早急に海底活断層評価を、地震学の専門家が警鐘 

                                            能登半島地震で、政府の対策の遅れが露呈 

                岡田 広行       2024/02/14     東洋経済オンライン 

 2024年1月1日に発生した能登半島地震は 地震の規模や建物被害の大きさから、専門家の間でも

驚きをもって受け止められている。他方、地震自体は「 想定外 」ではなかったと言われる。

にもかかわらず、政府による評価や対策が遅れたのは なぜか――。地震地質学や活断層研究を

専門とする東北大学の遠田晋次教授にインタビューした。

 

――  1月9日の東北大学災害科学国際研究所の能登半島地震速報会で遠田さんは、

今回の地震の震源となった断層について、「 未知の断層ではない 」「 これまでに いろいろな研究

がなされてきた 」と発言しています。専門家の間で 今回動いた活断層については どのような関心

が持たれてきたのでしょうか。

 

   産業技術総合研究所などの調査に基づき、2014年に国土交通省が「日本海における大規模地震

に関する調査検討会報告書」を発表しています。そこでは、日本海の東の縁を震源域とした津波の

影響を考えるうえで 重要な断層を明示し、それが動いた場合に どの程度の規模の津波が襲来するか

についての分析結果が取りまとめられています。

   能登半島北部の沿岸については F43および F42という断層の存在を指摘し、それが

動いた場合の地震の規模や津波の高さなどが示されています。今回の地震では F43およびF42断層

と呼ばれたものと ほぼ同等の活断層が動いた と言うことができます。

   より詳細に言えば、両断層に加えて、能登半島西部の志賀町の北部あたりまで活断層が動いた。

その点では 地震の規模は予想よりも大きかったけれども、地震の発生自体は ほぼ想定されていた

ものだったと言えます。

 

長期評価の対象外で「主要な活断層」に入らず

―― 他方で この地震については、政府の地震調査研究推進本部(地震本部)の長期評価の対象

となっておらず、同本部が示した「主要活断層帯の概略位置図」にも記載はありませんでした。

 

   国交省の報告書は 東日本大震災を踏まえて 日本海側でも津波対策を強化することを目的とした

ものでした。しかし、政府の地震本部では それらの断層を主要な断層帯として評価していなかった

海域の活断層なので、陸域には それほど影響しないとの意識があったのだろうと思われます。

   今回の能登半島地震で 大きくずれ動いた地下の断層は 南に向かって傾き、能登半島の直下に

差し込む形になっていました。今考えてみれば、もっと丁寧に評価しておくべき断層の一つだった

と言えます。

 

――  地震対策と津波対策が ちぐはぐになっていたということでしょうか。

 

   国交省は 自治体の津波対策に役立ててほしい ということで調査報告書を策定し、これを踏まえて

日本海側の各県が対策に乗り出しました。

  石川県では 地域防災計画津波災害対策編が改定され、F43およびF42断層の活動による地震

の規模や長さ、幅、平均すべり量、津波の高さなどが想定されました。

他方、同防災対策の地震災害対策編では同断層は考慮されず、四半世紀前の評価に基づく地震被害想定

のままになっていました。

   その結果として「 能登半島の北方沖の地震 」については「 ごく局地的な災害で、災害度は低い 」

という評価にとどまっていました。

 

   政府の地震本部の「確率論的地震動予測地図」でも、能登半島北部は「 今後30年に震度6強の

揺れに見舞われる確率 」が相対的に低い地域に区分されていました

今回の断層が評価対象に入っていなかったためです。   地震に関する評価 | 地震本部

 

今あるデータを用いて沿岸部の活断層の評価を

―― 産総研などによる沿岸部の活断層に関する これまでの知見を基に、陸地での地震の規模を想定

することは難しいのでしょうか。

 

   活断層の長さや傾斜などのデータがある程度わかれば、それを基に「強震動レシピ」と呼ばれる

計算式を使って 地震動の大きさを試算することはできます。今回、「 こういう断層が 能登半島沖

にあって、これが動くとこういう震度分布になる 」という予測を示せていなかったことは残念です。

 

   海岸近くの海底活断層については、沿岸漁業との兼ね合いや水深状況から海底音波探査が

やりにくいといった技術的な問題はありますが、今 すでにあるデータを用いて地震動予測地図の

ようなものを作ることはできる。とにかく 急いで 評価すべきと思っています。

 

―― 今回の地震では、地震の規模(モーメントマグニチュード7.5)や 最大4mとされる地盤の隆起

の大きさなどについて、専門家の間でも驚きの声が上がっています。

 

   能登半島地震では、約150kmにわたって いくつかの断層が ドミノ倒しのようにずれ動いた

と言えます。約150kmというのは、糸魚川静岡構造線という 本州を東西に引き裂く陸域の

巨大活断層に匹敵する長さです。

   その結果として、地震の規模は モーメントマグニチュード 7.5と、非常に大きくなりました。

海岸の隆起が 最大で 4mになったことも大変な驚きでした。能登半島の地質地形から推定すると

3000~4000年に 1回くらいの頻度で大規模な隆起が起きてきたとみられます。

今回、私たちはそうした、ある意味で 奇跡的な瞬間を目撃したことになります。

 

―― 能登半島のような大規模な隆起による地形は ほかの地域でも見られるのでしょうか。

 

   北海道から青森県の日本海側、秋田県、山形県、新潟県、能登から福井県の越前海岸、若狭湾

にかけて、海岸線に顕著な隆起地形がみられます。

 

能登半島の周辺部では、大きめの地震に注意を

―― 今回の地震では 津波の到来の早さも注目されました。

 

   日本海で起きる津波の特徴として到達の早さを指摘できます。これは、海底活断層が陸地に近い

ところにあるためです。富山県の沿岸部では、能登半島地震の発生から わずか2分程度で第一波が

来ています。海底の斜面が地滑りを起こして 津波を引き起こしたためです。

津波の到来は 想定の4~5分より はるかに早かったと言えます。

 

―― NHKのアナウンサーが「すぐに逃げてください」と呼びかけ、気象庁が 石川県沿岸に

大津波警報を発令しました。

 

   呼びかけ自体は 的を射たものですが、実際の津波は 大津波警報の発令以前に来ています。

海岸線に近い地域に住んでいる方は、大きな揺れを感じたら すぐに高台に避難するくらいの心構え

を持っておく必要があります。

 

―― 今後の大きな地震の可能性はどうでしょうか。 地震の回数自体は 次第に収まっている

ようですが。

 

   ひずみが解消されたので、今回の地震の震源域で 同じ規模の地震が起きるということはない

だろうと思います。他方、気になるのは 断層帯の周辺部です。断層帯の東西に位置する志賀町の

沖合や佐渡島の沖合などでは ひずみが残っている。そうした断層帯の端の部分で 地震が起きやすい

状態が続くと見られ、大きめの地震に注意が必要です。

   金沢市から富山市のあたりでも 地震が増えています。ほとんど身体に感じない マグニチュード1~2程度

の地震ですが、普段の数倍から 10倍くらいの頻度で発生しています。佐渡島のあたりでも回数が

多くなっています。

   石川県の中部には 邑知潟(おうちがた)断層という大きな断層がありますが、そこにも ひずみが

加わっている可能性があります。今回の能登半島地震の震源から 100キロメートル以内のエリアでは

大きめの余震が いつ起きてもおかしくない状況です。