夜更けの換毛。 | 境界線型録

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I Have A Pen. A Pen, A Pen Pen Pen.


 久しぶりに夜更かししているのは、つい今し方、エクソシストが終わったためである。例の悪魔払いである。悪魔が私に乗り遷ったのではなく、どこかの女優さんの娘さんになので勘違いしてはいけない。ウィジャ板なんか使ったりするからだ。

 今日は午後二時頃から観賞活動に忙しく、午前は久しぶりに商用代筆に没頭し、けれどどうにも腹が決まらず、昼にカレーうどんを体内に注入して肝臓を労り、されど主題を決められず、エエイままよと腹を括ったのが、獣の換毛と花木の移り変わりこそは正に春の最高にドラマチックな出来事じゃないかと無理矢理思いこむことになったのであった。
 今夜の日記の主題も、これ。換毛である。
 私の頭も夏はセミ坊主未満になり、冬は慎太郎刈りよりちょっと長めに換毛するが、野生の兎の換毛活動の見事さにはとうてい太刀打ちできない。という感動をモチーフとして、商用代筆をやったのであった。
 もちろん、ただ毛の話だけなら禿頭の威光に敵うものではないが、獣の換毛行為は、なんと、四季折々にポコポコと開く花の移ろいと同時並行的に実行されたりするから代筆ネタにしやすかったのである。参考までに記すと、初春の冷たさに色を滲ませる梅があり、間もなく桃が騒ぎだし、そうこうするうちに桜が乱痴気騒ぎを始め春となるが、そのような花木の動きと獣の換毛活動は、リンクしてるじゃん、という話である。つまり、花と毛の抜き差しならない関係について書いたわけだ。昨年のものより、少々雑だけど、とりあえず商品として売却できるレベルになった。

 時間は、けっこう要した。着想は昼のカレーうどんを啜っている間だったが、ひとまず資料集めするに際し、無音では気分が乗らないので、五十五でローリングストーンズの復活ライブを流した。これは、何度観賞しても飽きない。バディ・ガイの後にキースのブルースをやる辺りが可笑しくて堪らない。
 途中で代筆のクロージングに思い至り、一時停止した。午後三時過ぎだった。
 ガガッと一気に書き上げるつもりだったが、ひと呼吸置き、とりあえず風呂を沸かした。なんとなく、早めに入りたくなったからだ。
 そして、給湯器の涌かすスイッチをオンにすると、一気呵成に書き上げた。
 近年希なパフォーマンスだった。まるで現役代筆屋のような勢いだった。バシバシバシッと三本指でキーを叩いては鼻をかみ、どうにも鼻水が流れ続けるので、焼酎を呑んだりして大変だった。
 しかし、私はやり遂げた。いや、まだ完成ではなく、明日と明後日、再読再々読して雑味がなければ完了だが、気持ち良い時間だった。
 すでに午後四時半を回り、風呂が沸いていたので、入湯した。良い湯だった、ハハハン。

 風呂上がりに一服すると、すぐさまストーンズのライブに向かった。最後のサティスファクションまで聴かないとアレだから。
 ミックの腰つきを眺めながら、裕也さんのことを思っていた。あの腰つきは無理だよなァとか。
 などと思いつつ、晩ごはんの仕度をした。コロナで時短になった妻は、午後七時には帰宅する。もう時刻は五時半に迫っていた。
 今夜の献立は、酢豚と餃子に決めていた。なぜならば、先々週作った餃子が十二個、冷凍してあり、さらに、先週はインスタントの酢豚を買ってあったからだ。いつも二百何十円なのに、その日はなんと百五十八円だったからである。あーた、そのような空前絶後の機会を見逃せはしないでしょう。
 しかし、インスタント酢豚では寂しいので、私は豚ロースの厚切りも一片用意していた。主にトンカツなどに使用するものだが、小ぶりの二百グラムぐらいのやつが二割引になっていたので、やはり凍らせてあったのだ。冷凍庫から、「さあ、もう、氷河期は終わりだ」と囁きながら豚ロースを取り出し、インスタントに参加するのは辛いだろうが、頑張っておくれと励ましつつさらりとした豚唐揚げにした。
 インスタントものはあまり美味くないが、溶けたての新鮮な豚唐揚げと筍や人参や木耳や玉葱やピーマンがあれば、そこそこ立派な中華料理に育つ。あのインスタントものの場合、ケチャップと酢を少し混ぜると、けっこう良い線にいくのである。
 同時並行で、凍りついていた餃子も焼いた。これは溶かさずに多めの水でやれば良いだけで簡単だ。仕上げは弱火で根気良くやるくらいが注意すべき点である。
 そして、餃子が焼き上がる直前、妻が帰宅した。ストーンズがライブを終えた、十数分後のことだった。

 午後七時過ぎ、晩餐は始まった。
 五十五でテレビ番組を流されては鬱陶しいので、私は、酢豚と餃子のディナーには、映画が似合うと主張した。妻も納得し、映画を鑑賞しながら本格的冷凍インスタントのチャイニーズディナーを愉しみましょうということになった。
 セレクトは私に一任された。なんでも良かったが、私はアーカイブからエクソシストを選んだ。
 得体の知れない敵と戦っている現代人には、得体の知れない敵との戦いを克明に描いた映画が相応しいからだ。眺めながら、何度か、コラッ、こんな時に反吐を吐くなッと腹が立ったが、どうにか本格的冷凍インスタントのチャイニーズディナーは、美味しく平らげることができた。
 明日も似たようなスケジュールになるだろうから、なにか、もっと軽い映画にしよう、と思った。
 悪霊と別れてから、グズグズとなにか話したりするうちに、夜が更けていた。
 あと数十分で、明日になる。こんな時刻まで生きていたのは、何ヶ月ぶりだろう。
 もう、あまり体験したい時刻ではないが、本当に久しぶりなので感慨深く、眠ってしまう前にひと言ご挨拶だけ記しておこうとアメバにログインしたら、相変わらず要らないことをツラツラしてしまったのであった。