の続き
「何かの間違いじゃないですか!!」
私、新米編集者のヒラクは
パリのホテルにチェックインするなり、
東京の『流行通信』編集部に
国際電話をかけ、
電話に出た先輩エディターに
こうたたみかけました。
「だって、このホテル、
シャンゼリゼ通りから
一本入ったところの五つ星なんですよ!
しかも70㎡のツイン。
いったい一泊いくらするんだか。
私、こんなところに泊まって
いいんでしょうか!?」
パリのシャンゼリゼといえば、
東京の銀座のようなもの。
ふだん、経費をきゅうきゅうに
締め付けられている身には
ちょっと信じられないくらい
リュクスなホテルです。
これは『流行通信』の親会社だった
ハナエモリのパリオフィスの取りはからい。
このころ、ハナエモリは
オートクチュール協会の一員で、
フランスの名だたる一流ブランドと並び、
アヴェニュー・モンテーニュに
メゾン(本店+事務所)を構えていたのです。
じつは、私が泊まった五つ星ホテルは
そのメゾンから歩ける距離。
ハナエモリの日本のスタッフが
パリ出張の際に
常宿にしていたホテルでした。
『流行通信』のエディターも
パリ出張の際は、このパリオフィスに
ごあいさつにうかがう習わしとのこと。
私もさっそく出向くことに。
でも、オートクチュールのメゾンに
刈り上げはふさわしくないような気がして。
持参していたロングヘアの
ウィッグをかぶって行きました。
そんなもの持って来てたんですよ。
なんと用意がいいこと。
「あら、素敵な方ね。どちらの方?」
そう、声をかけて下さったのは、
初めてお目にかかった、森英恵先生。
ウィッグが功を奏して、
目に留めていただけたようです。
「は、素敵な方って…。(汗)
ていうか、私もいちおう
先生の会社の社員なんですけど~」
と、口に出しては
言えませんでしたけどね。
さすがに緊張してましたので。
写真は、撮影当日の朝。
私のホテルの部屋で。
朝食を取りながら
ミーティングをするスタッフたち。
モッズ・ヘアの田村さん以外は
全員、外国人です。
思えば、外国人スタッフとの撮影も
この時が初めてでした。
これだけ人数がいると、
部屋が広くて助かりました。
ほっと安堵のヒラクちゃん。
田村さんにも、
「なに~、この広い部屋。ヒラク、
『VOGUE』の編集者みたいじゃない」
と言われて、まんざらでもない表情です。
あ、この時期、日本版『VOGUE』は
まだありませんから、
ヨーロッパやアメリカの
『VOGUE』のことですね。
田村さんのストライプのシャツは
コム・デ・ギャルソン。
私のコーデュロイのブルゾンは
VIVA YOU ! のもの。
今まで、頑張ってきて良かったね、
ヒラクちゃん!
へ続く。