原発を必要とする経済は、誰のための経済なのか?! 

 

 

能登半島地震で原発は「警戒事態」だった

…政府と自治体の対応を振り返る 指針に書かれた「避難の準備」は

             2024年1月24日    東京新聞 TOKYO Web

 

 能登半島地震では 北陸電力志賀原発を巡る危機も看過できない。実は 今回、立地する石川県志賀町

で 震度6弱以上を記録したため、国の原子力災害対策指針が定める緊急事態区分の一つ「警戒事態」

に当たると原子力規制庁は判断していた。関連情報の周知 や 避難の準備が求められたが、震災対応に

追われた地元自治体は 手が回ったのか。複合災害に対応できるのか。(曽田晋太郎、西田直晃)

      原子力災害対策指針

         警戒事態: 警戒事態は、その時点では公衆への放射線による影響やそのおそれが緊急のものではないが、

           原子力施設における異常事象の発生 又はそのおそれがあるため、情報収集や、緊急時モニタリング

          (放射性物質 若しくは放射線の異常な放出 又はそのおそれがある場合に実施する環境放射線モニタリングをいう。

           以下同じ。)の準備施設敷地緊急事態要避難者(注)を対象とした避難等の予防的防護措置の準備を開始する

           必要がある段階である。 

             この段階では、原子力事業者は警戒事態に該当する事象の発生 及び 施設の状況について 直ちに国に連絡

           しなければならない。また、原子力事業者は、これらの経過について、連絡しなければならない

           国は、原子力事業者の情報を基に警戒事態の発生の確認を行い、遅滞なく、地方公共団体、公衆等に対する

           情報提供を行わなければならない国 及び地方公共団体は、原子力施設の近傍のPAZ((3)② (ⅰ)

           (イ)で述べるPAZをいう。以下同じ。)内において、実施に比較的時間を要する防護措置の準備に

           着手しなければならない

            (注) 施設敷地緊急事態要避難者 「施設敷地緊急事態要避難者」とは、PAZ内の住民等であって、

                  施設敷地緊急事態の段階で避難等の予防的防護措置を実施すべき者と して次に掲げる者をいう。 

                 イ 要配慮者(災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第8条第2項第15号に規定する要配慮者を

      いう。以下同じ)(ロ又は ハに該当する者を除く。)のうち、避難の実施に通常以上の時間がかかるもの 

       ロ 妊婦、授乳婦、乳幼児 及び乳幼児とともに避難する必要のある者 

                 ハ 安定ヨウ素剤を服用できないと医師が判断した者

 

    P19 24/92 警戒事態を判断するEAL

               ⑫ 当該原子力事業所所在市町村において、震度6弱以上の地震が発生した場合。

               ⑬ 当該原子力事業所所在市町村沿岸を含む津波予報区において、大津波警報が発表された場合。

 

◆自治体職員も多くが被災して登庁ができない大混乱

 「 阪神大震災の経験が生きなかった。経験を生かす以前の話だった 」

 そう話すのは 神戸市危機管理室の課長、渡辺智明さん(58)。6日から11日にかけて能登半島先端

にある石川県珠洲市役所に入り、避難所運営のニーズ調査を担った。都市部で起きた阪神大震災とは

異なる混乱ぶりがあったという。

 珠洲市は 地方の過疎地。人口は 約1万2000人。職員数も神戸が2万人だったのに対して400人ほど。

3〜4割は 被災して市役所に来られない状況だった。

 渡辺さんが現地入りした段階でも 被害の全体像がつかめておらず、避難所の数や避難者数も不明

だった。情報発信もままならず、飲料水などの物資が必要量以上に届く事態に陥った。

 「 珠洲市は 人手不足で満身創痍(そうい)だった。体系的に動けておらず、機能不全の状態だった。

    初動の局面から なかなか先に進めない状況になっていた 」

 

◆震度6弱以上で「警戒事態」 原子力災害対策指針

 震災対応で大混乱した今回の地震。原子力災害でも 重要な局面が迫っていた。

 志賀原発は停止中だったものの、立地する志賀町では  元日に震度7、 6日に6弱を記録した

その一方、原子力災害対策特別措置法に基づく原子力災害対策指針では「 原発所在市町村で、

震度6弱以上の地震が発生した場合 」などを「警戒事態」と判断する基準の一つに定めている。

 警戒事態は 事故対応の初期段階に当たる。住民対応を円滑に進める名目で 規制庁や自治体は

少なくない業務を強いられる。指針などによれば、職員の参集、関連情報の収集や周知のほか、

環境モニタリングや避難の準備が必要になる。

 避難の準備で対象になるのが、原発の5キロ圏の高齢者や妊婦ら。搬送先や輸送手段の確保も

求められる。

 

