飛騨高山に誕生した電子地域通貨「さるぼぼコイン」

     ――  アイリッジにその狙いを聞く 

                   2018年 1月15日

          https://japan.cnet.com/article/35113151/

 

  アイリッジは、同社が開発した電子地域通貨プラットフォーム「MoneyEasy」を活用して、

飛騨信用組合と共同で岐阜県の飛騨高山地域における地域住民を対象とした電子通貨

さるぼぼコイン」の商用サービスを2017年12月4日から開始した。

 両者は、2017年5月から8月まで 主に地元自治体の職員を対象に電子通貨の有用性を

検証する実証実験を展開してきたが、今回の本格稼働では 地域住民や観光客へのサービス

提供を開始する。電子通貨を利用できる加盟店は 約100からスタート。ユーザーは、店舗

に設置されたQRコードを 専用のスマートフォンアプリで読み取り、アプリ上で商品代金を

決済し支払いを完了できるほか、加盟店は 顧客から受け取ったコインを仕入れの決済など

に使用することもできるという。ちなみに 「さるぼぼ」とは 飛騨高山の言葉で「さるの赤ちゃん」

という意味で、地域の守り神として慕われている。

 

  今回、アイリッジは どのような狙いで電子地域通貨の事業に乗り出したのか。FinTech

事業推進チームチームリーダーの川田修平氏に話を聞いた。

 

  ―― なぜ、飛騨高山という地域を選んだのでしょうか。

川田氏: アイリッジとしては これまで O2Oのソリューション開発に取り組んできたのですが、

  その中で 「せっかくスマホを活用して 顧客を来店させているのだから、決済手段まで

  提供できないのか」という思いは かねてから考えていました。さまざまな試行錯誤をして

  きたのですが、その中で バスの運賃決済が スマホでできる「バスペイ」というサービスが

  2016年の夏に 徳島県と埼玉県のバス会社で実用化できたのです。

   大規模な会社であれば 便利な決済手段に 大きな投資コストが発生しても、ペイできる

  のかもしれませんが、地方の小規模な会社などでは 設備投資のコストは大きな負担に

  なります。そのサービスは 乗車するバスのチケットをスマホで購入して運転手に提示する

  という仕組みで、決済システムの導入コストが 大きく抑えられるというのが特長でした。

   こうして スマホ決済サービスが ひとつ実現したことで 今後の展開を考えている中で、

  一方で 飛騨信用組合も 地域電子通貨の導入を模索しており、双方の方向性が一致した

  ことで 2016年の11月に本格的にプロジェクトがスタートしました。

 

 ―― サービスローンチまでに苦労した点はどこでしょうか。

川田氏: ひとつは 当局の登録認可を取るところですね。本当は 2017年11月に正式稼働

  する予定だったのですが、認可取得の関係で 1カ月遅れる結果になりました。認可取得

  は 飛騨信用組合さんが担当したのですが、お金を扱うことなので システムの監査、

  リスクマネジメント や運用方法の確認など時間をかけて厳格にチェックしていただきました。

                          資金決済に関する法律(平成二十一年六月二十四日法律第五十九号)

   もうひとつの点は、スマホユーザーを対象にしたサービスであるという点をどのように

  意識付けしていくかという点で苦労しました。例えば、スマートフォンを持っていない人は

  どうするのかという疑問に代替手段を用意すると、軽いシステムで簡単に決済手段を

  提供するという本来の趣旨から外れていってしまいますよね。そうしたサービスの方向性

  を決めていく意思決定の中で、スマホに特化したサービスに割り切って考えていく点に

  苦労することが多かったですね。結果的に、システム は非常に軽いものになり使いやすい

  サービスができたのではないかと思います。

 

 ―― 12月4日のサービス開始後の反響はいかがでしょうか。

川田氏:サービス 開始から まだ日が経っていませんが、すでに 総額で数千万円分のチャージ

  をしていただいており、早速 多くの取引が生まれています。サービスの初動としては

  当初の想定以上ですね。加盟店数も スタート時には 手続きの関係で約100店舗ですが、

  すでに それを上回る申込みを頂いておりますので、2017年中には 200店舗、今年度中

  には 500店舗に増加する予定です。

 

