森永卓郎氏『ザイム真理教』が示唆する「アベノミクス失敗」の本質

「財政均衡主義」という“根本教義”が「二本目の矢を止めた」

        榎本憲男   2024.02.04  マネーポストWEB

    「 財政への信任が失われることがないよう、財政健全化を着実に進める 」── 1月22日、

   経済財政諮問会議で 岸田文雄首相はそう発言した。内閣府は 同日、2025年度の 基礎的財政収支

   (プライマリーバランス=PB)について、「 1.1兆円の赤字 」見通しとなる試算を公表。

   インフレによる税収増を歳出増が打ち消すため「 政府が目指す2025年度のPB黒字化達成は困難 」

   とメディアは報じている。

   そうしたなか、金融 とグローバリゼーションを題材にした小説『エアー3.0』を執筆中の小説家

   ・榎本憲男氏は、経済アナリスト・森永卓郎氏によるベストセラー本『ザイム真理教』に注目する。

   国民生活が貧しくなっても 消費税増税を続ける財務省は “カルト教団化”しているという森永氏の

   告発について、榎本氏が考察する。

 

                                     * * *


  昨年話題となった森永卓郎氏の『ザイム真理教』が いまだに売れ続けているという。僕も 先日

遅ればせながら読んだ。

 この本のタイトル「ザイム真理教」の要点を先に述べよう。ただし、以下は 僕独自の要約であり、

森永氏の言葉遣いを、僕なりに 若干翻訳していることを 先にお断りしておく。

 本書は、タイトルにも反映されている通り、財務省が カルト教団化しているという告発本である。

財務省は、財政均衡、財政の健全化、プライマリーバランスの黒字化( この3つは だいたい同じと

考えてよい )が 何よりも 大事なのだ( 財政均衡主義 )という根本教義を広めている。

 

   新聞テレビの大手メディアも この教義の拡散に協力して 国民を洗脳し、さらに 再配分に力を

入れるはずのリベラル陣営の政治家や評論家も この教義に いつのまにか洗脳されている──。

国民生活が どんどん貧しくなるのを止めるには この洗脳を解き、一刻も早く、減税と財政出動に

政策を向けるべきだ。こう考えた森永卓郎氏が、決死の思いで 書き上げたのが本書である。

 

 森永氏は、「 新自由主義からの脱却を目指す 」と宣言した岸田政権に 発足時には 非常に期待を

寄せたが、日を追うごとに 落胆が大きくなったと言う。 興味深いのは、対照的に 森永氏が、

安倍晋三元首相のアベノミクスを評価していることだ。

 

 アベノミクスの「3本の矢」、【1】金融緩和、【2】財政出動、【3】成長戦略 は 決して

まちがいではなかった。ただ【1】から【2】へ移れなかったのだ。 なぜ 移行できなかったのか。

   それは 財務省が協力しなかったからだろう。ということは、無双に見えた安倍政権も、

財務省カルト教団の教義を封じ込めることができなかった ということか。

 

  では、ここで、『安倍晋三 回顧録』(安倍晋三著、聞き手:橋本五郎、聞き手・構成:尾山宏 監修

:北村滋)を紐解いてみよう。財務省に対する恨み節は いろいろ出てくるが、ひとつだけ紹介する。

 

  〈 この時(*筆者注/増税政策を拒否した時)、財務官僚は、麻生さんによる説得という手段に

   加えて、谷垣禎一幹事長を担いで 安倍政権批判を展開し、私を引きずり下ろそうと画策したのです。

  (略) 彼らは 省益のためなら 政権を倒すことも辞さない 〉

                                           (同書「安倍政権を倒そうとした財務省との暗闘」より)。

 しかし、それでも 最終的に安倍政権は 逆に やむなく消費増税までするはめになった(2014年

4月1日に5%から8%、2019年10月1日に8%から10%)。それほどまでに 財務省のプレッシャーは

強いということか。

 

