中国にマイナンバーと年金情報が「大量流出」していた

…厚労省が隠蔽し続ける「不祥事」の全容

                                  2023.07.26    岩瀬達哉       週刊現代

 

隠蔽され続ける不祥事

 「改正マイナンバー法」が成立した 6月2日以降も、マイナンバーカードをめぐるトラブルが、

立て続けに公表されている。

健康保険証と一体化した「マイナ保険証」に 他人のマイナンバーが登録されていたり、マイナンバー

と紐づけた公金受取口座が、他人や家族名義だったケース。

さらには 他人の年金の記録が紐づけられ、個人情報が漏洩していたほか、別人の顔写真がカードに

貼られていたなど、惨憺たる状況だ。

 

   しかし 法案成立後に、それまで隠していたトラブルを 一気に公表するのは、霞が関でよく使われる

手法である。法律が成立したあととなれば、うるさく騒がれても 痛くもかゆくもない。じっと 頭を

下げていれば、やり過ごせるというわけだ。

   だが、このマイナンバーについて、今回以上に 深刻な不祥事が起きているにもかかわらず、

事の真相を 厚生労働省は 隠蔽し続けている。

 

   厚生年金の受給者のマイナンバーや個人情報 ― そこには年収情報さえ含まれる ― が大量に、

しかも中国のネット上に流出した事案である。

 

国会での虚偽答弁の連発

   私は、旧社会保険庁の杜撰な業務運営によって、5095万件もの 年金記録が持ち主不明となった

「年金記録問題」が発覚した2007年、社会保険庁を監視する「年金業務・社会保険庁監視等委員会」

の委員に任命された。

その後、社保庁を解体し、あらたに 日本年金機構を設立するにあたり、同設立委員会の委員に就任。

引き続き '21年12月まで 日本年金機構を「調査審議」する「社会保障審議会年金事業管理部会」の

委員をつとめてきた。

 

    日本年金機構が業務委託した事業者(SAY企画)から、厚生年金受給者のマイナンバーのほか、

住所、電話番号などの個人情報、さらには所得情報までが中国のネット上に流出したのは、私が

年金事業管理部会の委員在任中のことだ。

 この流出問題を調査する「検証作業班」が、同管理部会の中に設置された際、私も 4人の検証委員

のひとりとして調査にあたってきた。

 

「検証作業班」での調査は 約1年半におよび、その過程で判明したことは、機構と厚労省年金局が

国権の最高機関である国会で、虚偽答弁を繰り返していた という驚くべき事実だった。

   日本年金機構と年金局は、「虚構のストーリー」と「欺瞞の論理」で 国会を欺き、国民を騙し続けて

いたのである。その犯罪的行為を、事実をもって 集中連載で明らかにしていくことにする。

   ただし、委員時代に課せられていた国家公務員法の守秘義務規定は遵守していることを 予め

お断りしておく。

 

すべてのはじまりは、'17年12月31日の大晦日だった。

  この日、日本年金機構の「法令等違反通報窓口」に 2通のメールが届いた。

メールの中身は、まさかの…

   「 最近 中国のデータ入力業界では 大騒ぎになっております。

   『平成30年分 公的年金等の受給者の扶養親族等申告書』の大量の個人情報が 中国のネットで

    入力されています。普通の人でも自由に見られています。一画面に受給者氏名、生年月日、

    電話番号、個人番号(マイナンバー)、配偶者氏名、生年月日、個人番号、配偶者の年間所得の

    見積額等の情報が自由に見られます。

       誰が担当しているかはわかりませんが、国民の大事な個人情報を流出し、自由に見られても

    良いものでしょうか? ネットから ハードコピーを取りましたが、アップできませんでした。

    残念です。 対策が必要と思います。 宜しくお願い致します 」

 

  この23分後、通報者は「 念のため、(アップできなかった)ハードコピーの情報を送りいたします

(原文ママ )」と前書きしたのち、年金受給者の氏名、マイナンバーなど 15項目にわたる個人情報

を書き写した2通目のメールを送信している。

 

   ここで 通報者が言っている「 平成30年分 公的年金等の受給者の扶養親族等申告書 」というのは、

年金の受給者が 日本年金機構に提出した確定申告書類の一種である。

   '17年に大幅な税制改正があったため、日本年金機構では 翌年の厚生年金から所得税などを源泉徴収

する「税額計算プログラム」 を作り直す必要があった。そこで、厚生年金の受給者約3506万人のうち、

課税が免除されている障害年金や遺族年金などの受給者を除いた約770万人に プログラムの作成に

欠かせない「扶養親族等申告書」を送付し、指定のとおり記入したうえ返送するよう求めていた。

   返送された「申告書」は、機構が 業務委託契約を結んだ SAY企画が プログラムへの入力を行う

はずだった。ところが その業務を、中国のデータ処理会社に再委託していたのである(再委託の

件数は、約501万件とされる)。

SAY企画による中国への再委託発覚後、一連の処理に従事していた機構の梅林芳生・給付業務調整室長

は、わたしに言った。

  「 1月4日の仕事はじめの日に、このメールのことを知って、たいへんな事態だというので すぐに

   動き出した 」

そう、「通報メール」に記載されていたのは、すべて実在する年金受給者の正しい個人情報であった。

 

