このままでは「マイナンバーカード」が次々に失効していく

…政府が"保険証廃止"を強引に進める本当の理由【2023下半期BEST5】 

      大盤振る舞いで 取得率が8割近くに達したのに 

            磯山 友幸    経済ジャーナリスト

                    2024/03/20   PRESIDENT Online

 

原因は「ヒューマンエラー」とするデジタル大臣

 コンビニで 住民票が取れるというのが「便利さ」のウリだったマイナンバーカード。

ところが請求したら 別人の証明書が誤交付されるケースが出て大きなニュースになった。

その後も、「公金受取口座」が 他人のマイナンバーに紐付けられていたり、別人にマイナポイント

が付与されたケースが相次いで明らかになった。

    本格運用が始まった マイナンバーカードを健康保険証として使う「マイナ保険証」でも

本人以外の情報が紐付けられているケースが大量に発覚した。マイナンバーカードを巡る混乱は

とどまるところを知らない。

 

   河野太郎デジタル大臣は 大半の原因は「ヒューマンエラー」にあるとしている。デジタル庁が

作ったシステムの問題ではない、と言わんばかりだ。確かに マイナンバーカードに保険証など

別のカードの情報を紐付けようとすると、役所の窓口で 役人が関与するケースが増える。

ログインしていたマイナポータルの画面から ログアウトせずに 次の人のデータを入力して 別人の

情報が紐付けられたケースなど ヒューマンエラー、つまり 人による誤りが起きているのは間違いない。

 

マイナ保険証にいたっては「悲惨」そのもの

    また、例えば 小さな子供の公金受取口座に 親の銀行預金口座番号を紐付けるなど、結果的に

「他人」を紐付けたものが多数見つかった。その数、6月7日に 河野大臣が発表した時点で なんと

約13万件。家族ではない他人の口座が誤登録されていたものも 748件見つかった。子供でも

本人名義の口座を登録しなければいけない という情報が徹底されていなかった「ヒューマンエラー」

というわけだ。

 

    マイナ保険証にいたっては「悲惨」そのものだ。6月13日時点で 加藤勝信厚労大臣が明らかに

した 他人の情報が登録されていたケースは 7372件。医療機関で マイナ保険証を使った際に

「無効」などと表示され、患者が 窓口で医療費の10割負担を求められるケースも相次いだ。

   加藤大臣は 6月29日の会見で、カードで加入する保険を確認できなくても、8月診療分からは

窓口では 本来の3割負担などで支払い可能とする対応策を公表した。マイナ保険証を初めて使う場合

には 従来の保険証も持っていくように呼びかけるとしており、何とも トホホな対応を迫られている。

 

現場努力だけでは 「ヒューマンエラー」を防げない

    政府は マイナンバーカードの普及に躍起になっており、最大2万円分のポイントの付与などで

作成を呼びかけた。その結果、7月2日現在では 累計 9737万枚と人口の77.3%が取得するまでに

広がっている。今年1月末に 60.1%だったものがポイントの付与をきっかけに一気に高まったが、

これが逆に 窓口の業務を爆発的に増やし、ヒューマンエラーを助長した面もある。

                             (9737万÷0.773)×0.601≒12596万×0.601=7570万余

           (9737万ー7570万)×2万=2167万×2万=433400000000 

                ―――― 4334億円 

 それでも IT(情報技術)の専門家からすれば、数百件のシステムエラーがあったとしても、

1億枚近くある母数を考えれば、わずかな比率だということになるのだろう。7月2日のNHKの

日曜討論には河野大臣が出演、「マイナカード問題 どう対応?」というタイトルで放送されたが、

討論というよりも 問題沈静化を図るための国民への説明という感じだった。

   出演者が 個人認証制に肯定的な専門家だったということもある。さすがに、「 役所もミスをする

という認識を国民が持つ必要がある 」というシンクタンク研究員の発言には、現場でシステム作りを

担っている埼玉県戸田市役所の大山水帆デジタル戦略室長が「 役所では絶対間違いが起きないような

仕組みにしなければいけない 」とたしなめていた。もっとも、各自治体で デジタル化に取り組める

人材が圧倒的に足りない実態なども 強調。現場の努力だけでは ヒューマンエラーの再発が防げない

危機感を示していた。

 

デジタル化しても「仕事の仕組み」が変わっていない

   なぜ、こんなに データの紐付けで トラブルが起きるのか。それは単なる「ヒューマンエラー」

なのかというと そうではない。DXというのは デジタルトランスフォーメーションの略で、

デジタル化と共に、それまでの仕事の仕組みを変えていくことを示している。デジタル化すれば

仕事が変わる、というのではなく、仕事のやり方や流れを デジタル化できるように変えていく

ということが重要になる。この「X」(トランスフォーメーション)ができていないことが 日本の

DX化が進まない最大の原因なのだ。

 