元財務官僚の「 証言 」

 先日、経済学者の高橋洋一氏(嘉悦大学教授)が 国民民主党代表・玉木雄一郎議員の地元 香川県に

赴いて講演し、その後 2人で行った対談を収録した YouTube動画(YouTube高橋洋一チャンネル

950回「香川で玉木さんと財務省の話とうどんを」) がある。

 

 高橋・玉木の両氏は ともに 大蔵省に入省し、財務省を退官後に それぞれの道に進んだ。

財務省の空気を ぞんぶんに吸ってきた2人である。そして、彼らは「ザイム真理教」の“布教活動”は

確かにある と言っている。玉木氏は「 財務省は 頭もいいけど、人もいいんですよ 」と持ち上げて

おいて、「 メディアも 政治家も、財務省の講義を 30分から1時間受けるとすぐ転ぶ 」(大意)と

観客を笑わせているが、本当だとしたら 笑いごとではない。

 

 思い当たる節は ある。

安倍政権下、蓮舫議員は 「 財政黒字を憲法に入れたい 」と財務省が泣いて喜ぶような主旨の発言を

しているし(2017年5月2日付日本経済新聞)、枝野幸男・立憲民主党代表(当時)は

「 だから、本来 効果が上がるはずの金融緩和を とことんアクセルを踏み、財政出動に とことん

アクセルを踏んでも、個人消費や実質賃金という、国民生活をよりよくするという 経済政策の本来

の目的にはつながらないところで 止まっているのではないでしょうか 」と大演説をした(2018年

7月20日衆院本会議)。

 

  枝野演説について言えば、安倍政権は 消費税増税は実施したが、「 財政出動に とことんアクセル

を踏んで 」などいない( 安倍政権下の公共事業関係費は、鳩山民主党政権下の公共事業関係費の

当初予算よりもむしろ低い )。アベノミクスの【1】から【2】への移行はなかったのである。

批判をするなら、「 アベノミクスの三本の矢の二本目は どうしたんですか。いつ財政出動するの

ですか 」と ツッコむべきではなかったか。

 

 経済が停滞している時に 増税という経済政策は 本来なら有り得ないのだが、我が国では、

ザイム真理教が、財政均衡主義という 根本教義のもと、たとえ 国が疲弊しても、この愚策を強引に

押し進め、今後も 進めようとしている。このような行為は とてもじゃないが カルト教団の教義を

もってしか正当化できない、と森永氏は告発している。

 

「 ザイム真理教 」という呼称には 劇薬に似た激しさがある。本書が 大手出版社数社から出版を

断られたのは、その激しさ故だろう。ここまで激しい表現を使わなければ 伝わらないのだという、

著者の覚悟が滲むタイトルだ。そして、この本は売れているという。森永氏が込めた劇薬は 少しずつ

効きはじめているのかも知れない。

 

 

 