 ―― 決済手数料は どのように設定しているのでしょうか。

川田氏:加盟店での決済手数料は 1.5%、加盟店が仕入れ代金などを支払う送金の手数料

  は 0.5%に設定しています。クレジットカードの場合、小規模店舗が決済端末の導入など

  を行うと決済端末の費用に加えて、5%~8%程度の決済手数料が掛かる場合があります

  、さるぼぼコインは少ない手数料で サービスを導入できる点が特長です。

   また、クレジットカードでは決済された代金が 実際 店舗に入金されるまではタイムラグ

  が発生しますが、さるぼぼコインは 決済で得られたコインを好きなタイミングで現金化

  したり支払いに充てたりすることが可能です。ただ、さるぼぼコインの狙いはコインの流通

  を活性化することですので、コイン送金の手数料を低く設定することで利用を促進する

  工夫をしています。                    

               クレジットカード - Wikipedia  :商品を購入する際の後払い決済(支払)する手段の一つ

 

 ―― サービスによってどのようなデータが得られ、どのような活用の可能性があるので

  しょうか。

川田氏:アプリの初期登録時に ユーザーから取得するアンケートから年齢や性別といった

  プロファイル情報が得られるほか、いつどこで決済したのか という利用履歴のデータも

  取得できます。2018年春には飛騨信用組合の口座情報とも紐付けますので、ユーザー

  の資産状況とも関連付けた利用状況の分析などができるようになる見込みです。個人

  のプライバシーや機密情報は保護しながら、属性ごとの消費動向の分析などができると

  考えています。具体的な分析方法はこれから検討していく予定です。

 

 ―― このサービスは観光客も対象になると思いますが、外国人観光客、とりわけスマホ

  支払いに馴染みのある中国人観光客への対応はどのように考えていますか。

川田氏:中国人観光客への対応は 次のフェイズで考えることではないかと思います。確かに

  QRコードでの決済には慣れていますが、1日~2日の短期間の滞在で 新たに さるぼぼ

  コインのスマホアプリをダウンロードして使用するかは まだ未知数といえるでしょう。

  一方、欧米の観光客は 1週間くらいの長期滞在する傾向がありますね。中国人向けには、

  WeChat Payなどとの共通QRコードの展開などが考えられるのではないでしょうか。

 

 ―― サービスの認知拡大に向けて、今後どのような マーケティング をしていくのでしょうか。

川田氏: (アイリッジのオフィスのある)東京から遠隔で ネットマーケティングを行うというのは

  無理がありますが、地元企業や地元生活者との強いパイプを持つ飛騨信用組合と共同

  で行っているという強みがありますので、そのタッチポイントを活かしたサービスの紹介

  やキャンペーンなどを展開しながら盛り上げていこうと考えています。

   東京から私たちのような ベンチャー企業が 単独で サービスを実装して拡大しようとしたら、

  なかなかすぐに地元の信頼を獲得するのは難しいですが、そこで地元金融機関と共同

  でサービスを展開する利点が活かせるのではないかと思います。

 

 ―― 今後の展開について教えてください。

川田氏: 2018年春に向けて、インターネットバンキングからのコインチャージへの対応や、

  専用のチャージ機の設置など、コインをチャージしやすくするサービスの拡充を進めて

  いく予定です。また、個人間でのコイン送金への対応も視野に入れてサービスを開発

  していきたいと考えています。

   当面のブレイクスルーとしては、飛騨信用組合のビジネス圏である飛騨市、高山市、

  白川村という 2市1村の人口約12万人のうち、さるぼぼコインのサービス利用可能者

  として想定している約8万人の中で2割から3割のカバーを目指し、アカウント数では

  2万アカウント程度を目標にしていきたいですね。

   使う場所が限られる地域限定通貨をメリットとみるかデメリットとみるかは人によって

  判断が異なると思いますが、私たちとしてはメリットとして見てみるのもおもしろいのでは

  ないかと考えています。使う場所が限られていれば、その使える範囲で色々な店舗を

  探すようになりますよね。これは地域の経済循環の活性化に繋がることなのではないか

  と思うのです。

   なお、このスキームに関しては飛騨高山地域だけでなく他の地域でも展開していく予定

  です。地域金融機関は地域経済の活性化や地元企業との関係強化にさまざまな課題

  意識を持っていますので、その解決策のひとつとして私たちの電子地域通貨を活用して

  いただければと考えています。加えて、アイリッジとしてはこの電子地域通貨を軸にして

  スマホ向けO2Oソリューション の展開を加速させたり、また自治体と協業して「ボランティアポイント」

  や「健康マイレージ」といったポイントプログラムと電子地域通貨とを連携した取り組みなど

  の可能性も模索していきながら、ビジネスを拡大していきたいですね。

 

飛騨信用組合の「さるぼぼコイン」サイト
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