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第1話からご覧頂きましたら幸いです💖







Les roses que nous rencontrons

巡り逢う薔薇たち

番外編② 



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2024年

12月25日。

グランディエ家にとっては、とても特別な日。

ノエルの日であり、

2024年だが、

オスカルが34歳になる、大切な大切な日。

フランス革命から計算すると、235年後なので、
269歳になる、とアンドレが冗談で言ったら、

見事に怒られた。




で。気を取り直し。

オスカルは、
教会でミサをするくらいでいい。
派手な事はしなくていい。

と、アンドレにずっと言っていたのだが、

25日、当日。



アンドレが
先月からしつらえていた、ノエルの飾りのLEDライトの点灯式をオスカルに頼んだ。

訳も判らず受け取ったスイッチを押す、オスカル。


18世紀に生まれたオスカルには、夜中に煌々と輝く明かりに中々慣れず、

スイッチを押した途端、





ノエルのツリーに、点滅する輝きに驚いた。

そして、
「なんて…美しいんだ…」
と、スイッチを持ったまま、明かり1つ1つを、見つめて、嬉しそうに微笑む。

「どう?驚いた?」

「黙ってたな、アンドレ。…でも…キレイだ…」

「良かった。今の時代はね、これが当たり前なんだ。ほら、窓から見えるパリの夜景もキラキラしてキレイだろう?」

「ああ。ここから見える21世紀のパリの夜景は、世界一美しいと思った。…エッフェル塔にはビックリしたけど」

オスカルがアンドレにスイッチを渡した時。

ピンポーン!
と、玄関のチャイムが鳴った。

「あ、きたきた」

「だれ?誰かくるのか?」

「せっかくだから、親しい友人だけ集まって、オスカルの誕生日と、ノエルを祝おうと思ったんだ」
「ええ!?」

アンドレは、玄関口のカメラを覗くと
「今から鍵を開けるから、エレベーターで4階に来てくれないか?」
と言う。

オスカルには、料理人が豪華な料理を並べたテーブルの一番奥に座って貰った。
「アンドレ……友人って…」
「来たら判るよ」


そうこうしているうちに。

4階のお客様をもてなす大広間のドアが開き、
その顔ぶれにオスカルは驚いた。


「ロザリー!ベルナール!……ア…アランも?」


名前を呼ばれたロザリーは、アランが勤務する病院の薬剤師。ベルナールは今生も新聞記者だった。

「初めまして。オスカル様。お誕生日おめでとうございます!アンドレ様から私の事をお聞きになられてたのでしょうか?嬉しいです。
ロザリー・シャトレです。この人は、私の旦那様のベルナール・シャトレ」
ベルナールも、柔らかな笑みで
初めまして、と挨拶を交わした。


「俺もいるぜ。この前、女にフラれたからよ、独りノエルはつまんねーから、オスカルさんの誕生日って聞いたんで、来ちゃいましたぜ」

オスカルは隣のアンドレを見上げた。
アンドレは彼女に耳打ちする。

(ロザリーと、ベルナールには前世の記憶がないんだ。でも、この時代にちゃんと生まれ変わっているんだ)
「そうだったのか…」

オスカルは、ロザリーたちに近づき
「初めまして。私はオスカル・フランソワ・グランディエ。アンドレの妻です。今日はお越し下さってありがとうございます。ささやかですが、料理を楽しんでください」


ノエルの、そして、

オスカルの誕生日パーティーが始まった。


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パーティーが終わったのは深夜1時を回っていた。


「遅くなってしまったな。でも…ありがたかったな、アンドレ」
既に寝台に連れて来られて、ベッドに入っているオスカルは、片付けをしているアンドレに告げる。

「前世を覚えていなくても、あの人たちは、永遠の仲間だと、俺は思うんだ」
「ああ…本当にそうだな。楽しかった。アンドレ」





ロザリーや、ベルナールからは、
今、フランスでは定番だと言う赤ちゃん(bebe)用の人形。
ドゥードゥーが、5つ詰められた可愛いプレゼントを頂いた。
初めてみるドゥードゥー人形に、
オスカルは心が和んだ。
この人形で、生まれた子供が遊ぶ光景を思い浮かべてみる。




アランからは、かなり大きめのベビーベッドを頂いた。
パーティーが始まる頃に、配送業者が届けて来た。

少し揺れる、ゆりかごタイプのベビーベッド。

真っ白を基調にし、所々にお菓子の絵が描かれた可愛らしいベッド。

オスカルは嬉しそうに3人にお礼を述べた。




「オスカル」

トレイを持って寝室に入ってきたアンドレ。

手には、カモミールティーがティーカップに入って湯気がゆらゆら上がっている。

「疲れただろう?リラックスできるから、これを飲んで寝よう。俺は明日から年末年始休みを取るからさ、料理を作るよ」
「アンドレの手料理か…。18世紀なら、中々食べる機会がなかったから、楽しみだ」

