千葉大学新学長は「人格は高潔」で物議…議事録公開が火に油…

    学長選は医学部による出来レースだった(全文)

                2024年03月27日    デイリー新潮 

 国立大学法人・千葉大学は 1月25日、昨年11月に死去した中山俊憲前学長(享年64)の後任に

副学長で 医学部附属病院長の横手幸太郎氏(60)を選定した。

しかし、事前に行われた「学内意向聴取」で 得票数が 1位だった候補ではなく 2位の横手氏が

選ばれたことから、医学部を除く 教授会と多数の学生・OBらが 猛反発。「学長選考・監察会議」

に議事録の公開と選定理由の説明を求めていた。

 学内意向聴取で得票数が1位だった 同じく副学長で 人文科学研究院教授の山田賢氏(64)

については、『デイリー新潮』が 2月28日配信の『異論噴出の千葉大学長選 得票率1位なのに

選ばれなかった「副学長」はどんな人か』で詳しく報じている。

   「 学内外から寄せられた多数の要求に慌てた 大学当局は、3月14日、ようやく 議事録の一部など

を公開しました。しかし、それによって 事態は沈静化するどころか、さらに強い反論や疑問の声が

沸き上がっています 」(千葉大関係者)

 

 議事録などが公開された当日、千葉大では 各部局長ら幹部が一堂に会する教育研究評議会が

開かれていた。対面とオンラインで40人ほどが参加した同評議会は、公開された文書をめぐって

大荒れに荒れたという。

 

「前学長の改革を継続・発展させられる者」

  「 公開された文書は 2点、議長名による選定理由の説明文と学長選考会議の議事録です。

ところが、その2点の文書の内容が矛盾していた。議長の説明文では 横手氏を選んだ理由の筆頭に

《人格は高潔で、学識に優れています》と書いているのに、議事録には人格うんぬんといった発言

はまったく残されていないのです 」(同)

 そして、次のように話す。

 「 議事録にあるのは 横手氏と山田氏を推す、それぞれいくつかの意見です。横手氏を推す理由には、

1位の山田氏も 得票が過半数に達していない、前学長の改革を継続・発展させられる者を選ぶべき、

といったものがありました。しかし、いずれの理由も 定められた学長選考基準には まったく合致

しないため、《 新学長の選考については、規定等に規定されているのだから、これに基づき 選考

すべきである 》という声が上がりました 」(同)

 

 学内の納得を得られたとは到底言いがたい状況だが、件の説明文の末尾には《 これ以上の説明は

行いません 》と明記されている。評議会も紛糾の末、「 これ以上 この件を追求することは 選考委員

への批判につながる 」という理由で強引に議論が打ち切られてしまったという。

 そもそも 千葉大では 歴代16名の学長のうち 実に14名が医学部出身であり、前学長の中山氏もまた

医学部の教授だった。一方、学内意向聴取で1位となりながら選ばれなかった山田氏は文学部の教授だ。「 前学長の改革を継続・発展させられる者 」を基準にすれば、医学部出身者に有利な “出来レース”

と見られかねない。

 

「製薬マネー」ランキング1位、あだ名は “億夫”

  「 なにより物議を醸しているのは《人格は高潔》という一文です。学内での横手さんのイメージ

といえば、金稼ぎが上手い人。陰では “億夫”というあだ名で呼ばれているほどですから 」(同)

 あだ名の由来は 製薬マネーだという。雑誌『選択』の2018年6月号に「 製薬会社と大学教授

『果てなき癒着』」と題する記事が掲載された。そこでは、国立大学附属病院の内科医らが 講演料

などの名目で製薬会社から多額の金銭を受け取っていた事実が暴露されている。しかも、受領金額

が多い医師のランキング表まで掲載。そこで堂々たる1位を獲得したのが、他ならぬ横手氏だった。

 

 調査を行ったのは 特定非営利活動法人ワセダクロニクル(現・Tansa)と 有志の医師たちだが、

新潮社のWebマガジン『フォーサイト』も同じデータに基づく記事を掲載。そこでもやはり

《 トップは千葉大学の横手幸太郎教授(内科、代謝・内分泌)で 2000万円。年間に155件の講演

などをこなしていた 》と報じられた(『製薬企業から謝礼金「270億円」もらう医師の「本音」』

Foresight:2018年7月10日配信)。

   「 報道されている資料によれば、横手さんは 少なくとも 16年から19年まで、毎年のように

  2000万円近い製薬マネーを受け取っていたようです。学内でも相当話題になりましたよ。

  2000万円なんて 国立大教授の平均年収を越えていますし、年155回の講演って、もはや そっちが

  本業なんじゃないかと。でも、やはり 医学部出身だった当時の学長の一存で『 社会貢献に係る

  真に止むを得ない兼業 』であれば問題なしという形に兼業規則が改定され、不問に付された。

  だから今回、横手さんが 学長選に立候補すると聞いて『 嘘でしょ、あの億夫が? 』と眉を顰める

  教職員も多かった」(同)

 