    92.3兆円の政府予算案決定 人を重視、公共事業圧縮

             2009年12月25日  朝日

      鳩山政権は 25日、2010年度政府予算案を閣議で決定した。「コンクリートから

              人へ」を掲げ、公共事業の削減率を 過去最大とする一方、社会保障は手厚く配分した。

     一般会計総額は 92兆2992億円と過去最大に膨らむなか、予算の組み替えは進まず、

              借金頼みが 加速。マニフェスト(政権公約)関連予算も 圧縮を迫られた。

             「コンクリート」の代表格である公共事業費は 09年度当初比 18.3%減の5兆7731億円

     と 1978年以来の6兆円割れ。削減率は 小泉政権下の 02年度当初予算の10.7%を

              はるかにしのぐ。道路や港湾は 25%も削減した。

                一方、「人」に関連する社会保障費は 同 9.8%増の 27兆2686億円と急拡大した。

               中学生以下の子ども1人あたり月2万6千円(10年度は半額)を支給する子ども手当に

     国費 1.7兆円も計上。医師不足対策として 診療報酬も 0.19%増と10年ぶりに

               アップ。年金や介護、雇用のための予算も増えた。

                この結果、社会保障費は、各省庁が 政策に使う一般歳出(53兆4542億円)の半分を

               初めて超えた。高校の実質無償化の費用増で 文教費も 同8.2%増の4兆2538億円に

               急増した。

              「地域主権」を掲げる立場から 地方税収の落ち込みを補うため、地方自治体に配る

               地方交付税など 地方への配分額は 5.5%増の 17兆4777億円と過去最大になった。

             このため、歳出総額は 09年度当初予算より 3兆7512億円(4.2%)も増えた。

      歳入面は、火の車だ。

      景気低迷で10年度の税収は 18.9%減の 37兆3960億円。新規国債の発行額は

     過去最大の44兆3030億円に上り、目標とした「約44兆円以内」はかろうじて

     守ったが、当初予算段階としては 戦後初めて借金が 税収を上回った。

               鳩山政権は公約実現に必要な財源は、一般会計と特別会計の予算の全面組み替えで

                ひねり出すとしてきた。「霞が関埋蔵金 」と呼ばれる 特会の剰余金などによる税外収入

      を 15.8%増の10兆6002億円まで確保した。財政投融資特会と外国為替資金特会

                を中心に  計8特会から7.9兆円を一般会計に繰り入れた。

                   外為特会では、本来は 計上できない10年度分の剰余金を法改正して計上するという

                異例の措置でつじつまをあわせた。

              しかし、行政刷新会議の「事業仕分け」による削減額は 約7千億円どまりとなったこと

                もあり、公約関連予算の圧縮を迫られた。ガソリン税などの暫定税率の廃止は見送り、

                子ども手当は 現行の児童手当の仕組みを残して地方自治体や事業主に負担を求める。

                公約で 7.1兆円としていた必要財源は、減税分を含めて 計3.1兆円に減った。

                 公約の工程表通りなら、11年度は 12.6兆円の財源が必要になる。

               10年度末の国と地方の長期債務残高は862兆円と、国内総生産(GDP)の1.8倍に

      達する見通しで、中長期的な財政再建目標の設定も急務だ。

 

 

    16年度予算案/国交省関係、公共事業費4年連続増/防災・ストック効果重視  

                   2015.12.25  建設工業新聞

      政府は 24日の閣議で16年度予算案を決定した。一般会計の総額は 96兆7218億円で

     当初予算としては 4年連続で過去最大を更新。うち公共事業関係費前年度比26億円

               (0・04%) 5兆9737億円となった。国土交通省の予算額は 総額 5兆7767億円

     で前年度比0・2%減。増減が焦点となっていた同省分の公共事業関係費は 災害復旧を

     含め、20・4億円(0・04%)増の 5兆1787億円で、ほぼ横ばいながらも 4年連続増

     確保した。
      公共事業関係費は、局地的豪雨の頻発などを踏まえ、防災・減災対策を充実させた他、

     インフラの老朽化対策に重点を置いた。さらに、経済成長につながる社会資本整備として、

     インフラのストック効果を重視した予算編成を行ったのが特徴だ。
      水害・土砂災害・火山災害の対策には3%増の4434億円を配分。インフラ老朽化対策

     として進める戦略的な維持管理・更新には 4%増の4100億円を充てるほか、地方自治体

     向けの「防災・安全交付金」は 0・5%増の 1兆1002億円を計上した。

      一方、新規事業が中心の「社会資本整備総合交付金」は 0・4%減の 8983億円と

                なった。「コンパクト+ネットワーク」の推進や、子育て世代・高齢者世帯が豊かに

                暮らせる生活環境の整備を図る。
                  ストック効果関連としては、物流ネットワークの強化に 6%増の 3170億円を計上。

                3大都市圏環状道路や空港・港湾のアクセス道路などに重点投資する。民間のビジネス

                 機会を拡大するPPP・PFIの推進には22%増の268億円を配分した。

                整備新幹線関係は前年度と同じ755億円を確保した。
       予算執行の段階では、ICT(情報通信技術)を直轄事業で全面的に活用する「i-

       Construction」に取り組み、債務負担行為を活用した施工時期の平準化も進める。
                    国交省関係では このほか、官庁営繕費に前年度と同じ 177億円、その他施設費に

      18%増の 338億円を配分した。