発表した。

 21年9月に高炉が休止し、昨年9月、全ての製品出荷を終えた。日鉄は、設備の解体には

10年程度必要との見通しを示し、跡地の活用が課題となっている。

 県は 跡地利活用に向け、環境調査を呉市と共同で行うため、新年度予算案に 2000万円の事業費

を計上。4月上旬には県、呉市、日鉄での3者協議も始める。

 

 

緊急連載 日鉄呉跡地防衛拠点構想 <上> 水面下で交渉「寝耳に水」

           24年3月6日   中国新聞

 昨年9月末に 事実上閉鎖した呉市の日本製鉄(日鉄、東京)瀬戸内製鉄所呉地区の跡地について、

防衛省が 広島県や市に対し「多機能な複合防衛拠点」を整備したい意向を伝えた。約130haと

広大な跡地の活用策にめどが立たない状況が続いていた中で、呉の姿を変える可能性のある案が

浮上した。跡地を巡る動きを追った。
 

近くに 海自や陸自 好条件

 「 寝耳に水で驚いている 」。防衛省の意向が 市に伝えられて一夜が明けた5日、議長経験のある

市議はこう漏らした。「 話を聞いたばかり。市の対応方針は決まっていない 」。ある市幹部職員も

声をそろえる。

 長年、地元経済を支えた製鉄所の跡地活用の行方は、市の将来を左右する。日鉄は 当初、

昨年9月末までに活用方針を示すとしていたが、製鉄所の閉鎖後も 具体案は表に出てこなかった。
 「 行政側は、日鉄の動きが遅いと思っていた。だから 県と市で 産業用地として活用する調査を

4月以降に実施する方針を決めた 」。県の幹部職員の一人は明かす。

 ただ、関係者によると、防衛関連での活用に向けた同省と日鉄の交渉は水面下で進んでいたという。限られた範囲にしか伝えられていなかったとみられ「 今思えば、この案が静かに動いていたという

ことかも 」と幹部職員は振り返る。

 同省などは 跡地に想定する機能に、

民間誘致を含む防衛装備品の維持や整備、製造 ▽ 防災拠点と部隊の活動基盤 ▽ 岸壁を備えた港湾

― を掲げ、海上自衛隊呉基地や陸上自衛隊海田市駐屯地に近い立地も背景にあると説明。

元海自幹部は「 呉は ロジスティックの拠点。多くの艦船を係留し補給、修繕の機能があり、これを

拡大する狙い 」とみる。

 呉地方総監経験者の池太郎さん(63)は、呉基地は 艦船が基地内に入りきらないケースもある

とし「 跡地の岸壁に係留できるようになれば 迅速な出動に役立つ 」とする。南西諸島へのアクセス

が良いことに加え、災害派遣時には「 海田の陸自隊員を岸壁から乗り込ませればすぐに出航できる 」

と指摘する。

 県と市は 防衛拠点を選択肢の一つとし、詳細な説明を同省に求めていくとしている。産業用地

としての調査も並行して進める方針だ。

 一方、日鉄は跡地について「 工業用水や電気、ガス、岸壁などの特性を生かし、早期に敷地全体を

有効活用する方針 」と強調。その上で 同省の想定は「 この方針に合致している 」とし、同省と交渉

を続ける姿勢を示す。

広島県議会 意見相次ぐ
 呉市の日本製鉄瀬戸内製鉄所呉地区跡地について、防衛省が「多機能な複合防衛拠点」の整備案を

広島県と市に申し入れたことを巡り、5日の県議会予算特別委員会で県の見解を問う質問や意見が

相次いだ。湯崎英彦知事は「 (防衛拠点は)利活用策の選択肢の一つ 」とする一方で、産業用地

として活用するための調査もする考えをあらためて示した。

 灰岡香奈氏(自民議連、広島市安佐南区)は「 利活用の現状と今後の対応は 」と質問。

坪川竜大氏(自民議連、呉市)は「 可能な限り早く跡地活用されるべきだ。雇用創出が重要 」として

市や日鉄との連携を求めた。

 湯崎知事は 防衛省の整備案に関し「 具体的な内容や雇用の規模など 地元経済や社会に対する影響

については不明 」と指摘し、防衛省からの説明を丁寧に聞いていく考えを示した。

 県と市、日鉄の3者による跡地活用の協議も並行させる考えを強調。「 引き続き地域経済の活性化

につながり、住民にとって未来に希望が持てる跡地の利活用を検討する 」と述べた。

 県は 2024年度、跡地の産業用地としての活用に向け、市と連携して調査を始める予定。

24年度一般会計当初予算案に事業費2千万円を計上している。

 

 

緊急連載 日鉄呉跡地防衛拠点構想 <下> 「空白」解消・活性化に期待

           24年3月7日    中国新聞

弾薬庫想定 不安も根強く

 「 とうとう来たかという感じ。光明が差した 」。

防衛省による日本製鉄(日鉄、東京)瀬戸内製鉄所呉地区跡地(呉市)での複合防衛拠点構想が

明らかになったことを受け、広島経済同友会呉支部の大之木小兵衛支部長(59)は率直な感想を

述べた。

 日鉄が 呉地区の閉鎖方針を公表した2020年2月以降、跡地活用の具体案が示されない状況が

続き、呉市の経済界では ある懸念が広がっていた。「 敷地が約130haと大き過ぎることに加え、

土壌汚染の心配もある。用途の幅が狭く、買い手が付かないのではないかとの声が多かった 」と、

大之木支部長は明かす。

 製鉄所は 呉海軍工廠(こうしょう)跡地に整備された。同工廠で戦前・戦中時に何が使われていた

か詳細は不明だ。跡地は 海に面しており、潮風の影響を受ける半導体関連などの工場の誘致は難しい

との認識もあったという。

 市の人口減少が進む中、今回の防衛拠点構想について 呉の事業者には前向きな受け止めが目立つ

呉飲食組合の柴村清組合長(62)は「 空白期間が長引くのが一番つらい。自衛隊関連の人が増えて、

街が潤ってほしい 」と期待する。

 跡地は 海上自衛隊呉基地に近く、同構想では 防衛装備品の維持や製造に関連し、民間企業の誘致も

見据える。林芳正官房長官が「 地元経済の活性化に貢献できる 」とし、木原稔防衛相は 早期の一

括購入を視野に入れていると説明する。

 構想について、呉地方総監を務めた金沢工業大虎ノ門大学院の伊藤俊幸教授(65)は 国が

国内防衛産業の生産基盤の強化を進めているとし、装備品の製造・修繕に加え、技術者が集まる

研究開発拠点となることを見通す。「 民間企業も大きく関わる話だ 」と指摘する。

 一方で、同省が防衛拠点の機能の一つとして、弾薬庫を想定していることが明らかになった。

弾薬の保管場所となれば、攻撃対象ともなりうるだけに 市民の不安も少なくない。

 雇用の規模も含め 具体的な内容は明らかになっておらず、同構想を選択肢の一つとする広島県と

市は今後、同省の説明を聞くとする。構想に反対する市民団体のメンバーは「 地元住民への説明は

ないのか。構想を判断する上で 安全を守れるのかどうかという視点は不可欠だ 」とくぎを刺す。