同じ選考委員が「筑波大」学長選でも炎上

 ここでひとつ疑問が浮かぶ。学内投票で 1位だった候補を差し置いて異論噴出の人物を選定した

「学長選考・監察会議」とは、どんなメンバーで構成されているのだろうか。

 「 選考会議は 各学部の代表である学内委員7名と経営協議会が選ぶ学外委員7名、計14名で構成

  されています。公開された議事録から、14名のうち 6名が学内意向聴取で 1位だった山田賢さんに

  投票し、残り8名が 横手さんに投票したことが判明しました。誰が誰に投票したかは公表されて

  いませんが、様々な情報を総合すると、学内委員7名のうち 確実に横手さんに入れたのは

  医学部出身の委員だけ。看護学部出身の委員も『学内意向聴取の結果を重んじるべき』として

  山田さんに投票した と言われています。一方で 学外委員7名のうち 議長を含む6名、あるいは7名の

  全員が横手さんに投票したようです 」(同)

 

 つまり、学内の意向が 外部の意見に押し切られたという構図のようだ。この点について落選した

山田氏を支持する千葉大の関係者は「 そもそも選出委員のメンバー構成がおかしい 」と憤る。

「 学外委員7名は 例外なく、前学長か前々学長、あるいは 前々々学長に任命されたメンバーです。

つまり 全員、医学部出身の学長が連れてきた人物。多くの国立大では学外委員の任期は 2年2期まで

などと定められているのですが、うちの大学では 任期の上限がなく、7名の平均在任期間は 9年にも

及ぶ。最高齢は88歳、全員が70歳以上の高齢男性です 」

 

 この関係者は、特定の委員と千葉大医学部の “浅からぬ関係” も指摘する。

「 筆頭は 選考会議議長の宮坂信之・東京医科歯科大学名誉教授(76)です。宮坂氏は 16年度から

現在に至るまで、千葉大医学部附属病院の監査委員長を務めているのです。そして 横手さんは、

11年度から19年度まで副病院長、20年度から病院長を務めています。

 宮坂議長は 選定理由の説明文で横手さんを 《(経営学修士の知識を活かし)病院の健全な運営に

貢献しています 》などと褒めちぎっていますが、自分が 監査責任者である病院の経営が健全だと

言っているだけで、自画自賛に等しいじゃないですか。

 

 おまけに 宮坂議長は、18年度から23年度まで附属病院が開講しているビジネススクール

『ちば医経塾』の講師も務めていた。附属病院から報酬を得ていたのであれば、濃厚な利益相反が

疑われます」(同)

 問題視されているもう一人の学外委員が河田悌一・関西大学東京センター長(78)だ。

「 公開された議事録には、学内意向聴取で 1位の候補を選ばないことに関して《(過去にも同様の

事例が)大阪大学、筑波大学など、いくつかある 》と反論する意見が載っています。

この発言者は 河田氏らしいのですが、例に挙げられた 20年の筑波大学長選も今回同様、

『おかしいじゃないか』という声が上がり大炎上しました。その筑波大の学長選考会議の議長こそ、

誰あろう河田氏本人だったのです」(同)

 当時の新聞記事には、筑波大の教職員らが「選考プロセスに疑義がある」として選考会議に

公開質問状を送ったことについて、議長である河田氏が「いちゃもんだ」と言下に退ける発言が

残っている。

 

新型コロナ「 5類になっても補助金を 」と求めた横手新学長

 ちなみに、宮坂議長と河田委員が《人格は高潔》として猛プッシュした横手氏の師は、やはり

医学部出身の齋藤康・前々々学長(81)だという。そして この齋藤氏も、河田氏とともに20年の

筑波大学長選考会議のメンバーを務めていた。

 

 「 筑波大でも千葉大と同じような顔ぶれが、同じように物議を醸す人選を行っていたのです。

議事録には 横手さんを推す理由のひとつに《英語の論文が多い》というものもありました。でも、

山田さんは 近世中国史の専門家。医師と比べて 英語論文が少ないのは当然です。

 昨年12月、東京大学が日本の大学として初めて『研究評価に関するサンフランシスコ宣言(DORA)』に署名しました。DORAでは、研究の評価は量ではなく質、それぞれの研究領域の特性

が重視されるべきなどとされている。どんな学問領域であろうと 英語論文の数だけで評価するという

不公正な慣行のせいで、現在まで 世界の大学ランキング上位が欧米の大学に独占されたままなのです。

それを改めようというのが現在のワールドスタンダードなのに……。まさに 老害ここに極まれり

ですよ 」(同)

 

 というわけで、千葉大学長選の結果は 議事録が公開されたことで「火に油」が注がれた状態に

なった。ただし、すでに触れたとおり、宮坂議長は 公開した説明文の末尾で《 今後 新たな文書等が

提出された場合も、これ以上の説明は行いません 》と力強く宣言している。

 

 そして、就任が 既定路線となりつつある横手新学長には、もうひとつの顔がある。

 

 新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5類に引き下げられることが決まった昨年2月、

一般社団法人・全国医学部長病院長会議の会長でもある横手氏は 記者会見で「 各病院は ぎりぎりの

収支でやってきた。赤字のままでは 通常診療ができない 」と主張し、5類移行後も診療報酬の加算、

病床確保や病棟閉鎖に対する財政支援の継続を訴えた。

 しかし、当時、いわゆる “幽霊病床”が問題視されていたこともあり、コロナ禍で補助金を受けた

国立病院や国立大学病院などの収支を 会計検査院が調べたところ、千葉大附属病院を含む それらの

病院では 21年度だけで 補助金収入が平均14億円あり、平均約7億円の黒字となっていたことが発覚

している。

 

 これを選考会議が評価した「健全な経営」手腕と取るか、学内の不満分子の言う「 金稼ぎが

上手い人 」と取るかは、永遠に平行線をたどる価値観の違いなのかもしれない。

 

                                                                                                 デイリー新潮編集部