総額2兆円!巨額のマイナンバー予算を懐に納める「巨大企業」の実名
現場は「手入力デスマーチ」のさなか
2023.08.28 週刊現代
一度走り出したら、立ち止まることも間違いを認めることもできず、破滅まで突き進む—。
そんな日本の悪しき性が、また鎌首をもたげている。くり返される失敗の深層には、この国の
宿痾があった。
保険証廃止は実現困難
〈該当する資格がありません〉
マイナンバーカードを端末にかざすと、そんなエラーが表示された。持ち主は パニックだ。
「 どうなってるの? 保険適用じゃなくなるの? 」
困惑する患者をなだめ、すぐさま役所に問い合わせる — 大阪府の北原医院では、マイナンバーカード
を保険証として使えるようにするシステムを導入した今春から、こんな光景が たびたびくり広げられ
ている。同院の井上美佐院長が語る。
「 エラーが出る原因は、大きく分けて2つ。マイナンバーカードに記されている名前の漢字や
住所といった情報が、保険証にある登録内容と合致せず ハネられてしまうケースと、結婚・離婚
などで苗字が変わったり、勤務先が変わって社会保険から国民健康保険に切り替わったけれど、
役所の側の情報更新が追いついていないケースです 」
呆れたのは、地元の自治体に問い合わせた際、こう言われたことだ。
「 役所で使っているパソコンが古くて、その患者さんの名前の漢字を正しく表示できない。
申し訳ないが、今まで通り 紙の保険証を持って来てもらってください 」
岸田政権は 来年'24年の秋をめどに「保険証の廃止」そして「マイナンバーカードへの完全移行」
を強行しようとしている。だが、こんな体たらくでは とうてい不可能だろう。井上氏が続ける。
「 紙の保険証がなくなって マイナ保険証だけになれば、エラーが出た人が健康保険に加入している
かどうか、簡単には わからなくなるでしょう。患者さんに『被保険者資格の確認がとれないので、
とりあえず 診療費を10割払ってください』なんて言ったら、揉めごとになるに決まっています 」
国の無策に振り回されて
これまで「 住民票をコンビニで発行できる 」「 マイナポイントがもらえる 」という程度だった
マイナンバーカードの使い道を、いきなり急拡大させる。そんな拙速な判断を政府が下したせいで、
大混乱が起きていることは ご存知の通りだ。
宮崎県では 7月、県の職員が、障害者の持つ療育手帳のデータをマイナンバーと関連づける
「紐付け」作業中に、パソコン上の個人情報を 1行ズレた状態でコピーし、2336名の県民に別人の
マイナンバーが関連づけられる事故が起きた。
このミスは、たった一人の職員が長時間作業にあたっていたために起きた と言われる。各地の
役所も、同じような極限状況だ。千葉県の某中規模自治体の幹部が明かす。
「 マイナンバー関連の作業は コロナワクチン接種と同様、国は指示するだけで、実務は 自治体
や関係機関に丸投げです。
日本人の名前や住所は 表記がまちまちで、漢字・カナ・異体字が交じっているため、目視で
書き写して何度も確認しないといけない。何万人分ものデータをくり返しチェックするわけですが、
秘密を守るために、認証の済んだ少人数のスタッフが作業せざるを得ません 」
目を血走らせながら、来る日も来る日も 手作業で膨大なデータの入力・確認に明け暮れる —
こうした現状は 行政の現場でデスマーチ(死の行進)と言われている。
2兆円を費やす
自治体だけではない。マイナ保険証のトラブルは、約4000万人の健康保険のデータを管理する
全国健康保険協会、通称「協会けんぽ」の内部でも デスマーチが常態化しているために起きている
のだ。 8月16日には、同協会の加入者40万人分の保険情報とマイナンバーが紐付けできていないこと
が判明した。保険証関連のエラーは、週に 数千件にのぼる。
「 制度の発足当初、保険証を完全にマイナンバーカードで代替するなんて計画はなかった。
河野太郎デジタル大臣が 去年の10月、ほとんど思いつきで言い出した話で、我々は国の行き当たり
ばったりに振り回される日々です 」(前出・自治体幹部)
'16年の導入から7年が過ぎ、日本はいま「マイナンバー敗戦」に突き進んでいる。その恐るべき
実態を見ていこう。
「 健康保険、年金、運転免許、介護保険と、これまで 日本では複数の『番号制度』がバラバラに
運用されてきました。マイナンバー は 当初、'03年から稼働している住民基本台帳ネットワークシステム
、いわゆる『住基ネット』レベルの情報とだけ連携する という話でしたが、後付けで 他の諸制度
とも連携することになった。
マイナンバーを導入すれば、並立する制度を一つに スッキリまとめられるのではないかと思う
かもしれませんが、実態は 逆です。日本の公的システムは 増改築を繰り返して巨大化した旅館
のように、複雑怪奇な構造になりつつある 」(ITジャーナリストの佃均氏)
これまで マイナンバーのシステム構築、ほかの行政サービスとの紐付け、カード発行・交付、
マイナポイントをはじめとする普及促進策などの諸政策に費やされた予算は、2兆円を超える。
表沙汰になりにくい
中でも、巨額の費用が渡っているのが「5大ベンダー(=ITシステム開発会社)」と呼ばれる
企業群だ。富士通、日立製作所、NTTデータ、NEC、日本IBMの5社で、日本の行政をシステム面
から牛耳る存在である。神奈川県の某自治体の元首長が 証言する。
「 今春にも、マイナカードを使って コンビニで住民票を発行したら 他人のものが出てくるトラブル
がありましたが、原因は 富士通の子会社『富士通Japan』が開発したシステムの不備でした。
とりわけ 富士通は 日本の自治体に最も食い込んでいて、各地の役所のサーバー室の管理を
請け負ったり、社員を送り込んだりして、自分たち以外は 公共システムをいじれないようにする。
機器やシステムを維持管理する利権さえ確保すれば、あとは安泰ですからね。この構造が非効率な
仕事の温床になっている 」
何十万人、何百万人もの 個人情報を扱う行政のITシステムは、いわば 巨大な「バーチャル書庫」
のようなものだ。しかし、道路やホールのように目に見えるわけではないから、そこに ムダと非効率、
寡占・独占があっても批判されづらい。
国民の目が届かないところで、まるで 平成期に談合で槍玉に上がった建設業界とそっくりな、
「もたれ合い」の構造が温存されてきたのである。