◆警戒本部を 約5時間半で「廃止」 何を急いだのか

 規制庁によると、警戒事態に該当するかの判断は 同庁が行う。今回のケースでは、志賀町で

震度6弱以上を観測した2回とも警戒事態に認定し、原子力規制委員会・内閣府原子力事故合同警戒本部

が設置された

 ただ 警戒本部は 1日が約5時間半、6日が 約40分で廃止された。この間、原子炉の「止める・

冷やす・閉じ込める」の機能や使用済み核燃料の冷却状態を確認したという。

 富山大の林衛准教授(科学技術社会論)は「 志賀原発に異常はないとしつつ、変圧器の油漏れや

電源喪失などの情報がどんどん出てきた。規制庁は 異常の把握を途中でやめ、『大丈夫でしょう』と

決めたように見えるなぜ  本部を急いで廃止したのか。信頼性を失う判断ではなかったか」と疑問

を呈する。

 「 情報が錯綜(サクソウ)すれば 自治体の混乱を招きかねない。不具合の原因が究明できていない

ので、いつ危険な状態になるか分からない。規制庁は きちんと地震の影響をチェックすべきだった

 

◆石川県「国からの指示が特になかった」

 国もさることながら 気になるのが、志賀原発を巡る地元自治体の動き、特に 石川県の対応だ。

 志賀町出身で 社民党県連代表の盛本芳久県議は「 県は 北陸電力の発表を追認するだけで、

原発に関する独自の情報発信がほとんどない 」と不信感を示した上で「 タブー視されているかの

ようで、県の動きが見えないことに不安を感じている 」と嘆く。

                                                      志賀原発安否への対応は? 

 実際のところ、県は どのように動いたか。

 県原子力安全対策室によると、元日の地震発生の約45分後、「事故現地警戒本部」の設置を

国から文書で要請される直前、県独自の判断で 拠点の志賀オフサイトセンターに職員2人を派遣した。

地域防災計画では 震度5以上なら全職員登庁と定め、担当者は「すぐに県庁の受け入れ態勢をとった」

と説明する。

 その後、北電から安全性の情報提供を受けながら、周辺の空間放射線量を測る緊急時モニタリング

の準備を整えたが、道路の陥没や隆起が相次ぐ中で 様子見に徹した。担当者は「初動の迅速さ」を

強調し、原子力災害対策指針が定めた通りの対応を説明。「 規制庁と相談しながら対応を判断して

いた 」とのことだった。

 ただ、5キロ圏の高齢者や妊婦らの避難準備は、立地町の志賀町に呼びかけていない。「 国からの

指示が特になかった 」(県危機対策課の担当者)ためという。

 

◆地震に 原子力災害が加わると「 対処できるレベルをはるかに超える 」

 志賀町によると、警戒事態で 避難準備する対象者は 少なくとも233人(2023年11月時点)が

該当し、5キロ圏で生活する住民の約7%を占めている。実際に避難となると、震災対応と並行した

動きが求められる。

 今回の地震で こうした原発対応に追われた県と志賀町に対し、盛本氏は「 災害対応は 本当に

大変だった 」とねぎらいつつ「 原発の様子が気になる県民は多い。余震の際には『原発は大丈夫か』

と不安が募る。もっと情報を集約してほしかった 」と注文する。

 警戒事態から さらに状況が悪化すると、自治体などの負担がはるかに増す。

 避難を強いられた住民の誘導、避難者の体に付着した汚染の程度を調べるスクリーニング、

甲状腺被ばくを軽減する安定ヨウ素剤の配布なども必要に。目の前の災害対応の中、対処しきれない

事態が待ち受けている可能性が高い。

 新潟国際情報大の佐々木寛教授(政治学)は「 能登半島地震では、水道破裂や道路陥没、電気不通

が相次いだが、そこに 原子力災害が加わると、単一の自治体が対処できるレベルをはるかに超える

と指摘する。

「 原発事故は 十中八九、地震や津波と併発する複合災害。どの自治体も人員、物資ともに不足する 」

 

◆国民を守るための方策が「簡略化」される懸念

 さらに 佐々木氏は「 原発事故の対応に手が回らないという理由を付け、防護策の簡略化に向かう

のが怖い 」とも警戒する。

 5キロ圏を例に取れば、今の指針では 警戒事態よりも深刻な 「施設敷地緊急事態」や

「全面緊急事態」で 避難の開始を想定するが、労力の問題から「 5キロ圏でも 屋内退避になって

しまうかもしれない 」と見通す。

 5キロ圏外でも「 頑丈な建物に退避 」が原発対応の基本とされかねない一方、今回の地震で建物の

損壊リスクが明らかになっている。そんな中、屋内退避で難を免れるのに限界があるのは明白だ

飛散した放射性物質にさらされたり、体内に取り込んだりすることで、被ばくを強いられる可能性が

高くなってしまう。

 佐々木氏は「 原発が重大な事態に至らなくとも 近くに住む人は不安を抱え、外に逃げてもいいか、

屋内にとどまるべきか、迷いを生じさせる。それほど 原発は厄介な存在だ 」と訴える。

 

◆デスクメモ

 地震や津波の対応に奔走する自治体には頭が下がる。自身や身内が被災した例もあるだろう。

彼らに原発対応まで求めるのは申し訳ない。災害時に負担を強い、疲弊を加速させるのが原発

という存在。佐々木さんの言うように厄介であり、罪深くもある。そんな原発は本当に必要なのか。

                                                                                            (榊)

 

1月19日