今西憲之 2024/01/15 AERA dot. (アエラドット)
自民党の「清和政策研究会」(安倍派)が 政治資金パーティー収入の一部を裏金化したとされる
事件で、東京地検特捜部が衆院議員の池田佳隆容疑者と、その政策秘書を 政治資金規正法違反
(虚偽記載)容疑で逮捕した。 ただ、注目の安倍派幹部の立件については、「断念」との報道が
出始めている一方で、捜査関係者からは「 断念したわけではない 」との声もある。
小沢一郎衆院議員の秘書を長く務め、「陸山会事件」で 特捜部に逮捕された経験がある元民主党
衆院議員の石川知裕さんは「 私のときと同じような事件に思えてならないですね 」と話す。
「 検察は弱いところを突いてくる 」という石川さんに、特捜部の取り調べについて聞いた。
石川さんは、小沢氏の資金管理団体「陸山会」の土地取引事件で、政治資金収支報告書に4億円
を記載していなかったとして、2010年1月に政治資金規正法違反(虚偽記載)容疑で特捜部に逮捕
された。
特捜部は、中堅ゼネコンの水谷建設(本社・三重県)がダム建設工事へ参入した時期に、
同社から小沢氏側が 5千万円の裏金を受け取ったのではないかとみて 捜査を広げた。
小沢氏については、検察が不起訴と判断したが、検察審査会で強制起訴となり、裁判で無罪に。
しかし 衆院議員だった石川さんや大久保隆規氏(現・岩手県議)ら計3人の元秘書は 執行猶予付き
の有罪判決が下された。
「 4億円の不記載は 本当に書いていなかったから仕方がなかったが、水谷建設からの賄賂は
あり得ないこと。徹底的に特捜部とやりあいました 」と石川さんは言う。
5~6時間ぶっ続けで フラフラ
今回の安倍派の “裏金” 問題では、池田容疑者と、会計責任者である政策秘書も一緒に逮捕
された。特捜部は 家宅捜索や、会計責任者、秘書の事情聴取をして証拠をおさえてから議員へ
と攻めあがる捜査をしている様子だ。
「 会計責任者や秘書の捜査を 特捜部が先行させているのは、弱いところからやっているので
しょう。カギになる会計責任者、秘書のなかには、『もう逃げられないぞ』『立件や逮捕で
ニュースにも名前が出る』などと言われ、きつい取り調べをされている人もいると思います。
私も 取り調べの際には 『弁当持ってこい』 と検事から脅しまがいのことを言われ、5時間、
6時間、ぶっ続けで受けて フラフラでした 」
石川さんは 自らの経験から そう語る。
「 特捜部は 最初から、(政治資金収支報告書への不記載は)小沢先生に了承を得ていたはず
だろう、と 決めつけるような取り調べでした。政治資金収支報告書の作成で、小沢先生が
こと細かく指示することなんてまったくないです。他の報告、連絡事項の合間に『 今年はざっと
こんな感じです』と説明して、小沢先生は 内容が書かれた報告書も ほとんど見ずに『そうか』
で終わり。私の供述調書でも そう記されました 」
そうすると、特捜部は 別の方面から揺さぶりをかけてきたという。
「 取り調べの検事も 困り果てていました。すると 特捜部はマスコミの1社に、『小沢氏、了承』
と 4億円の不記載を小沢先生が主導、了承したと、曲解した内容をリークしたんです。
こちらは 外の様子がわからないので びっくりするばかりでした。議員を捕まえるときは、
マスコミを使って悪者に仕立てるのだと思いました 」(石川さん)
「小沢の妻を取り調べる」と検察に言われ
特捜部に対して弱みなどなかった石川さんだが、最大のピンチが訪れた。 検事から「 小沢の
妻を取り調べるつもりだ 」とささやかれたときだという。
「 面食らいました。当時、小沢先生は 奥さんとうまくいっておらず、もし 呼ばれたらえらいこと
だなと。そこだけは 必死で守りました。特捜部は、筋書きに合った供述を取るためには、弱みを
つかんで 交換条件のようにしてくるなど 手段を選びません。別の国会議員の事件では、その
秘書が、自分の妻ではない女性との あられもない姿の写真を 家宅捜索で押収され、それを
取り調べのときに突き付けられて 供述を求められたのは有名な話です 」
現在、捜査が続いている 安倍派の “裏金”事件で、すでに 特捜部の取り調べを受けたという
ある議員秘書は、
「 次は 議員本人に来てもらうので、誰の言っていることが本当なのかこれでハッキリするよ、
と 検事から言われました。自分のしゃべったことで 議員のバッジが飛ぶのではと 怖くてなり
ません。そうなれば 私も秘書でなくなり、失業です 」とプレッシャーを感じていると吐露した。
通常国会の開会が 1月26日との見通しが強まるなか、安倍派「5人衆」ら幹部の立件は 難しい
という報道が多くなってきた。
だが、5人とも 派閥からキックバックを受けていたり、パーティー券を売りながら 派閥に
収めなかったりしていた とみられており、ある捜査関係者は、
「 報道されることで、世論的には 『幹部の立件はできない』との見方をされてますが、そうでは
ありません。5人衆の立件を断念というのは、安倍派という組織、清和政策研究会の事件について
です。個々の政治資金収支報告書の内容については まだ捜査しています。国会の日程が出ており、
捜査は大詰めです 」
と打ち明け、5人衆ら幹部それぞれについては、まだ調べが続いているとのことだった。
「立件断念」報道は “観測気球”? ゆさぶり?
また、「立件断念」の報道は、「 特捜部が 世論の動向を見極めるためにリークした 」
「 安倍派へのゆさぶり 」との見方もある。
元検事の落合洋司弁護士は、
「 安倍派のキックバック事件は これだけ大きくなっている。金額が大きかった議員数人のバッジが
飛ぶ程度では 特捜部のメンツが立たない。そこで 5人衆ら幹部の個人の政治資金規正法違反を
問えないか特捜部は狙っているのではないか 」 と指摘する。
今回の政治資金収支報告書への不記載については、指示や了承があったのか、共謀が成り立つ
のか、が焦点となっており、石川さんが 小沢氏との「共謀」を認めるかどうかが最大のポイント
だった陸山会事件のときと同じだ。
石川さんが こう話す。
「 私のときは 特捜部の検事から、小沢先生の了承=(イコール)共謀を認めろ、と言われ続け
ました。会計責任者や秘書には、『 議員や事務総長から指示や決裁があったはず。共謀を認めよ、
その供述調書にサインしろ 』とやってきます。サインしないと弱い部分を突いて、逮捕を
ちらつかせもします。そりゃ びびりますよ。でも、もし違うなら それには屈せず、本当のことを
話す、を貫くべきですね 」