Les roses que nous rencontrons


 ~巡り逢う薔薇たち~(仮題)①




 2024年6月13日書き下ろし作品です。



 連載になるかもです。







 🟣If...もしも…。🟣オスカルがあの日、死ぬ事なく現代にタイムスリップしたら。 


 生まれ変わっていたアンドレと再会したら…?


 とある方の言葉をヒントに物語をかいて見ました。 



 何話か連載になりそうです。



 2024年6月13日第1話目 書き下ろし 





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 1789年。



 7月14日。 





 バスティーユ牢獄での民衆と、バスティーユ牢獄から民衆を狙い打ちしていたド・ローネ侯たちとの攻防戦は激しく続いていた。



 大砲。


 銃器。 


硝煙のむせる臭い。


 叫び声と、悲鳴。



 血まみれで倒れる人々。 



 その先頭に立ち、黄金の髪をなびかせ通る声で指揮をしていた元貴族の女伯爵。

 その。黄金の髪の軍人に向けて、バスティーユ牢獄側の兵士が言った。 







 「指揮官を狙え!あの指揮官を殺せば、どうせ雑魚の集まりだ!直ぐに崩れるぞ!」



 兵士達の銃は、一斉にその軍人に向けられた。 



ズガーン!!



硝煙の煙が舞い上がる。






 次第に白い、または黒い煙が薄らぐと…。




 「……隊長…?………オスカル隊長!?」



 部下のアランが叫ぶ。 




 オスカル隊長と呼ばれた軍人の姿は……






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 2024年 7月。 



 セーヌ川の傍にある、美しいアパルトマンの前で、彼は新たにそのアパルトマンの住民になる夫婦に、鍵を渡した。




 「でも、本当に素敵な見晴らしね。セーヌ川が目の前にあるなんて。よくこんな素晴らしい空き部屋を見つけて下さったわ。本当にありがとう」 




新しい住民のマダムが彼に礼を言う。



 スーツ姿の男は、物腰柔らかく、優しく微笑み「良い物件をご紹介出来て光栄です。また何かあれば、携帯にご連絡ください」


 軽く会釈をすると、車に向かった。










  と、その時。 




どこからか、何か叫ぶ声が聞こえた。



 男は騒いでいる方を振り返り、車に乗るのをやめた。 



 「おい!セーヌ川を見ろ!小舟に人が倒れて乗ってるぞ!」 


「誰か救急車を呼んでやれ!舟で倒れてるヤツ、ピクリとも動いてないぞ!?」



 「し、死んでるのか!?」



 男はセーヌ川を見下ろした。


 確かに。小さな小舟に、ぐったりと人が倒れたまま流されている。



 全く身動きもしない、見慣れぬ青い服に、

黄金の髪が絡み付き、うつぶせで倒れているその小舟の中でブロンドの髪が風に揺れながら、輝いていた。




 男は、どうしてか、その美しい黄金の髪にうっすらと懐かしさを感じた。 





 何故だ? 




 救急車に任せてもいいけど……そう思った途端。






 彼の長い足が、セーヌ川のほとりに降り、 


スーツのジャケットと靴を脱いで飛び込んだ。





 「あ!おい!あんなバカな事をするヤツがあるか!?もうすぐ救急車が来るのに」 




 彼が川下に流されゆく小舟まで泳ぎ、倒れている人を触る。 



 「おい!君!大丈夫か?」 



川の水に濡れた男が、小舟で意識を無くしている人に声をかける。 



 返答はないが、うつ伏せた顔は少し青い。が、息はあった。 


安心した男は、 


 「大丈夫だ!!生きてる!!」 

と、護岸の回りにいた人達に叫び、舟に絡まる麻縄を掴み、ゆっくり岸まで移動させた。 


 小舟が護岸に着くと、濡れた服のまま、黄金の髪の人を抱き上げた。 




 その時。 


初めて、小舟で倒れていた人の姿、顔をみた。




 「女…?…軍服…?」 



 いったいどういう…? 


しかも。現代の軍服ではない。 


 ルーブル美術館で見たような古いデザインの貴族の軍服だ。 


 仮装パーティーの罰ゲームで流されたのだろうか? 

