前回のお話


Les roses que nous rencontrons~


 巡り逢う薔薇たち⑤ 


 🟣If...もしも…。


🟣

オスカルがあの日、死ぬ事なく

現代にタイムスリップしたら。 


 生まれ変わっていたアンドレと再会したら…?




 とある方の言葉をヒントに 

 物語を書いてみました。

 何話か連載になりそうです。



 2024年6月24日

 第5話目 

書き下ろし 



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 2024年 


 8月16日。


 アンドレとオスカルは、

彼の休日を利用し、

アランが調べてくれたアラス地方へと車で向かった。


 車でだいたい2時間はかからない。

 真っ赤な、シトロエンでアラスへと車を走らせる。



 「私は馬でしか行った事がない。そんなに簡単に行ける世の中になったのだな」 
と、助手席で外の風景ばかり眺めていた。 

 「オスカル、どう?昔とは違う?景色」

 アンドレは安全運転で走りながら彼女に聞いた。

 「変わった。街から街の間には、森や草原しかなかったから。今もその景色は残っている所もあるが、馬や馬車が走ってないのが不思議だ」

 「そうか…。馬車はもう、80年以上前には使わなくなったかな…。俺の祖母の時代位まで走ってたと思うよ」 

 オスカルは、彼の祖母、と聞いて
この名前も
もしかして同じなのかも、と
アンドレにおもむろに聞いてみた。 

 「アンドレ、お前の祖母の名は、マロン・グラッセというのか?」

 「え…!?……そうだけど…え!?それも同じなのか?もしかして」 

 オスカルはアンドレを笑いながら見つめ 
「私の乳母だったんだ」
と告げた。
 「そして、私が7歳の時、ばあやはアンドレを南プロヴァンスから屋敷に連れてきたんだ。両親を亡くして、身寄りがばあやしかいないという話だった……。アンドレ。お前のばあや…いや、祖母はどうしている?」


 アンドレは少し黙っていたが、
重く口を開いた。 
 「おばあちゃんは、4年前に亡くなったんだ。両親も早くに亡くした。みんな故居の南プロヴァンスに眠ってるよ」 

 「……え……。そ…う、なの……か……?」

 「そう。一生懸命、俺が大学を卒業するまで働いて支援してくれたんだ。大学院を卒業した時に…不思議な事を言われた」



 もうすぐ、休憩地点のロワ、という街に着く
と、ナビが知らせた。

 「アンドレ。ロワで花束を買ってもいいか?お墓に手向けたい」

 「了解!ランチタイムにもなるし、軽く食べようか」
 オスカルは1つ頷いた。


 ロワはアラスに向かう手前にある街。


 観光客が多いのか、可愛い雑貨屋も結構ある。

 そんな景色を2人で少し歩き、小さなレストランに着いた。

 オスカルの席の隣には、ジャルジェ家一族用の花束、夫のアンドレ用の花束、そして、空墓になっている自分の墓用の花束も買っていた。

 アンドレが不思議がると、
 「眠るアンドレが寂しがらないように、私の墓にも手向けたい。2人は互いに半身同士だったから…だけど…私だけこうなってしまったが…」

 と、視線を下に向け、小さく憂いを含んで微笑んだ。







 ひとしきり食事を終え、デザートも食べると、
オスカルが
聞きたい事がある。
と彼に言う。 


 「さっき途中で話が終わったが…お前が大学を卒業した時にばあやから不思議話を聞いた、という所だけれど…」
 ああ、とアンドレはミネラルウォーターのグラスを飲み干すと、思い出すように上を見上げた。 

 「俺が大学を卒業して直ぐに、おばあちゃんから、代々受け継ぐ土地などがあるから、継承して欲しいって言われたんだ。俺の家は昔で言う平民だけど、フランス革命後に当時先祖が勤めていた大貴族の主が、うちの親戚筋を捜し出して、功労に感謝したいと、極秘に色々な遺産を継承したとかで、その継承した土地や、遺産をずっと守ってきていたんだ。
それを俺が大学卒業の時に、将来やりたい事の為に使いなさいと、継承して…
不動産会社と輸入品会社を立ち上げたんだよ。でも、その大貴族、というのがわからなくて…。わかっているのは、この紋章だけなんだ」

 と、アンドレは携帯の写真を見せた。



 その写真を見た時、オスカルは声を上げてしまった。


 「どうした?オスカル」 

 「これ……。剣を持った青獅子の紋章……」

 「ああ。そうなんだよ」


 「ジャルジェ家の紋章だ」

 「え!?…じゃあ……俺のご先祖が奉公していた大貴族というのは…」 

 オスカルは、紋章を見つめながら、涙を溢した。

 「ばあやに親族がいたのだな…。そして…アンドレ…。お前は私の夫、アンドレ・グランディエの子孫だ。…どうりでそっくりだと思った…」

 アンドレからハンカチを受けとると、目頭を拭いた。 

 「俺が、オスカルの夫の子孫…」

 「アンドレ、正直に私は嬉しい。何故この時代に来たのか判らなかったが、私はお前に会えて本当に嬉しい…」

 「オスカル。でも、俺は子孫と言うだけで、この先オスカルを幸せに出きるかどうかは自信がない」 

 「はは、それはそうだ。血は繋がっていても、顔が似ていても…みな人生は違う。そうだろう?それに、突然やってきた私を、お前が愛してくれるとは限らない…」 
 オスカルは寂しそうに呟いた。

「それは…」
と、アンドレは言おうとしたが、オスカルの
白い手が制した。
言わなくていい、と。
お前はお前の人生があるのだから、と。


にこりと笑みを作ると、オスカルが言う
 「では、アラスでお前のご先祖様のお墓参りが出来るな、アンドレも。私の大切な、代えがたい愛する夫だ。優しくて、包容力があって…。それを思えば、お前に似ている。
いや、そっくりだアンドレ」

 「そう…かな…?」 

 「ちなみに聞くが、お前の誕生日は?」

 「1990年8月26日」

 オスカルは、大笑いをした。

 「な、なに?」 

 「そこまで同じとはな…夫と。では今月で34歳か」 

 「誕生日まで同じなのか?」

 オスカルは笑いながら頷く。
 「もう…何が起きても驚かない。アンドレ。2024年に来て良かった…。
さあ、私の夫のお墓参りに行こう。きっと導かれて私たちはアラスに行くんだ」



 アンドレが選んでくれた、裾の長い
立体的花刺繍をたっぷり縫い付けた、夏らしいドレスを着たオスカルが立ち上がり、彼を促した。







 こんな女性らしいドレスを着たのは、あの舞踏会以来だな。 

 そう、懐かしく思い出しながら、
アンドレの手に手を取り





 2人は真っ赤な、シトロエンに乗り、



 アラスへと向かって行った。





 続く