特別監査の実施と事件の露呈

   それを確認するや、このメールを印刷したペーパーには「取扱厳重注意」と「配付者限り」の

スタンプが押され、日本年金機構の水島藤一郎理事長に報告されている。

その後の水島理事長と年金局の動きは、メールの隠蔽と都合のよい説明を作りだすための工作に

費やされている。順を追って見ていくことにしよう。

 

   '18年1月5日に水島理事長は、年金局と今後の対応策を協議。 翌6日の土曜日には、抜き打ちで

SAY企画への特別監査を実施した。

この時、SAY企画の切田精一社長は、契約に違反して 中国大連市のデータ処理会社(大連信興信息

技術有限公司)に「申告書」の入力作業を再委託していたと、あっさり認めている。

「申告書」の入力業務は 個人情報を取り扱うため、機構では再委託を禁止している。にもかかわらず

無断で、しかも よりによって 中国への再委託を行っていたことに、水島理事長と年金局の幹部たちは

震え上がったはずである。

 特別監査から4日後の1月10日には、「 機構の情報セキュリティー対策 」を担当している日本IBM

に依頼し、SAY企画への さらなる立ち入り調査を実施。作業室やサーバー室などのシステム面を

調べあげたのち、駆け足ながら 2泊3日で 中国の再委託先をも訪問させていた。

 

   大晦日の「通報メール」から約3ヵ月後の、'18年3月20日、機構は 謝罪会見を開き、SAY企画が

「申告書」を 中国に再委託するという不正を働いていたと公表した。

この謝罪内容を、政党機関紙の「しんぶん赤旗」が 前日の19日にスクープし、NHKと共同通信も

示し合わせたかのように報じたため、20日の朝から 国会は混乱した。

 

  「申告書」が 中国に再委託されていたことを知って、年金受給者の個人情報が流出したのでは

ないかと心配する国会議員の質問があいついだからだ。

 

なぜ氏名だけを切り出したのか

   約10日間にわたった衆参両院での集中審議で、水島理事長は 終始 落ち着いた調子で答えている。

  「 中国の業者の監査を IBMとともに行っております。その結果でございますが、委託をしており

   ました内容は、いわゆる 切り出しました氏名の入力でございました。加えまして、調査を

   いたしました結果、個人情報等の流出のおそれはない というふうに判断しております 」

                                                                                 (参議院予算委員会・3月20日)

  厚労大臣官房の高橋俊之年金管理審議官も こう断言した。

  「 SAY企画は、入力業務の再委託を行っておりました。しかし 委託した業務の中には、マイナンバー

 でございますとか 住所でございますとか、さまざまな所得額でございますとか、そういうものは

   一切含んでいないものでございます 」(衆議院総務委員会・3月22日)

 

   彼らが この日までに練り上げていたシナリオは、SAY企画が 中国に再委託していたのは「申告書」

そのものではなく、そこから切り出した「氏名とフリガナ」だけであり、年金受給者の個人情報も

マイナンバーも流出していないというものだった。

 

  では なぜ、氏名だけを切り出したのか。

この質問を待っていた水島理事長は、滔々と述べている。

 「 SAY企画に確認をいたしましたところ、氏名の入力については、OCR(光学式文字読み取り装置)

  の読み取り精度が低いことから、これを補完するため 再委託を実施したということであります。

  そのため、入力作業に必要となる申告書の漢字氏名 及び仮名氏名部分を、トリミングと言って

  おりますが、切り取った画像を 再委託事業者に提供していたということでございます 」

                                                                                  (衆議院厚生労働委員会・3月28日)

 

 「申告書」は 先にも触れたように、「税額計算プログラム」を作成するための基礎資料である。

契約では、SAY企画が雇用したオペレーターが、記載された個人情報やマイナンバーを手打ちで

入力し、プログラム化することになっていた。

ところが SAY企画は、オペレーターではなく、OCRを使って記載内容を読み取らせ、プログラム

に流し込んでいた。

   ただ、「氏名とフリガナ」だけが OCRで正確に読み取れなかったので、この部分だけを切り取って、

中国に送り、向こうで 入力させていたというのが、水島理事長の説明だ。

これが事実なら、個人情報は流出していないことになる。

 

   しかし 水島理事長の、この国会答弁は完全な虚偽である。なぜ筆者は、この答弁が完全な虚偽だ

と断言できるのか。その真相は、 

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