『官邸の判断が鈍っている』マイナ保険証をめぐる官邸VS加藤・河野の舞台裏

                                            2023年8月6日      TBS NEWS DIG

   マイナンバーと健康保険証の一体化をめぐり、岸田総理は 記者会見で “来年秋の健康保険証の

廃止方針を当面維持する” と発表した。
内閣支持率に影響を与え、政権の浮沈に直結する と言われるほど、国民の関心が高まっていた

マイナ保険証の行方。
岸田総理が決断を下すまでに、政府・与党内で どのような綱引きがあったのか。舞台裏を取材した。

 

   8月4日夕方。マイナンバーの紐づけ誤りなど トラブルが相次いだことを受け、不安が広がって

いた『マイナカードと健康保険証の一体化』の方針について、岸田総理が記者会見を開いた。

  「 現行の健康保険証を廃止する際にも、マイナ保険証を保有していない方全員に資格確認書を

   発行し、有効期限やカードの形状も 現行の健康保険証を踏まえたものとするなど、きめ細かい

   対応を徹底する 」

 

   来年秋に予定する健康保険証の廃止については 当面延期せず、保険証に代わる「資格確認書」で

柔軟に対応すると表明した瞬間だった。

   しかし、記者会見が開かれるまでには、一時、官邸が 保険証の廃止期限延長に傾くなど、

紆余曲折があった。舞台裏を見ていた関係者は こう語る。

  『 官邸の判断が鈍っている。今回は 厚労省が勝った

内閣支持率に影響を与え、政権の浮沈に直結すると言われるほど、国民の関心が高まっていた

マイナ保険証の行方。
岸田総理が決断を下すまでに、どのような綱引きがあったのか。

 

■  『 マイナンバーの大臣会合が延期になった 』

岸田総理の記者会見が開かれる 4日前の7月31日。政府関係者から連絡が入った。
「 8月1日午後に 総理と関係大臣の会合がセットされました 」

近く 総理が マイナンバーについて国民に説明するとされているなか、関係大臣と会合するという

ことは、政府の方針が 最終調整に入ったことを意味する。ところが その連絡から数分後、再び

携帯電話が鳴る。
 「 と思ったら、延期になりました... 」

わずかな時間で 一転した総理と大臣の会合。異例の事態で、調整が難航しているのは明らかだった。

 

   ある自民党関係者は その理由をこう語る。

  『 官邸の木原官房副長官が 来年秋の保険証の廃止期限を延長する方向で、政府・与党内に根回し

   を始めていた。でも その方針に 加藤厚労大臣と河野デジタル大臣が断固反対したんですよ 』

 

■ 官邸が“保険証の廃止期限延長”に傾いたワケ

  総理側近の木原官房副長官が根回しに回るなど、総理官邸が 今の保険証の廃止延期に傾いた背景

には 『 このままでは世論が持たない 』という危機感があった。

マイナンバーをめぐる相次ぐトラブルで、報道各社の世論調査では 内閣支持率が軒並み低下。

JNNの世論調査でも 来年秋に保険証を廃止し、マイナンバーカードに一体化する政府の方針について

「延期すべき」「撤回すべき」という意見が合わせて 73%を占めた。

  ある政府関係者は、
『 岸田さんも木原さんも、世論を押し切ってまで、マイナ保険証にこだわる

のはコスパが悪いという雰囲気だった 』 と官邸の様子を語る。

  岸田総理も周囲に「 デジタル化やマイナンバーカードの普及は絶対にやる。ただ、手法については

考えなければいけない 」と語り、一体化の必要性は認めつつも、保険証廃止については 延期も視野に

入れていた。

  官邸が 保険証の廃止延期に傾くなか、異論を唱えたのが 加藤厚労大臣と河野デジタル大臣だ。

特に 強く反対した加藤大臣の心境を、関係者はこう解説する。

  『 厚労省からすれば、官邸主導で マイナ保険証を始め、ただでさえ巻き込まれ事故なのに

保険証の廃止延期をする となれば、また 国会で法改正をしないといけない。その時に 国会答弁で

矢面に立たされるのは、納得いかないでしょう

  河野デジタル大臣も『 厚労省、総務省と相談の上、総理の了解も得て決めたことだ 』と、

今の方針を維持すべきと繰り返し訴えた。

  実際に 保険証の廃止を延長するためには、今年6月に成立したばかりのマイナンバー関連法を

再び国会で改正する必要があるが、「 それだと 秋の臨時国会がマイナンバー国会になってしまう 」

(自民党幹部)との懸念は与党内にも広がっていた。

 

■ “ 世論を聞きすぎ ”の岸田総理に 麻生・茂木が進言「 資格確認書で対応できる 」

『 岸田さんは聞く力と言われるが、今回は完全に世論を“聞きすぎ”だ 』(自民党関係者)

  なかなか定まらない方針が固まったのは、総理が 会見を行う3日前、8月1日のことだった。

岸田総理が向かった先は、自民党本部4階の総裁室。 政権を中心で支える麻生副総裁、茂木幹事長の

2人と会合が行われた。
  関係者によると、2人は 総理に対し、『 保険証の廃止延長は 法改正があるから厳しい 』

『 資格確認書で良いじゃないか 』と助言したという。

会合を終え、自民党総裁室から出てきた岸田総理の顔は、決意が固まった、吹っ切れた表情に見えた。

 

■  デジタル化は進むのか 「マイナ登録は解除できる」の条件に デジ庁関係者「最悪だ」

   紆余曲折を経て、来年秋に いまの保険証を廃止し、マイナンバーカードと一本化する方針を

当面維持することを決断した岸田総理。 

「資格確認書」は、マイナ保険証を保有していない人に全員に交付し、有効期限を最長5年に延長

する意向を示した。

   今回の決着について、あるデジタル庁関係者は『 資格確認書を 今の保険証のように常用するのは

制度の予定するところではない。“変な併存”を許してしまう 』と、デジタル化の遅れを心配する。

  岸田総理は 会見で、2020年に自身が党の政調会長を務めていた際、デジタル化の遅れで、

新型コロナの支援金など、給付がスムーズに出来なかったエピソードを披露し『 デジタル敗戦を

二度と繰り返してはならない 』と力強く決意を示した。

  日本のデジタル化の遅れを取り戻すとの想いで 政策を進めてきたのならば、マイナンバーをめぐる

諸課題に対する国民の不安を完全に払拭し、その意義を 今後も丁寧に説明することが求められる。