    例えば、マイナンバーカードに 別人の公金受取口座が紐付けられてしまった最大の理由は、

銀行口座の「氏名」が「カタカナ」になっていることだ。一方、マイナンバーに登録されている

氏名は「漢字」のみ。カタカナの読みが入っていないので、システムで自動的に名寄せをする

ことができない。データの大本になる戸籍には そもそも読み仮名がないのだ。

   住民基本台帳には カタカナの読みを入れている市町村もあるが、検索する便宜上のもので、

その読みが本当に正しいかどうかを示したものではない。つまり、銀行口座のカタカナ氏名と

住民基本台帳の読みが一致するとも限らないのだ。

 

混乱は必至の 「戸籍法改正」

   政府は 急きょ、6月に閉幕した国会で 法改正を行い、戸籍に読み仮名を必須とする戸籍法改正を

行った。法律が施行されると 1年以内に本籍地や住所地の役所に行って読み仮名を申請しなければ

ならない。その時、誤った読み仮名を申請してしまう「ヒューマンエラー」のリスクは残る。

   預金口座のカタカナと戸籍上の読みが違っているケースもあるに違いない。名前の読みを証明

しようにも パスポートはローマ字で、表記も複数認められているケースがある。

届出がなかった人には 住民基本台帳などの読みを「了承したものとみなす」ことになりそうだが、

混乱は必至だ。そもそも 戸籍に使われている漢字には 当用漢字や人名漢字以外のものもあり、

誤字が登録されているものすらある。文字が違ったり、読みが違えば、コンピューターは同じデータ

とは判断せず、つまり 別人と扱うわけだ。

 

   そもそも、戸籍の人口と住民基本台帳の人口も大きく違うし、海外に 1年以上赴任する場合など、

転出で 住民票はなくなる。そういう仕組みになっているのだ。

 

個人を「本人」と特定する仕組みが バラバラ

    健康保険のデータを管理する健康保険組合のデータとマイナンバーのデータが一致しないのも

同様の問題だ。健康保険証には 読み仮名があるが、住民基本台帳の読み仮名と同じである保証はない。

登録する時点で確認している組合は ほとんどないからだ。また、健康保険証には写真もないし、

名前も 本名ではなく通称を保険証の表氏名欄に記載することを認めているケースもある。

   つまり、個人を「本人」と特定する仕組みが 年金や保険など制度ごとにバラバラで それをきちんと

整理する「X」、すなわち 仕事の見直しを これまでやってこなかったわけだ。

    それを一気に マイナンバーカードに紐付けて、従来の健康保険証を廃止するというから大混乱が

生じているわけだ。健康保険証に マイナンバーを利用し、その保険証でも マイナ保険証でも問題なく

保険が使えるようになってから、一体化すれば 簡単に移行できたはずだ。

 

    今回の不祥事を受けて、マイナンバーカードを返納する動きが広がっている。

本人が役所に行って 手続きをすれば、一度公布されたカードでも無効にできるのだ。それだけでは

ない。実は マイナンバーカード自体に 有効期限がある。カード自体は発行から 10回目の誕生日を

迎える日まで。カードの交付が始まったのは 2016年1月なので、2025年1月以降失効するカードが

出始める

    さらに カードに付いているICチップの電子証明書の有効期限は 5年なので、役所に出向いて

更新しなければいけない人が出始めているこれを放っておくと カードは無効になってしまう。

 

保険証廃止はマイナンバーカードを存続させるため

     河野大臣が NHKの日曜討論で、「 マイナンバーカードという名前を変えるべきだと個人的には

思う 」と発言して、その後、松野博一官房長官が否定する場面があった。

これは 番号よりも ICチップの電子証明書が重要なカギの役割をしているためだ。

つまり、ポイントを大盤振る舞いして やっと8割に達したカードが、国民に使われなければ 次々に

失効していく。おそらく 保険証を強制的に廃止しようとしているのは、利便性を増すためではなく、

マイナンバーカードを存続させるためだろう。

    結局、デジタル化を進める「D」側の人たちは 自分たちのペースで 自分たちの考えるデジタル化

を進めようとしているのだろう。一方で 「X」側にいる役所などの職員も 旧来の仕事の仕方を 極力

見直さないで済ませようとしている。

 

   結局 最後は、「世界で最も複雑なシステム」(政府に近いIT専門家)と言われる膨大な仕組みが

出来上がるのだろう。複雑になればなるほど「ヒューマンエラー」は生じる。マイナンバーを巡る

混乱は 残念ながら まだ当分続くことになりそうだ。