「うん…それと……。俺からの誕生日プレゼント」
そう言って、小さめのベルベットのケースをオスカルに渡した。
「…いいのか?……色々して貰ったのに…。ここまでしてくれて」
「もちろん!中を開けてみて」


紫のベルベットのケースを開けると

プラチナのネックレスに、小さなリングが3つ付いていた。
2つだけ、小粒のダイヤモンドが付いている。





「…ありがとう!アンドレ。……でも、この小さ過ぎるリングは?」
と、口にしてから
オスカルは「あっ!!」と、言ってしまった。

アンドレはにこにこしながら、
「わかった?」

オスカルは首を縦に振ると
「小さなリングは……bebeの…?でも3つって…?」
しゃらん…とリング同士が重なり、可愛い音を立てる。

アンドレはオスカルが横になっているキングサイズの寝台に身体を入れた。

「これはね…1つはbebeのもの。1つは俺のもので、ネックレスはもう1つあるんだ。そして、ダイヤモンドの付いたリングは……オスカルと、bebeが身につける、bebeとの絆のリングネックレスになるんだよ」

「今の時代…こんなに絆を強く思わせる素晴らしいものがあるのだな……。とっても嬉しい…アンドレ」

3つ並んだリングネックレスを首につけて欲しい、と、オスカルは夫にお願いした。

アンドレがそれをする為にネックレスを受けとると、オスカルは長くなったプラチナブロンドの柔らかな巻き毛を白い手でかきあげる。

細く白い首筋が現れ、
アンドレは、ネックレスをつけてあげた。
そして、ベッドサイドのテーブル上のお手入れセットを入れている箱から、鏡を出して、
オスカルに見せた。



「よく……似合うよ。綺麗だ…オスカル」

「我ながら…本当だ。アンドレ…」

「あはは!…俺が惚れるの、判るだろう?」

その問いに、ふふっと笑うと、

あ、と思い出したのか
「昔、ばあやや、母上が歌っていた子守唄を思い出した」

そう言って、リングに触れながら、オスカルは夫と横になり、アンドレの胸の上で、小さな優しい声で歌った。




Au clair de la lune,
Mon ami Pierrot,
Prête-moi ta plume
Pour écrire un mot.
Ma chandelle est
morte,
Je n'ai plus de
feu ;
Ouvre-moi ta
porte,
Pour l'amour de Dieu.

Au clair de la lune,
Pierrot répondit : « Je n'ai pas de plume,
Je suis dans mon lit.
Va chez la voisine, Je crois qu'elle y est,
Car dans sa cuisine On bat le briquet. »
Au clair de la lune,
L'aimable Lubin Frappe chez la brune,
Elle répond soudain :
–Qui frappe de la sorte ?
Il dit à son tour : –Ouvrez votre porte
Pour le Dieu d'Amour!
Au clair de la lune,
On n'y voit qu'un peu. On chercha la plume,
On chercha le feu.
En cherchant d'la sorte,
Je n'sais c'qu'on trouva ;
Mais je sais qu'la porte
Sur eux se ferma. ♪



月の光に、 わが友ピエロ
君のペンを貸しておくれ
一言書きとめるために。

私のろうそくは消えている
私にはもう火がない。
扉を開けておくれ
どうか後生だから。

月の光に、 ピエロは答えた。

「私はペンを持っていない、
私はベッドの中にいる。 隣の家へ行きたまえ、 彼女がそこにいるに違いない、 なぜなら台所で 誰かが火打石を打っているから」

月の光に、 優しいリュバンは 栗色の髪をした女性の家(の戸)を叩く。
彼女はすぐに応じる。

「そんな風に戸を叩くのはどなた?」

そこで彼はこう告げる。

「扉を開けて下さい、 どうか後生ですから!」

月の光に、 二人はほんのわずかしか見えない。

二人はペンを探した

二人は火を探した

そんな風にいろいろ探して、 何を見つけたのやら私は知らぬ。

でも私は知っている

扉は 彼らの方に向けて閉まったのだから… ♪



(18世紀 フランスで歌われていた 実際の子守唄
タイトル 月の光りに)



歌い終わると、アンドレの腕の中で

瞳を閉じ、スースーと寝息を立て始めた妻。

暫くその光景を優しく見つめた後

アンドレは幸せな顔で、オスカルの柔らかな唇に、
チュッと音を立ててキスをし、


「おやすみ。オスカル」

そう囁いて、自らも瞳を閉じると、


静かな眠りについていった。




















Les roses que nous rencontrons~
巡り逢う薔薇たち

番外編②


③に続く


(また、終わらなかった…)