 いや。違う。 



女の額と頭から少し血が滲んでいた。 



 女の頬を少し叩いてみたが、意識はない。



 「呼吸…大丈夫だ。呼吸はしてる」


 その時、サイレンと共に救急車が来た。





 救急隊員が降りてくると、彼は言った。


 「HOPITAL ST. LOUISに行ってくれないか?友人がそこで外科医をしている。有能な外科医だ。救急車の中で友人に連絡を取るよ。あ、この人は女性だ」


 「失礼ですが、あなたは?」 


 「この女性の知人だ。ただ、1度会っただけで、名前までは知らないんだ」 



つい、そう言ってしまった。 

 そう。 

 この美しい女性…。 


どこかで見覚えがあるような、懐かしさを感じたからだ。 


 「あなたの知人、ですね。判りました。で、失礼ですが貴方のお名前は?」 



「ああ、失礼。僕はアンドレ・グランディエ。グランディエ不動産の社長です」 



 グランディエ不動産。パリでは、有名な不動産だったので、 


「それは失礼致しました。では、一緒に救急車に乗って下さい。すぐにでもHOPITAL ST. LOUISに、向かいます」



 アンドレと名乗った彼は、ストレッチャーに乗せられた軍服を着た女性が救急車に入れられたあと、すぐ続いて救急車に乗り、 HOPITAL ST. LOUISの外科医の友人に電話を掛けた。



 その後、車は社員に取りに来て欲しいと会社にも電話をした。 








 「外傷はそんなに酷くはないな」


 MRIの結果を見ながらアンドレの友人の医師は言った。 


「そうか…良かった…」


 頭に包帯を巻き、ベッドに横たわる女性。




 服は薄いブルーの入院服に着替えさせられていた。 

 閉じた瞼が時折、小さく震える。



 少し熱もあるのか、首筋に何筋か汗が流れていた。 


 アンドレは、そのベッドサイドに腰掛け、彼女の顔を静かに見ながら、その汗を優しく拭く。




 「おい、アンドレ」 


 「ん?」 


 「この人…火薬臭い軍服を着てたけど、いったい何なんだ?」 



 それは、こっちが聞きたいよ。と、アンドレは心の中で呟いた。 


 「芝居の練習をしているって言ってたなあ」

 咄嗟にアンドレは嘘を口にした。 


 「ふーん。そうか…。あと、彼女は身分証みたいなものは一切持ってなかったが…アンドレ、お前、取り敢えず、彼女の身元保証人になれるか?」 




 「わかった、身元保証人。なるよ。アラン。ありがとう」 



 不動産事業をしていると、


身元保証人が必要な場合がたまにある。 


それは慣れてるから大丈夫。


 他にも。別の理由があった。 




 心の奥底の中で、(彼女を遠くに手放してはいけない) 


 何故かその思いが、まるで湖面に上がる泡のように、いくつもいくつも言葉がリフレインする。 




 個室専用の白いベッドの上で彼女の寝息が聞こえる。


 ほっそりてした白い腕には、点滴の管がついている。 


 アンドレはぼんやりと彼女の寝顔を眺めていた。 




 「まるで、恋人の目覚めを待ってるみたいだな、アンドレ」 


 「……そうか?」


 「ああ。じゃあ俺は仕事が終わるから帰るわ。お前さんはどうする?」 


 「もう少しここに居るよ。夜勤の人に一声伝えてくれるか?」 



 「了解。もし、何かあったらコールしてくれよ。点滴も終わったら夜勤に知らせてくれ」



 「わかった。ありがとう、アラン」 


 アランと呼ばれた外科医は、背中で手を振って、部屋を出た。 



 アンドレは、また目を彼女に向けた。 



 彼女の長い睫毛が少し震えている。


 目尻に一筋、美しい滴が流れた。 


 夢……でも見てるのか……?ベッドの中で、点滴をされていない右手が掛け布から現れた。 



 真珠のようなしっとりとした白い肌。 


 細い指先。そんな女性が、中世の軍服を着ていたのは何故だ? 


 疑問が疑問を呼ぶ。 




 その時。 

 彼女の手が無意識に、何かを探す仕草をしている。


 アンドレは椅子を座り直し、白い手を握った。


 冷たい。 


 美しい手は、冷たかった。


 アンドレは、温めなくては……と無意識に思い、その白い手を握り締めた。


 (何故だろう……。この人と、こんな事をしたような記憶があるような…気がする……) 


 初めて今日逢い、何故か小舟で流されていた彼女を助け… 



 今日、初めて会ったのに…… 



 彼女は僅かに瞼を震わせながら眠る。






 冷たかった白い手は、 




 次第に彼の掌で温められ、




爪も桜貝のような色になっていった。 


























 続く